ゼーレンヴァイス   作:朽木 堕葉

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 それは一見すると、ゴーレムのように見えた。予算度外視で造り上げたら、こうなるのかもしれない。

 ゴーレムにさらに外部装甲を取りつけ、最新鋭の武装をさせ、 青と白に趣向を凝らした色塗り(カラーリング)で仕上げたといった具合の。 

 見様によってはそう映るが、突出すべき点は――背後にある虹の大樹の半分を誇る大きさであることだ。

 謎の遥かなる巨人に、ざわつき始めた。

鉄の(アイアン)ゴーレムの十倍以上はあるんじゃないか?」

 揺れが鎮まった頃合いで、騎士のひとりが言った。震え声で。

 ごくん、と固唾を呑む気配が、そこかしこで湧いた。今度は魔導士の一人が、ゾッとして口にした。

「な、なあ……。アレ、なんだか動いてないか?」

 その(げん)に、互いに顔を見合わせるものが続出する。勘違いじゃなくて、やっぱり、そう見えるのか――という表情をぶつけ合う。

「こっちに向かって来ている……」

 つぶやいたあとで、アズランドはハッとなった。振り返り叫ぶ。

「エリーゼ! リザの居場所は! キミがリザを匿ったという場所はいったい、どこなんだ⁉」

 エリーゼもきょとんとなっていたが、その一声で我に返ったようになった。そしてまた、彼女も愕然となり、応じた。

「リザなら、今はアピス農村にいるはずよ! 王都からほど近くて、親睦があったのは、あの村長さんくらいだったから」

 エリーゼが言い終わる前に、アズランドは石畳を蹴って走り出していた。数頭の馬が繋がれた仮設厩舎(きゅうしゃ)へ。一匹の馬の背に飛び乗った。

「くそっ! たしかに、最適な場所だが、それがこうして裏目にでるのか……!」

 悪態をつき、(あぶみ)を踏み、手綱を操る。「間に合ってくれ、頼むっ」と祈り、馬を駆馳(くち)させてアピス農村へと急いだ。

 

 

 見る間に小さくなってゆくアズランドの背を見送ったオネスト騎士団長の眼に、決意の光が揺らいだ。

「魔導士たち――イクトスたちが(ほの)めかしていたのが、アレか……」

 レグナシオンがつぶやいた直後、オネストが手錠を外した。

「なんの真似だ」

 眉間にシワを寄せ、レグナシオンは問う。オネストは豪快な笑みで応じた。

「我らの本当の死に場所は、ここではないようだぞ。元戦術師範殿」

 すると、レグナシオンがくつくつと喉の奥で笑い――やがて腹を抱えての大笑いに変わった。

 それはロウェルが子供の頃、よく見た顔だった。とりわけ、夢を語り合うときの。

「おっさん……」

「ワシはとっくに諦めた身の上だ。だが、たしかに、ここを死地にするのは御免だの」

 レグナシオンは厳めしい調子で言った。が、笑いの余韻が残ったままのいまいち締まらない表情で、ロウェルは可笑しかった。これも昔、さんざん目にした覚えがある。

「いいわね。面白そうじゃない。私の手錠も外してよ。ただの図体だけのゴーレムもどきじゃ、拍子抜けだけど」

 乗り気の様子でフォティアが唇を吊り上げる。

 オネストはしばし迷い、フォティアから手錠を取り払った。

「ほら、私の斧槍(ハルバード)も」

 なにしてんの、というふうにフォティアに睨まれ、

「あ、ああ……そうだったな」 

 困惑気味にオネストは接収した武器をひとまとめにした場所から、注文通りの斧槍をフォティアに手渡した。

「あんがと」

 浮かれてフォティアは、肩慣らしというふうに斧槍を一連の動作で振るっていった。一通り終えたあとの、強気な笑みからするに、調子は良さそうだ。

「あの娘も戦士たる矜持(きょうじ)を持って臨もうとしておる。気にするでない」

「……そうか。そうだな。今や男も女も――老人も子供もないのだろう」

「そろそろ発つとするか。願わくば、最後に酒でも引っ掛けたいところだったが」

「秘蔵の名酒があるのだがな。取りに寄る時間は惜しいな」

「では、まあ――そのためにも奮闘するとするか」

 冗談じみた会話をオネストとレグナシオンが交わしながら、仮設厩舎(きゅうしゃ)に向かう背に、ロウェルが叫んだ。

「待ってくれよっ。俺も連れてってくれ!」

 二人が振り向いたが、そこに待ったをかける声が響く。

「ダメです、ロウェルさん!」

 サラだった。息を切らしながら、つづけた。

「今のままでは勝機はないと思います。例えみなさん全員が協力したとしても、歯が立たないはずです」

「じゃあ、俺にこのまま黙って見てろっていうのか? そんなのできるわけないだろ」

 ロウェルにしては、問い詰めるような物言いになった。エリーゼがロウェルとサラを交互に見遣り、

「待ちなさいよ、ロウェル」

 それからサラに訊いた。

「なにか妙案があるというの、サラ?」

 サラは息を整え、顔を上げた。不意に風が彼女の長い前髪を持ち上げる。愛らしい大きな瞳には、不安と確信が見え隠れしていた。

 そして、声を振り絞るようにして、はっきりと伝えた。

「一つだけ、可能性があります。アレを打ち砕けるだけの。それは付け焼き刃になるかもしれませんが――」

「それってまさか……」

「今一度、錆ついた鋼鉄(ラスティー・スチール)になって欲しいんです。おそらくは、最後になると思いますが」

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