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落ちてきたリザをアズランドは両手で受け止めた。
出血は見られない。いつもと変わらず、綺麗なままでいる。しかし、リザは満足に身体を動かすことができないようで、わずかに身じろぐようにして、アズランドを見た。
「ア、アズ……来て、くれたんだ――」
絞り出すようにやっとのことで、リザは声を出した。
「ああ、俺はここにいるよ。だから、もう、大丈夫だ。安心してくれ」
アズランドは強いて微笑を表した。今にも崩壊しそうな脆さで。
「ア、アズ――」
リザはなにかを伝えたがっていたが、あまりにもつらそうで、意図を察し――そして堪らず、アズランドは彼女と口づけを交わした。
リザは生きている。これ以上ないほどに、その事実を噛みしめていた。決してこれは、現実逃避なんかじゃないと、自らに言い聞かせて。
そっと顔を離すと、照れくさそうにリザは微笑んだ。必死に口を開いた。これだけは、伝えておきたいというふうに。
「いつも、アズはアタシのことわかってくれる……ね」
「当たり前さ、そんなの。言わなくたって、わかる。それに、俺もそうしたかったんだ。……これからだって、そうだよ」
リザの瞳から溢れた涙が頬を流れ落ちた。
「ありがとう、アズ。ごめん、ね……」
リザの首ががくんとなり、身体を支える両腕の重さが増した。それっきり、リザはなにも喋らなかった。嬉しそうな微笑みを湛えたまま。
「リザ……?」
アズランドは呼びかけたが、返事はない。少しだけ身体を揺すってみても、反応はない。
「なあ、リザ。こんなときにそんな冗談はやめ――」
愕然となって言い
「目標沈黙。
ザド・キルエがアズランドたち目掛けて拳を振り下ろしてきた。まるで隕石が落ちてくるようなものだった。
「
「
と、叫び声とともに壮絶な轟音が鳴り、その隕石じみた拳が軌道を変え、突風を巻き起こして頭上を通り過ぎていった。
アズランドは見ていなかったが、会話だけが耳には届いた。
「衰えぬものだな。王宮暮らしですっかり錆びついたかと思っておったが」
「そちらこそ、
レグナシオンとオネストの二人だった。
「ちぇっ。今の私には
後背からも声がした。ふてくされた女性の声――フォティアだ。
「焦る必要はなかろう。今は無理でも、より
サロース塔長が宥めた。言葉のあとで、しばらく咳き込んだ。そして、物憂げな表情でアズランドに視線を向けたが、掛ける言葉がなかったのだろう。厳しい顔でザド・キルエの巨躯を見上げた。
「アレが、
「デカいだけの
フォティアが強がった口ぶりで言う。
「新たな敵性体を複数確認。一定の戦闘能力を有すると断定。最適化のため、戦力の分散化を実行――」
ザド・キルエが巨眼で新たに現れた面々を認識し、独特な表現を並べ立てる。俄かに、その巨体が変化し始めた。
ある者は唖然となり。ある者は呆然となり。
ザド・キルエが二つに分かれるのを目の当たりにした。
そこからさらに、二つに分かれ――四体のザド・キルエが横並びになる光景は、如何にも立ち塞がる強敵といった具合だった。
ただ、分裂したことで一個体の体積は小さくなっている。それでも、主兵器であるゴーレムの最大規格の二倍以上はありそうだったが。
だが、みなが着目していたのは、本体がリザから受けた損傷がそのままに分裂していることだった。それを察して、一個体だけ、青い光が損傷個所――胸部あたりから漏れているのを目にするに至り、突破口は共通認識となった。
「とにかく、足並みを揃えて前に出ようではないか。奴らがこの農村に踏み入ってくる前に」
オネストが大剣を掲げ提案し、
「そうだな。……あの娘の行為を無下にはしたくないところだ」
サロースが長大な剣を握りしめる。
「あの青年は放っておいて平気なのか? たしか、お主のところの魔導士だったのではないか?」
「……神もあまりにも酷な試練をお与えになるものだ。が、この試練からなにかを導き出せることを祈るほかない」
ふむと唸り、オネストは配慮からか、それ以上は触れなかった。
「人は死ぬもんなんだ。殺し、殺され――その繰り返しじゃない」
歯切れが悪そうに、フォティアがアズランドを一瞥した。
「なにをもたついているのかはわからぬが、ロウェルもじきにやってくるであろう。そうなれば戦況も変わるはずだ」
悠然と武芸の構えをとるレグナシオンの期待を帯びた声に、フォティアがやる気に満ちて笑った。
「来る前に片をつけてさ、驚かせてやろうよ」
息巻くと、
「よし、では行くぞっ」
オネストが号令をかけるや否や、フォティアが飛び出した。
「本体の相手は私がするよ!」
熟練の猛者たちは、肩をすくめて顔を見合わせると、出遅れることなく、あとにつづく。
「敵性体が接近。各個、撃滅」
ザド・キルエの声が四つに重なり、奇妙な大声量となった。