いろは坂の頂上、そこにワンビアとハチロクから降りて来た走一と拓海、彩音はワンビアの助手席から降りて、その様子を見る。
京一は腕を組んだままその様子を見て、走一のワンビアと拓海のハチロクを見て問う。
「ワンビアとハチロクを修理したのか?」
「はい」
「ええ、今のエンジンは前のと違って各段に性能が上がってます」
それを聞いた京一は拓海の方を見て、あの時の事を思い出しながら言う。
「俺が赤城で言った事を覚えているか? “俺と競い合えるだけの車に乗り換えるまで勝負は預けておく”と…、そう言った筈だが?」
「その事は覚えてるけど、これは前の車とは違います。俺にとってはこいつが良い車なんです。駄目ですか?こいつじゃあ」
「須藤さん、俺からもお願いしますよ。今の拓海のハチロク…、グループAのTRDエンジンなんです。今のハチロクは断然違いますよ」
走一がその事を言った事に、京一は驚く目をする。グループAのエンジンを何処で手に入れたのか知りたがったが、その事を後回しにし、拓海の返答を聞いた京一は口を開く。
「いいだろう、俺にとってやり残したバトルだ。ここでケリをつけてやる、バトルのやり方は…ハチロクだけだ」
「…俺は良いんですか?」
その事に走一は問うと、京一は走一の方を見て言う。
「お前は既にパワーのある車に乗っている、だからお前の相手は必要ない…。では行くぞいろは坂の上に行くぞ。来い」
それに走一と拓海が頷き、ワンビアとハチロクに乗り、彩音も走一のワンビアの助手席に座る。
京一たちエンペラーはランエボに乗り込み、京一を先頭に、ワンビアとハチロク、そしていろは坂の上へと向かうのだった。
そして群馬、渋川では。
慎太郎の自宅、そこで慎太郎は走一に連絡をしようとしたが、出かけていた為電話するのを諦め、少しばかりソファーに座りながらある事を考えていた。
それは以前居酒屋で慎太郎は走一の父である泰三と話した事を思い出していた。
「あの…、貴方に走一君のワンビアに付いてお聞きしたい事があるんです。どうして貴方方はターボと言う野蛮なものを取り付けるのですか?」
「ターボを野蛮…? 何だその事か」
「その事って! 意味わかってるんですか? ターボはエンジンの寿命を縮める欠陥品です! 無理に搭載したらエンジンは壊れる!自然吸気のエンジンこそが最強の到達点なのです!ですから「それは違うね…」っ!?」
慎太郎は続きを言おうとした際、泰三はビールを飲みながら言う。
「ターボってのは単純にパワーを上げるのは勿論、普通に搭載した位ではそうそうエンジンは壊れねぇよ。それにNAはオーバーレブをすると、いとも簡単にエンジンをブローさせてしまう。要は下手にレブを上げてしまったら駄目だって事さ」
「しかし!ターボは!」
「君さ…なんかこう…“自分の価値観”を押し付ける様な事をしてはいないか?」
「!!!?」
その事を言われた慎太郎は、胸に突き刺さる様な感じになり、泰三はビールを入れては飲んで、慎太郎を見る。
「ターボを入れようが入れまいが、NAで行こうがスーチャ―でやろうが…って、結局はそいつが速くなりたい為に、過給機を付ける事に…文句は言う事ないんじゃないか?」
「で!でも! そんな事をしたら車が…!!」
「車を大切にしたいと言うなら、君がM3に乗る理由も少し意味が違う気もするがな…。そして…」
泰三はビールを飲み干したコップを置くと、少しばかり鋭い眼光で慎太郎を見る。
「“自分のワガママを他人に押し付けない事だ”」
「っ!!? 自分の…ワガママ!?」
「そうだ…。お前さんにはその様な所が感じる。ターボが嫌い、過給機は悪だとか…、そんな事を言っていると、レースの世界では全く通用しない。あと走一はターボとの相性が良い奴だ。最初にスープラで運転を練習したさいは、中々乗りこなしていたよ。だからあいつにはターボ車が一番相性がいいんだ…。それを邪魔する事…君にはないぜ…」
っとその事を言われて、思わず手を握りしめてしまう慎太郎。
だが慎太郎はその事にただ俯くだけだった。
相手の邪魔をする権利はない…、それを言われて、慎太郎は何も言えなかった。
実際思い返せば、慎太郎は今まで自分が頭ごなしに押し付けていた時があった。相手の話しを聞いていても、すぐに自分の頭に血が上って、口論する時があった。
走一の時は走一が冷静になって話しを聞いていたからそうでもなかったが、他の人はそうでもなかった。
すぐに口論になり、相手の話しを聞こうともしなかった。
「…はぁ」
「どうしたのお兄ちゃん?」
そこに亜里沙がやって来て、慎太郎は上を向く。
「ああ、亜里沙か…。ちょっとな」
「お兄ちゃんが何か考える事って、大抵車の過給機の事よね。なんだか分かっちゃうな」
「ははは……、まあそうなんだけどな。はぁ…」
慎太郎はソファーにもたれながら、少しばかりある人物の事を考える。
「…
「え?お兄ちゃん?」
亜里沙がその事に振り向き、慎太郎は思わず慌てて顔を背ける。
「な、何でもないぞ!」
「嫌々無理あるでしょう!絶対【
「そんな事ない!!」
っと自分にそう言い聞かせる慎太郎であった。
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いろは坂の入り口に上に到着した走一達、そして拓海が京一のエボⅢの横にハチロクを止めて、京一がルール説明をする。
「勝負は下りの一本。麓まで降りた所で橋を三回渡る、最後の橋を渡りきったところがゴールだ。そしてお前が先行で、俺が後追いだ」
「え?」
「ゴール地点までに俺に抜かせずに逃げ切ればお前の勝ち、抜けば俺の勝ち、それでいいな?」
その事を聞いた拓海は思わず問う。
「でもそれじゃあ…」
「…不公平な条件だと言いたいなら、それは俺に対する侮辱だ。このいろは坂は俺の地元だって事を忘れるな。その位のハンデが無いと、勝負にならないって事だ」
「…」
「(成程…。あくまで自分のスタイルを貫くパターンね…)」
側で聞いていた走一は京一のドライブスタイルを貫く様子に納得がいき、それに拓海に言う。
「拓海、京一さんの言う通り、ここは先行で行くんだ。それがあの人の…唯一の優しさだ」
「…分かった」
「良し、なら始めよう。…それと朝倉、お前は後ろから付いて来て観戦しろ」
「え?」
京一の突然の観戦の申し出に、走一は思わず振り向き、京一は上着を清次に渡しながら言う。
「お前のマシンの新しいエンジンなら、俺達に十分付いて来れる。俺達の後ろを付いて来て、それをどんなバトルを見ておけ…」
「(驚いたな…参加するつもりなかったけど、でもその申し出は断る理由はない)…分かりました、後ろから見ておきます」
「よし、始めるぞ」
そう言って京一はエボⅢに乗り込み、拓海もハチロクに乗り、走一も急いでワンビアに乗り込み、彩音も助手席に座る。
それを見ていた清次は見つめる。
「(いろは坂の下りは、ジムカーナのコースに急勾配の坂を付けたようなもんだからな。どんな奴が来ても此処では京一には敵わねぇ、ジムカーナで鍛えたテクニックを持つ京一は、低速コーナーの鉄人なんだ!!)」
準備を終えた拓海は京一の方を見ると、京一が合図を送り、それに拓海は頷き、ギアを一速に入れ、サイドブレーキを下ろして、クラッチを離してハチロクを発進させる。
それにエボⅢが付いて行き、走一のワンビアもそれに付いてくのだった。
遂に拓海と京一の再戦が始まったのだった…。
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