逃げ出した虫けらの頭   作:ナチュラル7l72

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死ななきゃ安い

とりあえず、状況を纏めよう。

 

光る沼を覗き込む。そこにはまるであの人間のような形の体があった。

 

(視界が…これが私の目か?小さい…さらに蓋のような皮膚が上から被さっている?)

 

慣れない視界に慣れない手先。思わず2つしかない大事な目玉に指先を突っ込んでしまいそうだ。

そして自由に動かせる胴体から左右に生えている腕と脚。元の身体と比べてまるで筋肉量が足りていない。そのせいで高く飛ぶこともできないし元の身体のように頭突きで敵を粉々にすることも難しいだろう。身体能力が著しく低い。

 

ここまでがあの人間と同じ部分。しかしあの人間との差異もみられる。

まず髪。燃え尽きた灰のような色と艶のない髪質。そしてそれは腰に到達するほど長く伸びていた。私が覚えているあの人間の、頭突き一撃で生物からぐちゃぐちゃの肉塊になり兜がひび割れその隙間から見えた、髪は茶髪だったはずだ。

そして性別。私の元の身体に性差などなかったが人間や多くの動物には性別が存在する。あの人間はおそらく男だったと思うが私のこの体。伸びた髪にしなやかで筋肉があまりついていない四肢、膨らんだ胸元。あまり人間に詳しくない故に恐らくとしか言えないが恐らくメス、女になっている。

 

「ぐ、ぅう。なんでこんな事に…」

 

あとさっきから目から水が止まらない。拭っても拭ってもべちゃべちゃと水が出てくる。一人孤独になってからこの私の知能をもってしても全く理解できない事象が起こっていることにやりきれない怒りと悲しさが止まらなかった。

 

「ふぐっ、ぐえ、ぶええ」

 

しかしそれでも私は止まるわけにはいかないのだ。全てを食い尽くしてみせる。そう誓った私は嘘ではない。だからこの忌々しい湖も全部飲み干してくれる!

 

「ごぼごぼごぼ」

 

ぐわあ体が透けてどんどん落ちていく…。何故こんな事に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一度狼狽えるのを止め冷静になる。

取り乱した脳みそでは考えられなかったこの体の利点が次々と思い浮かぶ。

1、装備が着れる。

2、アクセサリーを付けれる。

3、人間の住処に忍び込める。

今までぼりぼりと食べることしかできなかったアクセの使い道ができた2も大事ではあるが特に重要なのが3だ。

あの人間が着ていた装備、私は今まで宝箱や瓶の中をくまなく探したが一度も見たことがない。十中八九自家製、自分で鉱石を製錬し兜、チェストプレート、シューズを作っているのだろう。

私の知識では装備を作ることはおろか窯や金床さえ作れない。故に鉱石をインゴットに製錬することができないのだ。そんな状態でいったいどうやって装備を作ればいいのか。そう、人間共の住居に侵入することだ。

それさえできればこの小さな肉体の力、強度を外付けで強化することができる。これは…勝ちじゃな?

 

 

…ポジティブに行くのはここまでだ。変化には比重が違えど必ずメリットとデメリットがある。そしてこの変化では、圧倒的にデメリットが大きい。

まず体が貧弱ということだ。私が今まで貪ってきた鉱石や黒曜石、アクセサリーなどの類の力はこの姿になろうとも受け継がれているということが感覚としてわかる。前の肉体では鉱石や黒曜石を食べることで私の外郭を覆っていた骨格がどんどん固くなっていった。その性質はいまだ受け継がれているはず、しかし人間の肉体は外側が皮膚と肉で構成されている。故に細い指で白い肌を押してみると硬さとは無縁のぷにぷにの触感が。これではすこし攻撃されただけで血を噴き出して死んでしまうではないか。

 

次に種の変化だ。私は元々ワームだった。しかし侮るなかれ。イーターオブワールドとしての私に敵うものは()の世界では一握りだろう。

しかし今の私はただの人間。それも装備もアクセサリーもなにもない矮小な人間だ。どれだけ口を広げてもあまり大きなものはかみ砕けないし歯も草食動物のようなすりつぶすようなもの。私の食生活とは向いていない。

 

そして、一番まずいのがこの地下空間における私の存在の変容の影響だ。爪も短く牙もない。いままでは私の雄々しい巨大な牙でもって土を掘り進めていたがそれができなくなってしまった。つまるところ、このままでは私は移動すらままならなず栄養価を見つけられず餓死する。

 

「うう、なんでぇ……」

 

うすうす気づいていた事実に打ちのめされた私は思わず地に随分少なくなった手を付けえずく。前の体では一滴も流れなかった塩水が目からまたも流れ始める。

なんで、私はこんな事になってしまったのだろうか。

手持無沙汰に近くの岩を破壊しその破片を一つまみ口に放り込みなれない歯ですりつぶす。当たり前だが栄養価はまったくない。このまま一人寂しくおなかをすかせて死ぬしかないのか。この気持ちの悪い色をした湖を前に一滴も水を飲めず脱水症状と共に息絶えるのか。

 

「…いや、まだだ。私はまだ死んでいない。人間に負けて、無様に逃げて、土の中で汚く誓ったあの思いはまだ死んでいないのだ」

 

顎まで垂れた涙を拭って立ち上がる。まるで嫌なつきものが全部目から流れ落ちていってしまったかのようだ。クリアになった私は頭をクールに体をホットに、私がワームだった時にここに来た時の道のりを拳で広げていく。その道は人間になった私にとっては細く、硬く、険しいがそれでもあの日の屈辱と誓いに反するつもりは未だないのだ。

掘って、削って、崩す。必死になって腕を振るうが爪の間が汚れて腕が疲れていくばかり。

 

それでも、私は。

 

 

 

 

カン、カン、カン、

 

 

 

 

ふと、耳に独特の衝撃音が聞こえ始める。何かと何かを打ち付けるような音。明らかに自然外の異音。すわ栄養価かと振り上げた腕を下ろし顔を上げる。

音の先は石壁の奥。それがだんだんとひび割れていき音も次第に近くなってきていた。

 

 

 

 

カンッ

 

 

 

 

「…お前は」

 

ガラリと壁が崩れ音の波源が姿を現す。それは私がかつて敗れた人間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"お前は"

 

「NPC?確かイーターオブワールドのアイコンだったはずなんだけど…うわなんかアイコン変わってる。つーかビジュアルいいなピクセル画のくせに」




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