ゼーレンヴァイス   作:朽木 堕葉

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 サラに案内された場所は、どこかと思えば〈蝕天秤(エクリプス・リーブラ)〉だった。

「あれは……」

 扉を開くなり、目に飛び込んできたものに、ロウェルは目を丸くした。カウンターのうえに置かれた杭打ち機は、もっとも長い付き合いと呼べるほど、見慣れたものであるはずなのに――違和感があった。

爆噴杭打(エクリクスィ)はおっさんに壊されたのだから、あれは不屈杭打(エテルノ)のはずと思った。いずれにしても、表面は錆色である。

「すみません、急ごしらえでしたので」

 サラは杭打ち機以外のカウンター上で取っ散らかっている工具や、ボルト、金属片を慌てて処理した。といって、脇に押しやっただけだが。図面らしきものは、畳んで懐に入れていた。

「これがロウェルの新しい杭打ち機なの?」

 エリーゼが言った。なんだか、よくわからないけど、というふうに。

「いえ、違います。あっ、そうといえばそうだったんですけど」

 サラは頷き、それから慌てて首を横にぶんぶん振った。コホン、と咳払いをして、説明する。

「修復は無理でしたので、火薬式とバネ式――両方を一つに備え、状況に合わせて使い分けが可能になるように設計して改良したんです。……そのぶん、重量マシマシですが、ロウェルさんなら大丈夫かなと」

「へえ。一つで二つのことができんのかー。いいじゃん」

 ロウェルは素直に顔を綻ばせたが、エリーゼは呆れ顔になった。

「サラ……。あなたねえ。ゴーレムに付ける武器を造っていたのはわかるけど、ロウェルはゴーレムじゃないのよ」

 偶然だろうか。背後でフラワーゴーレムが、頷くように首を上下させる。

「素材としては、ヒヒイロカネのほうが頑丈ですので、そちらを基礎(ベース)にしてあります」

 サラは誇らしげに注釈し、口元に笑みを浮かべる。

「そりゃそうか。火薬詰めてぶっ放しても、なんともないくらいだったもんなあ」

 ロウェルは腕組みをして感心すると、それを装着しようと手を伸ばしかけたところへ、

「待ってくださいっ。話はここからが本番なんです!」

 サラがあたふたと制する。

「えっ?」ピタッとロウェルの手が止まった。

 サラは唇をへの字にして、エリーゼに向き直った。じっと視線を注がれ――前髪で隠れて不明ではあるが――ともかくエリーゼは当惑した。

「な、なに? どうしたのよ?」

 深く息を吸って、吐いてから、サラは告げた。

「エリーゼさん、あなたが所持している妖精宝珠(スプライトジェム)が現存する最後の一つのはずです。それを、使わせていただけませんか?」

「どうして、わかったの」

 驚きを隠さずエリーゼは返した。

「職業柄、魔力物質には敏感なんです。あっ、元ですけれど」

「……そう。たしかに、ここにあるわ。ケートネスの置き土産だけれどね」

 エリーゼはドレスの胸元――谷間から手のひらを広げたサイズほどの妖精宝珠を取り出し、掲げてみせた。

「ど、どこに仕舞ってるんだよ、おまえ……」

 ロウェルは少し戸惑い、頬を赤らめた。エリーゼがツンとして肩をすくめて応じる。

「隠すにはちょうどいいのよ」

 そして、サラに向き直ると、本題に話をもどした。

「で、サラ。これをどうしようというの?」

 サラはすぐには答えなかった。頭のなかで、なにか考えを巡らせているのか、ぶつぶつとつぶやいている。やがて意を決したように、質問にこう返答した。

「急造品になってしまいますが、妖精宝珠を動力に用いた杭打ち機を造ります。ほとんど置き換えるだけで済みますので、わずかな時間で仕上げてみせます。幸い、杭の部分は無事でしたので、ヒヒイロカネとオリハルコンの二つの杭を同時に打ち込めば――打破を期待できるかもしれません」

「あなた正気!? 妖精宝珠を動力にするというの?」

 エリーゼは目を見開き、眉を曇らせた。

「扱いに関しては、これまでと一緒です。握り手の(くぼ)みを強く押すだけで、妖精宝珠のすべての力が一瞬で解放されるように調整します」

すべて(・・・)を一瞬ですって? それでロウェルは無事でいられるのっ?」

 エリーゼの目つきが鋭くなり、サラは肩をすぼめ委縮(いしゅく)しながらも見解を述べた。

「ロウェルさんのことですから、死ぬことはないと思います。もちろん、保証はできませんが……」

 ただ、と付け加え、

「腕の一つを失うことになるのは、避けられないでしょう」

「サラ! あなた――」

 物凄い剣幕でサラに詰め寄ろうとしたエリーゼを、ロウェルは太く力強い腕で阻んだ。

「いいんだ、エリーゼ」

「ロウェル……」

 エリーゼが蒼然となって、その腕を注視していた。今し方、サラが消えてなくなると宣告したものを。

 ロウェルはエリーゼのほうへ振り返り、ニカッと笑ってみせた。

「それでアイツを止められる可能性があるなら、俺はやってみたい」

「バカ……!」 

 エリーゼはロウェルが伸ばした腕にしがみついた。間際に、悲痛な表情が見えたような気がしたが、顔さえも押しつけられた。

 押し当てられている柔らかな胸の感触にも、気が気ではなく、照れくさそうにロウェルは、安心させるように伝えた。

「平気だって。自分で言うのもおかしいけどさ、俺ってタフだし? サラも死なないって言っただろ? なんも心配することないじゃんか?」

 エリーゼが打ち震えるのが、腕を通してロウェルに伝わった。

「人の気も知らないで……!」

 泣くとも怒るともつかない様子の声が響き、ロウェルは腕に熱を覚えた。エリーゼの唇が触れた感触が。

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