花の武者に魔王は蕩け   作:飴玉鉛

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歴史の勉強してたら遅れちゃった☆
頭バンクしそうだから、やっぱり本格的にはやれねぇわ(諦め)


悪四文字の接近

 

 

 

 

 

 

 英才教育と言えば聞こえは良いが、実態は洗脳教育だったのだろう。お前は安祥松平家に仕えるのだと言われ、三河武士として恥ずかしくない男子になるのだと厳しく鍛えられて育ってきた。

 

 であるのに松平は滅び、織田に主が変わった。

 

 分からなくなった。仕えるより先に、仕えるべき主を失ったのだ。

 

 仕えた後なら、教わった武士の道に殉じ、仇を討っていただろう。しかし仕えていないなら主であるとは言えまい。父から我らの主は織田になると告げられて、乱世の倣いだと言い聞かされた。

 だが納得できない。して堪るものか。言っていることが違うだろう、生涯を尽くしてお仕えするのだと言っていた主を、そうも容易く替えるのは、父の嫌う変節漢と同じではないか。

 

 糾弾すると、父は頷いた。まさにその通り、であるから儂は織田様にお仕えできぬ、と。お前が元服すれば、儂はお前に家督を譲り隠居しよう、と。

 

 本多の家はお前の代で、織田に尽くすのだ。それが本多の、ひいては三河の為となる。父は無念そうに言ったが、やはり今までの己が受容を拒んだ。

 当主を替えたら良いのか、それは首の挿げ替えだ、卑怯である――世の道理と摂理を知らぬ未熟な小僧の糾弾に、しかし父は気迫の抜けた貌で頷いた。

 

 全く以てその通り。ゆめその在り方を損なうな、お前は正しい。

 

 尊敬する父だったから尚更に、負け犬のような面をした父の変節が汚らわしく思えてならなず、これまで授かってきた教えにまで厭悪の情は波及した。

 解らない。解らない。武士とはなんだ、誇りとはなんだ、忠節とはなんだ。

 解らぬから悩むのを辞め率直に疑念をぶつけることにした。父を直視できぬゆえ家の養子になった、血の繋がらぬ兄、八幡大菩薩の化身を称する高名な武士に。義兄とは共に育んだ結束はおろか血の繋がりもなく、彼が織田の者だったから訊けたのだろう。でなければ恥ずかしくて訊けたものではない。

 

 

「兄者、武とは一体如何なるものか、武士の在るべき姿とは何か御教示くだされ」

 

 

 書斎で筆を手に、書面を作製している最中だったらしい義兄は、時を弁えず唐突に訪れた義弟に呆れた様子だったが、律儀に筆を置いて答えてくれた。私見でよいならと前置きをして。

 

 

 ――武。この一字には幾つかの意味が付随しているが、本質は単純である。武の本懐は勝利を得ることであり、語源や後付けの意味は当世だと虚飾となっている。武術もそうだ。弱者が強者に勝つ為の術だと嘯く武芸者もいたが、闘争にて勝利を得る為という意義から外れていない。勝てるなら良い、勝てないなら無価値。勝つからこそ武に意味は有る。

 

 ――しかし勝利を希求するが余り、手段を選ばぬならたちどころに武は暴へと変身する。我らが生きるのは人の世であるから、暴力は畜生の理として唾棄し、人の理を履行する為に武力という枷に嵌めねばならない。暴を武に押し留めるのが誇りであり、誇りとは心に決めた生き方を貫く信念である。

 

 

「誇りや信念、武や暴の区別になんの意味がある?」

 

 

 ――何もない。

 

 

「何も?」

 

 

 ――左様。

 

 義兄は体の向きを替え、正面に義弟を迎えて瞳を見据えた。真っ直ぐで、愚直な瞳だった。

 

 ――武と暴の区別も、誇りも信念も、意味のない戯言だ。しかし……今、此の世に生きている我らの心にとっては違う。鍋之助、解るか。

 

 

「分からぬ。父は無意味とは言わなかった」

 

 

 私見だと言ったろう、と義兄は苦笑した。鋼のような人に見えるのに、やけに人間臭い。鋼と人が合一したかのような印象に、知らず引き込まれた。

 

 ――我は思うのだ、此の世のありとあらゆるものに価値はないと。しかし心はそうではないと声高に否定している。なぜか? 我ら人は、否、生命宿すものは皆、快不快を感じる心を持ち合わせているだろう。極論人は己の心が叫ぶ快不快を指針に生きるものだ。不快を耐えるか、快を貪るかによって各々の生き方は変わってくる。鍋之助、お前は己の定める指針を持っていない。だから斯様に無為な問いを発するのだ。

 

 

「……武も、武士の在るべき姿までも快不快を指針にしているだと」

 

 

 受け入れ難い考え方に感じた。

 しかし義兄が照れたように笑いながら放った言葉を聞き、すとんと腑に落ちるものを感じもした。

 

 ――如何にも。……人の定めた理想の武士の姿は格好いいだろう。

 

 

「格好……いい?」

 

 

 ――見栄だ。男子は見栄を張って生きる。己は格好いい、こうすればより素晴らしい、そうした見栄を命を懸けて張り通す。だから理想の武士は他者を魅了し、敬意を集められるのだ。

 

 ――そうして見栄を張れていると気分が良い。自己満足の範囲を他者の命にまで広げて生きる、これが究極の見栄、武士の在り方だと愚考する。自己を正当化する卑劣な考えかもしれぬがな。

 

 

「見栄を張り、自己満足で生きる。それが武士だと? ……己が是とし、満足のいく生き方をするのが武士であると? 兄者は、そうお考えか」

 

 

 ――左様。乱世で戦い、命を殺めた時、我は惑った。こんなことになんの意味がある、こんな殺戮に意義はあるのか、とな。ないと決めつけてはあまりにやるせない。だから我は考えた。

 

 ――戦国乱世に生きる武家は、どれだけ権威や血統を盾にしようと、結局は純粋な強さというものを信奉する。勝てたら生き、負ければ死ぬ世界だから是非もない。能書きを垂れて勝てるなら是とするものの、負けたら負け犬の遠吠えに成り下がるゆえ知を軽視する。為に、我は武士から絶対的に認められた。

 

 ――強いからだ。明らかに人の域にない強さを目の当たりにしてしまえば、彼らは我という武の器に神を見る。戦国の神とは自身らを護り、勝利に導いてくれる者であり、我はまさしく武士からして絶対者なのである。そして我はこの力で、我が快とするものを他に強いるだろう。そして強いられた側が是として受け入れられたならなお良しだ。

 

 ――己の張る見栄を主が是とする、己が是とする、臣下が、民草が、天下が是としたなら。それこそが武の行き着く先、武士の在るべき姿、武士が主に捧ぐ忠節の終点だろう。

 

 

「…………」

 

 

 ――我にこれ以上の答えはない。納得できずとも下がれ。我は忙しい。

 

 考え込んでしまった義弟に、義兄はそう言って背を向けた。義弟は義兄の背をジッと見る。

 本多慶次郎利益。織田の家臣。デカく見えた。重いと思った。遠いと感じた……翻ってみるに、己はどうだ? この手のなんと小さきことよ。異を唱えるには、些か以上に頼りない。

 

 

「兄者。拙者はまだ未熟な身、得心のいく答えを見つけるまで、傍で学ばせて頂く」

 

 

 義兄はちらりと肩越しに義弟を見て、再び苦笑したらしい。

 

 ――是非もなし。見栄も張り通せば真に通ず。お前の前では粋がってみせねばならんな。

 

 剛勇無尽の士、本多平八郎忠勝が(あこが)れた男は、天下一の見栄っ張りだった。

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 武士でも臣でもない、領主としての慶次郎は暴君であり、名君であった。

 

 慶次郎が行う占領した国の統治は、元敵国の譜代衆や一門衆の取り込みから始まる。彼は独特な人材登用を行なっており、その一例として『報復屈従令』を発布していた。

 これは元敵将やその一門の者へ、指定された周期ごとに慶次郎に対して挑戦権を与えるもので、慶次郎を打ち破り殺めることを認める異例の法令である。慶次郎を討ち取れたならば旧主の統治権を認めて、支配者の座を回復するというものだ。代わりに報復の為に催した時と場以外では屈従を誓い、織田の為に働かねばならぬという契約を結ぶのである。

 この契約を結んだなら変わらず用い、不手際がない限りは罰せず、織田従来の臣とも区別なく扱うと約束し、慶次郎はそれを履行してきている。反面この契約を結ばず臣従するのも是とし、契約しないまま報復に出た者は当たり前に一族郎党ごと罰した。また契約を結んだのに指定した時と場でない所で襲撃されても、同様に一族郎党ごと処断している。

 

 こうすることで慶次郎は、旧主の敵討ちの為に臣従したのだという言い訳を相手に与え、ひたすら敵討ちに臨む相手を傷つけず無力化することで武力を示し続けた。

 

 武士もまた人であるゆえに、誰しもが強く在れる訳ではない。しかし武家としての体面は、家からの強制で命を懸けて保たねばならないのだ。故に本意でない行動に出ねばならぬ。慶次郎はそうした弱いのに強く在れとされる者へ逃げ道を用意してやったのである。すると、面白いほど嵌まった。

 今川の旧主義元の嫡男、氏真を自身の小姓にして傍に置いて、ある種のトロフィーに見立てた遣り口が白眉だったのだろう。今川の旧臣は旧主への忠義を捨てぬまま、或いは体面や名誉を護り、旧主の遺児を取り戻すという名分を保持したまま織田の禄を食めるのだ。 

 真に勇敢な武士もまた敵方の武士を敵のまま取り込み、純然たる武で心服させていく慶次郎の遣り方に感じ入り惚れ込んでいった。彼らにとって遺恨を気持ちよく晴らしてくれる遣り方だったからだろう。次第に旧今川家臣は慶次郎に屈し、契約を捨て心から仕えるという『美談』を量産していった。

 そして一時でも織田に屈するのを是とせぬ者は、そも最初から国を出ているか、戦で討ち死にしているか、契約を結んだ裏で不正に味方を募り襲撃して返り討ちに遭い根切りにされていた。

 

 一方で慶次郎は百姓に対して布告を発している。三公七民という税率で、戦国乱世では破格の善政を敷き、施行した法律も分かりやすく単純なものだ。盗みや殺し姦淫や詐欺を禁じるだけで、それで対処できない諍いには治安維持組織『見廻組』に対処させる仕組みを作っている。上にも下にも解り易い法整備を行い、自身は清貧に暮らして、与えられた家財や物品を惜しみなく配下に与えている。そうした明瞭簡潔な行いは多くの支持を集めた。

 暴君であり、名君であるというのはそういうこと。

 武君領主と称されることもしばしばある慶次郎は、自身の定めた法を厳格かつ強硬に押し付ける。その法を守るなら誰にでも寛大で、恐怖政治から恐怖の成分を抜き居心地の良い独裁を行う。報復の為に正しく挑む者は殺めず、圧倒的に勝ち続ける武力に拠った支配は、強さを信奉する者を魅了していたのだ。そして元は味方だった者が暗殺を仕掛け、返り討ちに遭えば慶次郎に対し喝采を送り、卑劣な行いに手を染めた身内を軽蔑した。

 

 過ぎたるは及ばざるが如しというが、違う。本当に行き過ぎた力の証明は、人が自然現象へ畏敬の念を懐くのと同じ心を与えるのだ。

 慶次郎は強すぎた。合戦で見せた武、平時に見せた武、いずれも人の域を超えている業であり、人々は慶次郎という器に『神』を見たのである。

 人が地震を止められる訳がないのと同じで、次元が違い過ぎ恨み辛みを向けられなくなっていた。アレは自分達とは違う、普通の人ではなく神仏の化身だというレッテルを張り、諦めたのだ。ゆえに愚かにも神に逆らって不興を買って、とばっちりで祟られる可能性を生む身の程知らずを疎むのだ。

 

『あのな? 統治に都合が良いのは解るが、あまり神格化せんで欲しいんじゃが。八幡大菩薩を祀る寺社が五月蝿くなるし。あと報復屈従令じゃったっけ、そいつは謀反を推奨しとるみたいで後のこと考えたら下策も下策、折を見てやめよ。普通にこっちも迷惑するじゃろ』

 

 筆まめな信長からの小言にも慣れたもの。「我の名声を高め、八幡大菩薩の加護があるのだという大法螺に説得力を与える為の措置に過ぎませぬ、時を見て法ではなく、祭りに転じさせる心積でありますゆえ心配無用」と返した。急ピッチで三河、遠江、駿河の統治を固める為の荒療治なのだ、これは。

 流石によそで施行する心積はない。お国柄で通用しない地域もあるだろうから。この脳味噌が筋肉で出来ているような支配は、あくまで三河などの武辺者が好む遣り方を適用したに過ぎず、やがては広く門戸を開いた相撲大会に近い祭りにでもして、入賞者に様々な形で報いる腹案はきちんと作っていた。

 

 そんなことよりも、だ。

 

『処遇に迷っている者がおりまする。ひとまず領国支配を固めた後に、義元の遺児、氏真はどうした方がよいか信長様のご意見を仰ぎたく』

 

 剃髪させて寺にでも入れろと信長は言うだろう。そしてその寺を監視する手筈を整えろと。そう予想しながら慶次郎は文をしたためた。

 こうして文を書いて遣り取りするのは、文書の機密性を考慮すると不便で仕方ない。自分と松風号を繋ぐ無線通信システムを、なんらかの媒体で再現して信長様にお渡ししたら色々捗るな、と不意に思いつき頭の片隅で作製案を纏め出した慶次郎だったが、今後の戦略を練ることも忘れていなかった。

 これより数年自身は駿河に籠もり、予想される武田からの侵攻や調略を跳ね除ける、専守防衛に徹することになる。慶次郎だけが破格の功績を挙げ続けるのは、慶次郎はおろか信長、織田家の家臣の為にならない。行き過ぎた勢力の膨張も破綻を招きかねない為、領土拡大は自重する期間に突入するのだ。やがて来たる雄飛の時に備え、じっくりと足場を固めて織田の勢力に地力を蓄える必要があるからだ。

 

 無論、織田の事情など何処も斟酌してくれまい。慶次郎が武田を抑えているからと、よそが黙ってくれているわけがなく、容赦なく襲い掛かってこよう。

 信長は背後の心配が要らない為、浅井と朝倉の攻略を予定しており、その準備期間中に三好や松永と交流を持つ傍ら、上洛して足利将軍家に面通しするつもりらしい。将軍家の義藤――後の剣豪将軍である足利義輝の前の名前――は最近三好家と和解したばかり。義藤は十一歳で第十三代将軍となり、まだ十五歳という若者だ。才覚はあるが畿内は動乱に包まれており、義藤は少しでも多くの味方を欲している。

 

『クマには打ち明けておくが、我は幕府とか朝廷をどうこうしようとは考えておらん。メンドクサイし幕府は残してええじゃろ。今の将軍が我をどう扱うかによっては、織田は将軍を支え室町幕府を復興してやるつもりでおる。が、我を舐め腐るようじゃと潰さねばならん。要するに協力者にはなるが頭を下げる気はないってわけじゃ。其の方はどう思う?』

 

 文での遣り取りだ。盗まれても良いように、全文が信長と慶次郎の二人で考案し、二人にしか読み解けない暗号文にしてある。暗号強度は慶次郎のお墨付きだ、そう簡単に解読は出来まい。

 

『信長様の意向、しかと心得た。現在織田は尾張、美濃、三河、遠江、駿河の五国を統べる戦国大名として屈指の大勢力。持ちうる戦力を結集するのは不可能でござるが、半分の力でも他国を圧倒しておりましょう。ゆえに今頃朝廷と幕府は、織田家と接近する為の口実を用意している最中と読みまする。信長様が御自ら歩み寄れば歓迎されるでしょう。将軍家も織田が後ろ盾、ないし同陣営となれば、三好、細川、松永と正面切って対抗できる。となれば、信長様の思惑は上首尾で終えようことは想像に難くありませぬな。ただ何時の世も足を引こうとする者は現れるのが常。三好らは当然、幕府や朝廷までも義藤と信長様との接近を阻もうとする者が現れるやも。くれぐれもご油断召されるな』

 

 主の文を読んで、返信をしたため終えた慶次郎は、勝蔵を呼びつけて文を届けさせようとした。信長が返信を受け取ったなら、其の方にも接触するじゃろうから気をつけよ、と返すだろう。

 無論、分かっている。細心の注意を払うつもりだ。さて、どうしたものかと今の内に考えを纏めておこうと演算モードに入――ろうとした時だった。慶次郎のセンサーが微弱な反応を掴んだ。

 

「……」

 

 そっと、傍に置いていた煙管を手に取る。脇差の小刀のように長く、重い、特別製の煙管だ。慶次郎は自然な所作で煙草の葉を詰め、火を点けて大きく呼吸した。

 白い煙を吐く。フゥーッ、と独特な匂いが広まる室内は仄かに暗い。日が沈み掛けているからだ。その間に無音のまま慶次郎のセンサーが働く。

 ()()()()()

 近い。何処だ。暗殺を仕掛けられるのに慣れていたゆえ、自然体のまま警戒を保持していたから気がつけたが、これは……相当近くに潜まれている。

 リラックスした素振りで寛ぐ態勢に移ろうとし、慶次郎は不意に迅雷の如く腕を振った。

 

 慶次郎は、()()()()()煙管を突き刺したのだ。

 

「なんト……っ!?」

 

 すると、どうだ。慶次郎の影に潜航していた何者かが弾き出され、驚愕しながらも空中で身を翻したではないか。慶次郎の煙管は彼が作製した対神秘兵装だった。効果は単一、ただ神秘を否定するプログラムの強制注入。自らの業を無効化された者は、自身を貫く慶次郎の殺気に反応した。

 超抜的な動体視力が不届き者の姿を捉える。影に潜んでいたのは、黒装束に身を包んだ小柄な男。しかし人体のほぼ総てがカラクリであり、生身の箇所は異能の反応がある左目、すなわち魔眼しかなかった。面妖な……呟きもせず、慶次郎は初速にして最高速を発揮し瞬時に動いていた。

 

「不覚。斯クなる上は――魔眼起動、全果心兵装並列起動――!」

「させると思うてか?」

 

 雌雄は瞬きの間もなく決した。ギラリと輝いた魔眼による動作の阻害、束縛を受けたのと同時に解析と解除を並列し、澱みなく煙管を一閃して忍のカラクリを打ち据えた。

 一撃だけに見えただろう。だが座っている態勢であるのにも関わらず、慶次郎の攻撃は五連した。目にも止まらぬ超高速連撃により、カラクリ忍者は四肢を分断され、胴体も破損し、首がころりと地面に落ちた。何も出来ずに無力化された忍は目を見開いており、まだ死んでいなかった。

 

 この状態からでも別れた四肢と連結可能と見た慶次郎は、油断無くカラクリを見下ろす。断面から構造を視認して、美濃の蝮の娘として来た帰蝶と同タイプの技術で作成された躯体と推定。慶次郎は凪いだ声音で淡々と問いかけた。

 

「貴様、何者だ」

「……」

「答えぬか。ならばよし、貴様をバラし全データを解析するまで」

「あいヤ、待たれヨ。ソレガシは怪しい者ではござらヌ」

「どの口がほざくか」

 

 嘆息した。確かに殺気も、敵意もない。かと言ってそれを頭から信じる気はなかった。

 生体反応はほぼ無し。加えて妖術めいた影への潜航。他にもこちらの感覚を惑わすような術を検知している。忍者のような格好だが、どこの手の者か。

 ひとまず頭を片手で掴み、目線の高さまで持ち上げて目を合わせ誰何した。

 

「まずは名乗れ。目的と素性、所属も明かしたなら手心を加えてやろう」

 

 不意打ちに近い結末だったが、特に遺恨など感じていないらしい。カラクリは好奇心を宿した目で、慶次郎の全身を隈なく見渡しながら答える。

 

「ソレガシの名は中期型果心居士・悪四郎。しがなイ流離い人なリ。織田家に仕官したク思っていたのですガ、その前にあなた様の存在に興味ヲ持ち、仕官を願い出る前に観察に参っタ」

 

 誠に天晴、どんナ技術を用いたカ興味深く思いますル――と、カラクリはからからと笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





暴君であり名君、武君領主
 武力で独裁体制を築くが、領国支配者としては名君である慶次郎の有名な政策。報復屈従令は歴史の教科書にも記載され、国内外問わず原始的で理性的ではないと称される。武家の面子を逆手に取ったと言えば聞こえは良いが、創作物の登場人物めいた超人にしか真似できない法令。
 記録によると寝込み等を襲われること十一度、報復の場として設けた場で完全武装の郎党に襲われること三度、食事に毒を盛られること八度、利用している井戸に毒を流されること二度。どれも単身で対処し、あまつさえ盛られた毒が効かなかったとされ『コイツどうやったら死ぬの? そこは人として死ぬべきだろ』と当時の者も現代の歴史研究家も頭を抱えた。また他国に軍事情報などの機密情報を漏洩しようとした者は、どこからともなく現れた慶次郎か、その部下が未然に防いでいる謎の防諜力もある。そりゃ心折れて屈服するわ、とは思考停止した歴史研究家の言葉。
 なお謀反を促進しかねないからと信長に諌められ、駿河統治時代で限定的に行われた幻の政策だが、後々にも慶次郎に敗れた家の者に正々堂々挑まれると挑戦を受けた例がある模様。

煙管
 慶次郎がいつからか愛用していたという煙管。合戦時でも持ち歩いていたとされる。鋼鉄製の煙管は非常に重く、頑丈であった。この煙管で寝込みを襲われた際に迎撃し、暗殺者の刀と頭を砕いたという逸話は有名だが、これは後世の創作とされている。煙管で折れにくい刀を砕くのは不可能だろう。
 なんとか慶次郎を常人の尺度に落とし込もうという涙ぐましい努力である。

鍋之助
 本多平八郎忠勝の幼名。純正の人間。純度100%の人間のまま。
 正史ではまだ5歳にも満たないが、本作世界線では勝蔵が七歳で登場している為、本作だと年齢を加算し十歳になっている。本来は桶狭間合戦が初陣になるはずだったが此処ではまだ。
 前田慶次と並んで、いずれ原作に出てくるかもと思ってビクビクさせられる奴。拙作でモルガンを登場させた作品の連載中、原作でモルガンが本当に登場した時の衝撃はヤバかった(小並感)
 得物の蜻蛉切りや兜、鎧、馬、全部が全部、桓武式大忍製で固める予定。

果心居士
 悪四郎。男タイプのカラクリで、まだ原作形態になっていない。慶次郎に興味を持って来た所、敢えなく捕縛されてしまった。初代風魔小太郎の忍術による気配遮断、見た者の行動を束縛する魔眼と併用した高ランクの幻術、外法が通じなかったことで小さくないショックを受けた。
 織田信長に仕官しようとしていたのは本当。信長に幻術を見せて絶賛されるが仕官は許されない結末を迎えるはずだったが……。
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