ゼーレンヴァイス   作:朽木 堕葉

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ノット・ヴァイス・ヴァーサ 命にこそ意思は宿りⅡ
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 落ちてきたリザをアズランドは両手で受け止めた。

 出血は見られない。いつもと変わらず、綺麗なままでいる。しかし、リザは満足に身体を動かすことができないようで、わずかに身じろぐようにして、アズランドを見た。

「ア、アズ……来て、くれたんだ――」

 絞り出すようにやっとのことで、リザは声を出した。

「ああ、俺はここにいるよ。だから、もう、大丈夫だ。安心してくれ」

 アズランドは強いて微笑を表した。今にも崩壊しそうな脆さで。

「ア、アズ――」

 リザはなにかを伝えたがっていたが、あまりにもつらそうで、意図を察し――そして堪らず、アズランドは彼女と口づけを交わした。

 リザは生きている。これ以上ないほどに、その事実を噛みしめていた。決してこれは、現実逃避なんかじゃないと、自らに言い聞かせて。

 そっと顔を離すと、照れくさそうにリザは微笑んだ。必死に口を開いた。これだけは、伝えておきたいというふうに。

「いつも、アズはアタシのことわかってくれる……ね」

「当たり前さ、そんなの。言わなくたって、わかる。それに、俺もそうしたかったんだ。……これからだって、そうだよ」

 リザの瞳から溢れた涙が頬を流れ落ちた。

「ありがとう、アズ。ごめん、ね……」

 リザの首ががくんとなり、身体を支える両腕の重さが増した。それっきり、リザはなにも喋らなかった。嬉しそうな微笑みを湛えたまま。

「リザ……?」

 アズランドは呼びかけたが、返事はない。少しだけ身体を揺すってみても、反応はない。

「なあ、リザ。こんなときにそんな冗談はやめ――」

 愕然となって言い()すと、打ち震えた。

 慟哭(どうこく)(ほとばし)り、アズランドはリザを抱きしめた。ふと、二人に影がかかった。

「目標沈黙。妖精宝珠(スプライトジェム)の破壊を実行」

 ザド・キルエがアズランドたち目掛けて拳を振り下ろしてきた。まるで隕石が落ちてくるようなものだった。

極拳(きょっけん)!」

剛斬(ごうざん)!」

 と、叫び声とともに壮絶な轟音が鳴り、その隕石じみた拳が軌道を変え、突風を巻き起こして頭上を通り過ぎていった。

 アズランドは見ていなかったが、会話だけが耳には届いた。

「衰えぬものだな。王宮暮らしですっかり錆びついたかと思っておったが」

「そちらこそ、(なま)っているのではないかと案じたが、杞憂だったか」

 レグナシオンとオネストの二人だった。

「ちぇっ。今の私には(さば)けないよ」

 後背からも声がした。ふてくされた女性の声――フォティアだ。

「焦る必要はなかろう。今は無理でも、より熟達(じゅくたつ)すればよい」

 サロース塔長が宥めた。言葉のあとで、しばらく咳き込んだ。そして、物憂げな表情でアズランドに視線を向けたが、掛ける言葉がなかったのだろう。厳しい顔でザド・キルエの巨躯を見上げた。

「アレが、聴こえていた(・・・・・・)者が予見していたものか」

「デカいだけの木偶坊(でくのぼう)じゃなきゃいいけど」

 フォティアが強がった口ぶりで言う。

「新たな敵性体を複数確認。一定の戦闘能力を有すると断定。最適化のため、戦力の分散化を実行――」

 ザド・キルエが巨眼で新たに現れた面々を認識し、独特な表現を並べ立てる。俄かに、その巨体が変化し始めた。

 ある者は唖然となり。ある者は呆然となり。

 ザド・キルエが二つに分かれるのを目の当たりにした。

 そこからさらに、二つに分かれ――四体のザド・キルエが横並びになる光景は、如何にも立ち塞がる強敵といった具合だった。

 ただ、分裂したことで一個体の体積は小さくなっている。それでも、主兵器であるゴーレムの最大規格の二倍以上はありそうだったが。

 だが、みなが着目していたのは、本体がリザから受けた損傷がそのままに分裂していることだった。それを察して、一個体だけ、青い光が損傷個所――胸部あたりから漏れているのを目にするに至り、突破口は共通認識となった。

「とにかく、足並みを揃えて前に出ようではないか。奴らがこの農村に踏み入ってくる前に」

 オネストが大剣を掲げ提案し、

「そうだな。……あの娘の行為を無下にはしたくないところだ」

 サロースが長大な剣を握りしめる。

「あの青年は放っておいて平気なのか? たしか、お主のところの魔導士だったのではないか?」

「……神もあまりにも酷な試練をお与えになるものだ。が、この試練からなにかを導き出せることを祈るほかない」

 ふむと唸り、オネストは配慮からか、それ以上は触れなかった。

「人は死ぬもんなんだ。殺し、殺され――その繰り返しじゃない」

 歯切れが悪そうに、フォティアがアズランドを一瞥した。

「なにをもたついているのかはわからぬが、ロウェルもじきにやってくるであろう。そうなれば戦況も変わるはずだ」

 悠然と武芸の構えをとるレグナシオンの期待を帯びた声に、フォティアがやる気に満ちて笑った。

「来る前に片をつけてさ、驚かせてやろうよ」

 息巻くと、戦斧(ハルバード)を肩慣らしというふうに振っていた。

「よし、では行くぞっ」

 オネストが号令をかけるや否や、フォティアが飛び出した。

「本体の相手は私がするよ!」

 熟練の猛者たちは、肩をすくめて顔を見合わせると、出遅れることなく、あとにつづく。

「敵性体が接近。各個、撃滅」

 ザド・キルエの声が四つに重なり、奇妙な大声量となった。

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