誰にでも、なんにでも、未熟な時代は存在する。最初から完成されているものなどなく、あらゆる生命、あらゆる物体も始発点は無力であり、単独で成せる事など多寡が知れているだろう。
後に剣聖と号される事になる
だが、遠いからこそ挑むのである。届いていないと知るから歩むのだ。まだ見ぬ頂きに何があるのか知りたいが為に研鑽を重ね、試行錯誤の末に理の果てへ近づかんと欲しているのである。
人は人である限り欲望を捨てられない。欲望を捨てられた者は人ではなく仏であり、人のまま修練を積むのは果てしない苦行となる。故に求道する者は飽くなき欲望の矛先を一つに絞り、一心に修行するのだ。後に剣聖に至るが、未だ道半ばにある若者、上泉信綱と塚原卜伝の両名も同様だった。
幼い頃に剣に触れ、剣の道を窮めんと志を立てた両名は、武者修行の旅に出ていた。若き天才達は各地で連戦し連勝、一度の不覚も取らぬまま自らの術理を削り出し、着実に洗練させている最中にいて。ゆくゆくは『剣聖』に至り、不朽の名声を史に刻みつけることになっていただろう。
しかし二人の天才剣士は、或る噂を耳にしてしまった。歴史の特異点としか言えぬ、荒唐無稽なる武勇の持ち主の武名を聞いてしまったのである。
――曰く八幡大菩薩の化身。今為朝。今項羽。弓を射っては一軍を滅し、槍を執っては国を割り、徒手格闘に於いては城門を打ち開く。抜山蓋世、力は山を抜き気は世を覆う天下無双の武士。名を本多慶次郎利益。旧今川領を統治せし彼の者、如何なる者の挑戦も受けて立ち、挑戦者を殺めず放逐せし豪胆者。来たれ腕に覚えありし益荒男よ。我は逃げも隠れもせぬ。
上泉と塚原は偶然にもその噂と謳い文句を聞き、面白いと思った。己の武名に興味はないが、この天下に於いて無双を謳われる猛者がいると知っては挑まずにおれぬ。どれほどの武であるかこの目で見定めて、我が求道を啓く具にしてやろう。――二人の若き天才剣士はそのように思い駿河に向かった。偶然とは重なるものなのだろう、塚原と上泉はばったりと出くわしたが、目的とした相手に挑むのが先決と考え、剣を交えてみたいという欲求を抑えたのだった。
果たして己の名を城の者に告げ、慶次郎に挑みに参ったと伝えるとすんなり面通りが叶った。
異例の事である。れっきとした武家であり、国を預かる家老格の上位者が、いくら剣豪として高名になりつつあるとはいえ、浪人に等しい塚原達に面倒な前置きなしに会ってくれるのは。
噂は真であったかな、と若さ故の血の気の多さを滲ませる両名の前に現れた慶次郎は、上泉達を見渡すなり木刀を投げて渡した。そして傲岸不遜にも言い放ったのである。
――我は忙しい。二人同時でもよい。先手は譲るゆえ、さっさと掛かってくるがいい。
剣士となって初めの頃以来の、舐め腐った放言であった。上泉と塚原は安い挑発なぞで怒りに我を忘れはしない、だが洞察力に長けているからこそ慶次郎が本気で言っている事を察した。
相手の力量も見抜けぬ未熟者か? 雑魚を薙ぎ倒し得意になっているお山の大将だったか? 否であると直感が告げている。慶次郎から滲み出す得体のしれない圧力を見よ、これはまさしく人の規格にはない超傑の威。対峙した瞬間に体を打ち据える圧力たるや、巨峰を仰ぎ見たが如き心境にさせられる。
本物だ、と二人ともが感じ。されど二人掛かりで挑むほど腕に覚えがない訳ではなく、ましてや先程出会ったばかりの相手に背中を預けられもしない。そのうえ、己らは修行中の身なのだ。今をときめく時の人と折角仕合えるというのに、そんな貴重な機会を棒に振るなど有り得ない選択である。
故に、まずは上泉が挑んだ。その後に塚原が挑む手筈となった。
そして。
未だ剣聖ならぬ若者達は、あっさりと慶次郎を前に敗れ去ってしまう。
――虎はなにゆえ強いと思う? もともと強いからよ。
二人は強かった。間違いなく人としてなら頂点に近い。
だが……だが、余りに、余りに相手が悪かった。
大成して陰流から奇妙を抽出し、新陰流を開いた剣聖・上泉信綱であれば。
将軍にも指南し、幻の奥義として失伝する秘剣を開眼した剣聖・塚原卜伝であれば。
あるいは勝負が成り立ち、慶次郎にも勝利し得たかもしれない。
しかし二人は未だ発展途上であった。
類稀なる剣速で以て銃弾すら払えようとも、傑出した観察眼で相手の隙を見極められようとも、卓越した剣技にて相手を幻惑しようとも、総てが無駄だ。音速で飛来する物体も蝿が止まっているかのように視認し、隙があろうと即応する動体視力と反射神経を有し、刀身はおろか人体の動きの悉くを明瞭に見て取り、虚実入り交じる剣技を児戯に落とす。
慶次郎は、煙管で二人の木刀を打ち砕いた。どうやってそこまで強くなったのだと、呆然として問う剣豪達に言い放ったのが先の台詞。暗に修行の類いをしたことなどないと伝える言葉だ。
――見所はある、我が下に仕官せよ。さすれば重く用い相応に報いよう。
慶次郎はそうやって二人を勧誘したが、上泉と塚原は魂の抜けた面で固辞して去った。
衝撃的だった。余りにも、
武家の棟梁は己を神に例える事もある。敵対者に自身を大きく、強く見せる為のハッタリとして神の名を使うのだ。後の武田晴信――信玄が仏門の頂点にある仏の名を自称し、信長に宣戦布告をした事例が有名である。信玄に対し、信長が自らを第六天魔王と冗句で自称して返書をしたためた件だ。
だが慶次郎の武は違う。見えているならどんな技も通じぬ、神としか例えようのない桁外れの強さをまざまざと見せつけられた。慶次郎の失態だろう、相手を圧倒的な力で倒し、屈服させる遣り方に慣れ親しんでしまったのが原因と言える。彼は本気で塚原達を登用したかったが、遣り方が悪かった。
若き天才達は折れた。あんな、武術の術理を一つも知らぬまま強い存在を知り、手も足も出ないどころか得物を壊された屈辱を味わい、生涯初の挫折を経験してしまった。だが、それでも、自負を折られたからと屈服し、臣下に降ろうものなら、己らの道は閉ざされてしまう。
天才たる偉人達は心の強度も、粘度も高かった。折れてもまた立ち上がれる強さがあった。茫然自失した末に、塚原達は大いに発奮したのである。
あれぞ武神、あれこそが武力の極致だと語り合い、終生の剣友となった上泉と塚原は漠然としていた目標を持つに至る。慶次郎を斃す、斃さずして剣の道は完遂できぬ。武神と称する他にない怪物を打ち倒せる技を身に着けてこそ、本当の意味で剣の道を窮めたと言えるだろう――と。
上泉と塚原は同等の天才だった。神域の才を持つ剣聖の卵だった。
夢想剣、一之太刀、三段突き、無刀取り、燕返し、雲耀、払捨刀。史の前後に数多の秘剣あり。歳も生まれも異なる二人の天才は揃って剣聖たる器を持つが故、切磋琢磨したなら飛躍的に剣の術理が持つ深淵へ沈んでいった。果ては未だ見えずとも、長き時を経る事で開眼する剣を、彼らは短期間で得たのだ。
塚原は虚実の極みたる一之太刀を。上泉は心身を研ぎ澄ませし新陰流を。それぞれに得て、互いに教え合い、更に高め合う日々を送った。総ては本多慶次郎を打倒する、この一念を見据えて。
やがて塚原は新陰流兵法を会得した。上泉も一之太刀を習得した。まだ足りぬ。まだ満足せぬ。山に篭もり修行に明け暮れ、滝に打たれて精神を鍛えて、瞑想し、剣を振り、我を忘れ、欲を超克して捨て去り、時を凝縮して、暇を見つけては本を読み、法螺でも信じ再現せんと努め、魔法の理を見つけた。
求道する日々は充実していた。対等の天才と高め合う日々は何よりも得難いもので、遂には上泉と塚原は互いをもう一人の己だと定め、認め合い、血を分けた一族を超えた魂の半身となった。
山に籠もり、心身合一したからか。あるいは人の域を超えたからか。両者は知らぬまま、尋常ならざる魔の理にすら到達し、やがては知らぬまま複数の現象へと辿り着いてしまう。
ドッペルゲンガー。己の同一存在と巡り会いどちらかが死に至る現象。塚原と上泉は魂の半身とも言える域で合一したが故、理のバグとも言える域で合致し同一存在へと成り果てて。
蠱毒。一つの容器に多くの生き物を詰めて飼育し、互いを喰らい合わせて生き残ったモノを神霊とする呪術。急速に剣聖へと成り果てた塚原と上泉は、山という一つの結界に等しい自然の中、互いの存在を食い潰し合うに等しい研鑽を経たが為に、あの呪術と同様の過程を踏んだ。
史に代表されるに相応しい神域の天才たる両名の共鳴は、他に例のない奇跡を起こしたのだ。
執念を超えた念願、億万より優越した一個。山よりいでた剣狂二匹は、けれども道を窮めたと驕ることはない。人の躰で神の器を斬れると断じられるか、確信が持てぬのだ。
削ぎ落とした無駄、削り切った人刀。『空』の概念の先にある零、『無限』を破る究極の一を得ようとも、あの武神を斬れぬなら全くの無価値であろう。斬れるのか、斬れぬのか、試してみぬことには満足できぬ。いいや満足したいのではない、ただ知りたいのだ。己らはどこまで行けるのかを。
到達していたのなら、果ての末に斬ってみたい。もう一人の己、上泉を。塚原を。そうしてこそ自分達は完成するのだ、自分達の剣は至高の頂きに達したと断言できるのである。
純然たる人間の極み。単独の人が持ち得る技の粋。
いつか見た武力の極みに惚れて候、焦がれて候。僅かに一年の修練如きで収斂したと嘯くを戯言とするのは凡夫のみ。真に凡に非ず者を知るのなら掛けた時の量など秤にならぬと弁えようぞ。
もはや彼らは人に非ず。魔の領域に棲む魔人なり。
戦を求める。武神に挑む檜舞台こそ絶頂なり。二匹の剣狂いは、ふらりと駿河を目指すのを良しとはしなかった。あの怪物が全霊を振り絞るに足る戦場を欲し、雪辱を果たす為に場を探る。
ならば双つの剣聖ならぬ剣狂い、剣
「うん? 私が織田に合戦を仕掛けると踏んで来た、と? あははははは! 結構、貴方達を我が家の客として迎えましょうとも! 祭りは騒いでなんぼ、楽しければそれでよし!」
† † † † † † † †
「……………」
屋敷の縁側にて、ぼぅ、と積乱雲漂う空を見上げる。
慶次郎の思い描く天下静謐後のビジョンは、他を圧する超世の傑による統治ではない。能力的には平凡である凡夫らで国を廻せる機構の設定、可能な限り続く泰平の世だ。
故に本来、慶次郎は領国統治の仕事を単独で完遂できる処理能力を有してはいるが、自身一人で何もかもを片付けるのを良しとはしていなかった。能う範囲で仕事を家臣らに割り振り、法令を整備して風通しの良い組織作りに勤しんで、自身を抜いても恙無く機能する支配を常態化させていた。
勝蔵と鍋之助、歳の異なる少年らを生徒として、先進的な複雑な専門知識の基礎を教える悪四郎こと服部半蔵を尻目に、慶次郎は何を思索するでもなくボンヤリと一人の女を思い浮かべた。
先日、思いもよらぬ告白を聞いた。
どうしてだ、とも。なぜだ、とも考えられぬ。ありとあらゆる思索は秒で終え、深刻なエラーを吐き出し続ける演算機能が人の心の難解さを伝えている。
他人の話であるなら冷静に答えを導き出し、順当な結論を下に適切な行動と言葉を出力していた。しかしいざ己の物として起こったなら、白痴のように右往左往する自我のなんと未熟な事か。
(信長様は……我に懸想していた? 有り得ぬ……)
何度忘れても、何度揮発しても、何度も何度も蘇る記憶。主君信長の言葉はそれほどまでに慶次郎の情緒に直撃し、深刻な域にまで破損させていた。
男が女に『惚れる』という結果に行き着くのは、まず見目の良さや体の相性など、性的な欲望がまずは先立って、しかる後に自己の生活の一部に大きく食い込んで、はじめて愛するに至る場合が多いという集計データがある。対して女は、見目の良さの次に生き物としての強さ、次に甲斐性を鑑みて、性的交渉まで過程に組み込んでから愛するのが大多数だ。
統計から見たケースに信長は当てはまらない。なぜなら信長は他者に依存するまでもなく、実力で生存を勝ち取れる強者だ。個人としても、武家の棟梁としても傑物であり、生物学的に強者である男との性差など皆無である。翻って見るに、己もまた異性を欲した試しはなく、先立つ欲望がない故に愛もない。
そも愛とはなんだ。人伝に聞いた他人の御家での家庭は聞いた事がある。しかし己は実の母を殺めてしまって、実の父に疎まれて他家へ養子に出され、養子入りした前田家でも武士としての在り方を説かれただけだ。参考になる愛というものはなく、強いて言えば半兵衛と藤吉郎が当てはまるかどうかだ。
だが半兵衛と藤吉郎のそれはやはり理解に苦しむ。半兵衛からの一方的な慕情で結ばれ、かと思えば藤吉郎は好色さを隠そうともせず他の女を抱く事も多い。過日のことだが、ハイライトの消えた半兵衛――寧々に追い回されて、泣きながら「匿ってくれ!」と藤吉郎に助けを乞われたぐらいである。まともな参考データには出来るはずもなかった。
主君のアレは、勢いに任せた放言である。
そう結論して、一時の気の迷いだったと受け流す事はできなかった。
何故なら己よりも長く傍にいて、ずっと信長だけを見続けてきた主の妹、市に言われたのだ。
『姉上は面白くもない冗句を言うこともある、じゃがシモの話をした試しはない! 初心な生娘がこんな事で男の胤が欲しいなどと言うわけあるまい! そなたも男なら逸物を怒張させい!』
下品な物言いは聞かなかった事にするとして、形式上の妻である市が言うからには無視もできぬ。
桓武式大忍の本能は主を第一とする。主の意を至上とし、同列に怪異討滅を配していた。その大忍は主の想いに答え抱けば良いと回答していた。……だがしかし、大忍とは異なる感性――慶次郎利益の感覚は違う声を吐いている。色恋なんざどうでもいいだろ? そもそも趣味じゃねぇし……と。
慶次郎の情緒は思春期未満だった。色恋沙汰に関心が全く無く、気質的に好む女性像に信長は合致していない。何が駄目とかそういうのではなく、ただのなんとなくでタイプじゃなかった。
『なにゆえそねい乗り気にならん? さては……姉上が好みでないと抜かす気ではなかろうな?』
市は凡人ではなかったが、傑物でもない。しかし女とは不思議な勘を働かせるもので、慶次郎が信長とそういう関係になるのに乗り気へなれない理由をなんとなく感じ取ってのけていた。
故に市は神妙に、真面目くさって言う。市からしてみれば、旦那である慶次郎が相手になってくれねば姉との結合という悲願を叶えられぬ故、割と必死に説得したかっただけかもしれないが、彼女の言葉はなかなかに芯を食ったものであり。慶次郎は我知らず真剣に想像力を働かせることになった。
『ならば考えてもみよ。そなたが姉上を抱かぬなら、姉上も武家の棟梁よ。観念して他の男と交わり子を成さねばならなくなる。どこの誰とも知らぬ男の腕に抱かれ、肉槍に股ぐらを貫かれ、よがる姉上を思い描くがよい。そなたはそれを受け入れられるのか? 姉上に望まぬ男に抱かれよと申すと?』
これまで漠然とそうなるものと思っていただけで、鮮明に思い描いていた訳ではない。けれど、いざ直接言われてみて想像すると……なんでか、嫌な気分にさせられた。
なぜだ。答えは自明なのに踏み出せぬ。思考は凝り固まり、フリーズする。
ぼんやり空を見上げ、ぼんやり市の言葉を反芻すること数日。慶次郎は頭を空にして呟いた。
「情けなし。お前は真に男子であるか?」
ハッとする。我に返った。今、己はなんと言った。己に問う他あるまい。
「慶次郎よ。慶次よ。頭の天辺から足の爪先まで鉄塊であるわけでもなし、何をまごつく。何を惑うものがある。いつもの如く即決せよ。自慢の演算力はガラクタか? 堅物の頭を砕いてみよ」
なんだそれは。これは本当に己の声か? 己の言葉か?
桓武式大忍と慶次郎が分離していた。司令塔となる頭脳の内に二つの答えがある。内の一つは凝固する己を鑑みて、主の意に沿えと言う大忍を鼻で笑っているではないか。
慶次は、言っていた。
「抱いてみろよ。後のことなんざ知らん。抱いてみりゃ考えも変わるかもしれん、どうせいつかは市を相手にヤることで、ヤらなきゃならんなら殿様相手に初陣すんのも良いだろうよ」
世に蔓延る傾奇者めいた放言である。
これが己の本性か。なんとも俗で、考えなしの向こう見ず。いくさ人の豪放さよ。
気がつくと、腹が据わっていた。
固まっていた頭脳が緩やかに廻り出し、緩やかなまま決心する。そうだな、その通りだ、まずはヤるだけヤってみればよい。据え膳食わぬは男の恥と藤吉郎も言っていた。
よし。ヤろう。話はそれからだ。
腹を決めると途端に頭も心も軽くなった。視野が開け、世界を広く感じる。
声を上げようとした。カラクリ忍を呼び、通信させようと思った。しかし。
「――殿。忍ばせていた者より報せがございます」
赤い髪留めと赤いマフラー。肢体を纏う黒衣は体のラインをはっきり浮き彫りにした、黒髪の女忍者――くのいちのカラクリ。識別名、加藤段蔵が天井裏から気配もなく降り立つ。
ちらりと視線を向けると、服部半蔵の作である彼女は淡々と報告した。
「武田、長尾の両名が盟を結び北条を征伐。越後の龍と甲斐の虎、破竹の勢いにて快進撃の最中。各地で戦勝を重ね、北条家の命運は風前の灯とのこと」
風雲急を告げるとはこの事か。慶次は鼻を鳴らした。
過去の遺恨を鑑みて可能性は低いと見ていたが、対織田を意識しているなら合理的ではある。故に武田と長尾が結びつくのは想定の範囲内ではあった。
為に、こうした場合にどう動くかも決めている。内密に進めていた策を始動させるまで。
「つくづく間が悪い……ま、いいがな。段蔵、
武田と長尾が北条に掛かりきりになっている今が好機だ。両勢力の喉元に刃を突きつけ、機先を制する事で来たる戦の主導権を握るのである。
この二つの出城を無視は出来まい。力を割くのは必然で、慶次率いる本命が別の場所にいればますます戦力の分散は避けられない。慶次が陣取る場によって決戦場は変動しよう。
脳内に精巧な地図を描き、慶次は煙管を口にして囁いた。
「……長篠だな」
三河に位置する地名を口にし、慶次は億劫そうに紫煙を吐き出した。
市
「行けー! 押せー! わらわの為にも押すのじゃ!」
妖術を習った事で、悪魔的発想を得る。
そうだ……自身を胎児化して姉の腹に宿れば融合したも同然じゃね? 腹に宿ってたら他の命も宿らんし、ずっと独占できるじゃん!
野望成就の為、今はひたすら慶次をプッシュ。それゆけ旦那様、わらわの夢の為に…!
なお研究内容が段蔵の内偵で露見し、接触禁止令が出される模様。野望は潰える。
加藤段蔵
ロールアウトされた機体。主は慶次。有能。可愛い。くのいち。可愛い。一家に一台飛び加藤。アップグレードされていけば原作より大幅に強化されるかも。
本多慶次
大忍の影響下にある慶次郎ではなく、剥き出しの慶次――傾奇者の面が表に出始めた。以後、地の文では慶次表記に。今後どんどん傾奇者に近づいていくが、やっぱり大忍の影響は抜けきらないのでどっかで歯止めは掛かる。ヤればデキる、至言だなぁ。