拓海達がバイトしているガソリンスタンド、その日拓海とイツキが出勤して来て、池谷達に挨拶をする。
「「おはようございまーす」」
「よう」
「はい、池谷先輩」
「ん?何だそれ?」
池谷は拓海から渡されたビニール袋を見て問い、それを拓海は答える。
「厚揚げっす。昨日の分が余ったから、親父が先輩に持っていけって」
「っ、そっか…」
「冷蔵庫入れときますから」
「おう、い、いやー…結構気にして貰ってるんだな。ははは…」
池谷はそう言って苦笑いし、今日の予定を確認する。
そして更衣室で、拓海達が制服に着替える中、イツキが拓海に問う。
「なあ拓海、お前5年前から秋名湖に豆腐の配達してたってホントか?」
「ん?…まあな」
「水くせぇぞ拓海。そんなの俺に黙ってるなんて」
イツキはおちょくる様に肘を付いてくる。そんなイツキに拓海は呆れた感じで言う。
「あのな…、大っぴらに言ったら色々不味い事もあるだろうが…」
「そ、それもそうだよな…。5年前って言ったら、俺達…パリッパリの中学1年だもんな~」
拓海の言葉に納得するイツキは帽子を被って、外に出るとそこに走一達の姿がいた。
走一は拓海とイツキが来たのを見て手を振る。
走一達が居る事に拓海は池谷に問う。
「先輩、何で走一達が居るんですか?」
「いやー、何でも拓海にドラテクの話しを聞こうと来たんだと。しかもそのバイト先の社長さんも一緒だそうだ」
池谷の目線の先には、解体屋工場の店長である弁慶もそこに居て、それには少しばかり拓海達はただ唖然とするのだった。
そして拓海が自分が5年前に豆腐の配達を話す中で池谷が拓海の運転歴の長い事に関心を持つ。
「まさか俺より運転歴が長いとはな~、中坊の時から雨の日も雪の日も毎日だもんな…それも秋名の峠をよ。まあ車以外の運転歴だったら走一達もそうだよな」
「まあね…そんな所です」
「あ、そうだ…運転と言えば走一、お前泰三から聞いたんだが、2年前から車の運転をし始めたのは本当か?」
祐一の言葉に拓海は勿論、玄達や池谷達はその事を聞いて驚き、彩音を除く真美達も若干驚いていた。
「ええ…まあ」
「マジかよ!!走一も拓海と同じように運転してたって事かよ!」
「…まあ俺の事はいいですよ。俺よりも拓海の方です、拓海はあの時間帯からずっとだったのか?」
「ああ、朝早いから誰にも会わないし…」
「いやそうじゃねえよ。あれだけのコーナーだぜ? 怖くなかったのか?」
池谷は拓海があれだけのコーナーをクリアしたのに対し、恐怖感があったのか問う。
「それは初めのうちは怖かったですけど、半年もすれば怖さは全くなくなったです。スピードを上げて行くと自然とタイヤが滑るから、思い通りに滑らしたりコントロール出来るまでもう半年…」
「って事は…1年で下りをマスターしたのか!」
「うっそ…」
「たった1年…?」
祐一は勿論の事、真美と凛は拓海が下りを1年でマスターした事に驚きを隠せずにいた。更に拓海は次の事を言う。
「毎日やってると…滑る事の緊張感なんてすぐに麻痺しますよ…。かったるいからどれだけガードレールに近づけるか試すようになって」
「はぁ!?!ガードレールに近づける!?嘘だろう!?」
「普通に危ないよそれ!?」
道郎と凛は拓海の意外な行動に驚きながらも注意するが、それを拓海はピーンと来ない感じの表情をする。
「別に危ないなんて思った事無いし、調子の良い時は1㎝くらいまで寄せられるぜ?」
「ぶえっ!!?」
「いやそう言う意味じゃないから!!」
イツキと真美はそれに驚き、真美はそれに注意する。
同時に池谷や祐一、そして弁慶もそれには驚いていた。
「1㎝…!?」
「おいおいこりゃあ驚いたな…。まさかそこまでやるとはよ」
「そうして楽しい事見つけないと、つまんなくてしょうがないんです…豆腐の配達。だから…運転上手くなろうなんて考え一度も無いし、ただ…早く帰りたくて豆腐が載ってない下りは思いっきりすっ飛ばして帰るんです」
「マジか?そりゃあ楽しい事一つもねぇな!」
玄は気楽に拓海の言葉に納得し、それを聞いた真美は一発お約束のハンマーで玄の頭を叩いた。
そして祐一はある事を拓海に聞く。
「拓海、1つ聞いて良いか?」
「はい」
「豆腐を載せてる時はどうやって走るんだ? あんまり飛ばすと豆腐が崩れるだろう」
「上りは飛ばさないですよ、あんまり…。親父が紙コップに水を入れて、缶ホルダーに置いておくんです、その水をこぼさない様に走れば、急いでも豆腐は崩れないって」
「なる程な…」
拓海がその説明をして、祐一はそれに納得するそぶりをみせる。
だが拓海はそれを意外そうな感じで言う。
「やってみると、これがすっげぇ難しいんですよ、始めはノロノロ走ってもばしゃばしゃこぼれるし」
「そうだろうな…(紙コップ…)」
その事に走一は頷きながら拓海のその紙コップの事を考える。
「ブレーキ、ハンドル、ギア、アクセル。どれか荒いとすぐ水がこぼれちゃうから…。親父はコップの中で水を回せってよく言ってました」
「コップの中で水を回す…?」
「表面張力って言うのかな…? 膨らんだ水面がコップの淵ギリギリの所グルっと半周するんですよ、カーブ1つ抜ける度にそうやって淵ギリギリの所で上がって行くんです。
コップの水をこぼさないでドリフト出来るまでには5年は掛かりましたが…」
『『『『『コップの水をこぼさないでドリフト!!?』』』』』
その事には彩音達や玄達が驚き、そして走一はそれを聞いてようやく1つの謎が解けた表情をする。
池谷達はそれを聞いて驚きながら言う。
「おい拓海出来るのかそれ?!」
池谷がそれを聞いた途端、イツキが勢いで拓海に迫った。
「フカすなよ拓海!冗談だろうそんなの!?」
イツキが拓海に攻める中で、走一はようやく抜けていたピースが揃った顔をする。それに彩音が気づく。
「どうしたの?」
「そう言う事か…。拓海のあれ程のドライビングテクニックと荷重移動が上手いのはその紙コップがそうだったんだ」
「どういう事だよ走一?」
道郎が走一が気づいた事に今だに分からず、それを走一に問う。
「拓海の親父さんが拓海に紙コップの水をこぼさない方法をさせたのは、超難易度の荷重コントロールを身に付かせる事だったんだ。更に上りでその荷重コントロールを上達させて、高度な荷重移動を身に付ける…。
そうすれば下りのコントロールも容易な程やり易くなるし、重量級の車両でも容易にコントロールが出来る…。考えたな拓海の親父さん…」
その事に彩音は「へぇー…」と答える中で、祐一と弁慶はそれを聞いて2人で話し合う。
「文太の奴…考えたな。紙コップとはよう…」
「ああ、コップの水をこぼさない様に走るには、途轍もなくデリケートな荷重移動のコントロールを身に付けなくてはいけない。ましてはドリフトとなると…」
祐一と弁慶はその事を話して、拓海の方を見る。
拓海は若干分かってなさそうな表情をし、イツキが何時までも拓海を絞めていた。
その際に真美がハンマーを持ってイツキを制裁し、それにイツキは涙目になる。
「(…すげぇぜ文太。拓海は山の走り屋で終わるようなスケールじゃねぇぞ)」
「(いずれ大物スターになるかもな…)」
そしてお客さんが来て、拓海とイツキがそれに対応して、お客さんの車を給油を終えて、拓海が戻ろうとした時、池谷が拓海の元に近づく。
「…拓海、頼みがある。俺をハチロクの横に乗せて、秋名の下りを攻めてくれないか!」
「え?」
池谷の言葉に拓海は首を傾げる。そして道郎の携帯が鳴り、それに道郎が携帯を取って出る。
「はい…。ああ…父さん? うん…本当? …うん、分かった。走一に伝えるよ」
そう言って道郎は携帯の電話を切り、走一が振り向く。
「俺がどうしたって?道郎」
「走一、さっき父さんから連絡が来た。ワンビアの足が完成したから、今夜秋名でシェイクダウンをして欲しいって」
それを聞いた走一は思わず目を開かせ、それに頷くのであった。
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