「一緒に生きるって、約束したじゃないか」
「アイツを倒そうって、約束した」
「なのに、どうして……?」
「この」
「裏切り者」
…………
「……くっそ、最悪だ」
寝汗がひどい。
シャワーを浴びないと。
そう思い、自身のベッドからぬけて浴室に行こうとし、その途中にあった鏡に映る自身の顔を見て、少年は自戒するように呟く。
「……死んじまえよ、裏切り者」
いつもより目元の隈が酷い。
けど、いつもの事だ。
「……いま頃、あいつは、何してるのかな……?って、そんな事……言う資格も、ないくせに」
自嘲し。
懺悔する。
少年の始まりはいつだって、陽の差すことのない、絶望に彩られた街から始まる。
「アズサ……俺は……おれは……」
黒松ミナトは走っていた。
厳密には、黄色い車体の『給食』と書かれた車を追いかけていた。
その荷台には縄で拘束された愛清フウカがおり、その横には銃口をこちらに向ける赤司ジュンコと、呑気にチョコレートハンバーガーを食べている獅子堂イズミが居る。
「……フウカを、返せ」
その一言とともに加速するミナトは時速100km超えの車との距離を徐々に縮めていく。
「相変わらず足がめちゃくちゃ速いわね!」
このままでは追いつかれるのも時間の問題。
そう判断したジュンコは自身の愛銃の引き金を引く。
が。
「はぁ!?そんなのってありぃ!?」
パルクールの要領で車道に止まっていた戦車を踏み台にしジャンプして避け、跳躍した先のビルの壁に両足をつけ、膝を曲げて加速。
距離を離すどころか更に縮めて車道に戻り走るミナト。
さながら映画のアクションシーンのような身のこなしの軽さを見せるミナトは未だに息切れ一つしていない。
よく「ヒナさんみたいな……学園最強レベルの強さから……逃げられるだけでも……お前らは、化け物だよ」とか美食研究会の事を称する彼だが、ミナトも人のことは言えない。
「脚」において、彼の右に出るものはいない。
「……いい加減、面倒臭い。……本気出す」
それに、誘導は……出来た。
小さく呟かれた声だったが、そこはキヴォトス人の中でも上位に位置する者達が集まった美食研究会。
その言葉ははっきりと聞こえた。
そして。
『止まれ美食狂いのバカども!!』
進行方向には銀髪をツインテールにした『風紀』と書かれた腕章を着けた褐色の少女、銀鏡イオリがメガホン片手に警告している。
その横にはかなりの人数の風紀委員が居る。
幸い風紀委員長のヒナは居ないようだが、美食研究会(イズミ除く)に冷や汗が流れる。
前門の
しかし、今は後門には
風紀委員会を避けながら、あるいは戦闘し、なおかつ、最高時速は車を飛び越えて新幹線とかに追いつけてしまう脅威の走力を持つミナトに
不可能である。
風紀委員会は
それはミナトに対しても同じこと。
一対一においてミナトは無類の強さを誇るが、集団戦は得意ではないミナトに美食研究会に勝てる見込みはない。
しかし、
勝利条件を履き違えてはならない。
これは『戦闘に勝てばいい』というわけではない。
ミナトは『フウカを取り返す事』
美食研究会は『フウカを奪われない&逃げきる事』
風紀委員会は『テロリストの制圧と捕縛』
この局面において美食研究会は半分詰んでいる。
しかし。
「ふふっ……やってやろうではありませんか。不可能を乗り越えてこそ究極の美食への道!!アカリさんそのまま突進ですわ!!」
「わかりました〜♪」
「ちょ、マジで!?流石に無理なんじゃない!?」
「このチョコバーガーいつ食べても美味しい〜!」
「んんーーんーんーっ!!」
「……追いついた。……返してもらうよ……ハルナ」
「うぇ!?いつの間に!?」
「んんんーーっ!?」
風紀委員会に気を取られている一瞬のうちにそこそこの距離があったはずの間隔を一瞬で縮められ荷台に乗り込んだミナト。
慌てて銃口をミナトに向けようとジュンコが動こうとするが、その前に銃をミナトに蹴り上げられ、手から落としそのまま車の外に。
そのまま、一切の躊躇いもなくフウカを姫抱きしたミナトはハルナを一瞥し一言。
「……車、後で返してね」
「……やられましたわ」
美食研究会からフウカを取り戻したミナトはそのまま出来るだけ角を曲がり、ビルの壁を駆け上がり、横移動だけでなく縦移動を含めた立体的な動きで駆け続けていた。
その間フウカは時が流れることを忘れてミナトに魅入っていた。
心なしか身体がアツいのは、気温のせいだけではない。
ミナトはそれよりも「早く離れないと」という思考で頭がいっぱいでフウカの様子に気づくことはなかった。
そうして、30分程時間が経ち、あたりの風景が見慣れたものから全く違う風景に変わった頃フウカはハッとした。
「んんーーっ!!ん、んーんっ!」
「あ、……ごめん。そう言えば……解いてなかったね」
少し腕の中で身じろぎすればミナトは腰のボロボロの羽でフウカを包んで徐々に速度を緩める。
そのまま近くにあったベンチにフウカを降ろし、縄を解く。
フウカはその時、お姫様抱っこされちゃったとか、触れた羽がとても暖かかったとか、ミナトの匂いに包まれたとか、そういった乙女的思考に囚われそうになるも、それを振り払ってミナトに言う。
「ミナト!ここ何処!?」
そう言われてミナトはあたりを見回す。
ズラーッと並ぶビル群は、所々に罅が入り、ゴーストタウン染みている。
そして何よりも目に入るのが『砂』。
あたり一面にある砂。
ゲヘナではここまで多くの砂が都市街に入り込むほどの量はないはずだ。
では何故砂がここにあるのか。
「……?……!……もしかして、俺達……迷子?」
「何やってるのよばか〜!」
「……ごめん」
フウカは涙目で叫び、申し訳無さそうにシュンとなるミナト。
フウカは思い出した。
「そう言えばミナトって方向音痴だった……」
アビドス。
元はゲヘナ、トリニティ、ミレニアムに並ぶほどの広大な自治区を持っていたが、近年砂漠化が進み荒廃していった自治区。
一昔前はアビドスからの転入生などが頻繁に他の学校に入ったりしていたそうだが、今ではもう忘れ去られたかのように話題に上がることもない学校である。
「明日が休みで良かった。明日学校があったら準備を徹夜でやるしかなかったし」
「……ごめん」
思わずフウカがそう呟いた一言は無表情のミナトの雰囲気が更にドンヨリとしてくる。
「あ、ちがっ……別にミナトのせいってわけじゃ……」
「……いや、俺が、しゃしゃり出たのが悪いんだ……。もっと冷静でいられたら……」
「そ、そんなこと言ったら、私だってハルナ達にいつも拐われてばっかりだし、その度にミナトやジュリに迷惑かけちゃってるし……」
「……そんなこと、ない。……フウカは、いつも俺の事を……助けてくれる。……空回りしてばっかの……こんな俺なんかを、いつも……助けてくれる」
「ミナトは『なんか』じゃないよ。ちょっと口下手で、コミュ障だけど、料理が上手で、すごく優しい私の大す……」
そこまで言いかけてフウカは固まる。
今、私何言おうとした?フウカがそう思うもその後の言葉を容易に想像でき、顔をボンッと赤くする。
「す…?」
不自然に止められた言葉に疑問を抱くミナトは、首を傾げてその無表情で端正な顔でフウカを見る。
その蒼い瞳に覗かれ更に顔を赤くするフウカはリンゴのように真っ赤である。
「〜〜〜っっ!!もうっ!とにかく!ミナトは悪くない!」
少々強引に、話をぶった切ったフウカの様子がおかしく、ミナトはその掌でフウカのおでこを触る。
「……顔が赤い。風邪?それとも熱中症?……少し、熱高いよ?」
心配そうに至近距離でフウカを見るミナトと目があい、心臓がバクバクなフウカは目をぐるぐると回して混乱している。
「なっ、なっ、〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!」
「……やっぱり、高い。フウカ、熱がある。……俺が背負うから、フウカは安静にしていて。悪化する」
フウカに背を向けて腰の羽が大きくなり、その羽でフウカの身体を容易く持ち上げて羽だけで背負うミナト。
無自覚にイケメンムーブをするミナトはそのまま歩き出した。
(待ってもう無理どうしてそんなことを簡単にやるの!?私もう心臓バクバクでドキドキして破裂しちゃう!心臓が破裂して死んじゃう!)
お互いがお互いのことを想っているミナトとフウカ。
相思相愛ここに極まれリ。
そして、それを近くで聞いていたヘルメットを被った少女達に全く気が付かないほどミナトとフウカは二人だけの世界に入っていた。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」
「甘い゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙!!!!」
「何見せつけてくれるんじゃお前らあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」
「リア充爆発しろぉぉ!!!!」
「私達がクッソ暑い中働いてるってのにぃぃぃーーー!!!」
つい先程、ヘルメット団はとある学校に襲撃を仕掛けていた。
しかし、返り討ちにされた挙げ句、今さっき逆に襲撃をかけられてほぼ壊滅したカタカタヘルメット団の少女達は何とかギリギリ少ない人数ながらも逃げてきた。
その先でのこのクソ甘空間。
こんなに叫んでいるのに全く気づかないほど彼らは二人だけの世界に入っている。
温度差でワナワナと震えるヘルメット団数人は、残り少ない武器の弾数や爆弾を手に持ち怒りに燃える。
怒りの矛先は襲撃先の生徒たちに向いていたが、たった今変わった。
ヘルメット団のリーダーと思われる赤い服の生徒がザッと砂の大地を踏みしめる。
「お前ら……リア充を許すなァァァァァ!!!!」
『おおーーーーーーーっっっ!!!!!』
ひどく哀れな嫉妬の炎がミナト達に牙を剥こうとしていた。
「ん。……敵の残党発見。先生、畳み掛けるね」
〝頼んだよシロコ。ノノミは後方からの一斉掃射。ホシノは前線でシロコのカバー。セリカは遊撃で、アヤネはバックアップでお願い〟
「「「「「了解」」」」」
流石に殺気に気づいたミナトは背負っていたフウカを支えていた羽を解いて、自身の手でフウカの足を掴みちゃんと背負う。
「……フウカ。敵襲だ。ちゃんと掴まってて」
(待ってこれちょっと、というか、だいぶ恥ずかしい!!って、敵襲?)
そんなフウカの様子に気づくこと無くミナトは自身の銃を……取り出さない。
そもそも、ミナトの武器は「脚」だ。
一応、銃は給食部の支給品で持ってはいるが、殆ど使ったことはない。
フウカも戦えないことはないが、美食研究会に誘拐されて武器は食堂に置きっぱなし。
フウカ自身もキヴォトスでは珍しい戦うことはあまりしない生徒であるが故に、ここはミナトが背負って脚での戦闘の方が幾分かマシ。
故に手が塞がっていても問題ない。
伸縮可能な羽はかの風紀委員長よりも大きくなり、完全に後方からの攻撃を遮る壁となった。
(これで……フウカに、攻撃が……いくことはない)
「爆発しろぉぉぉぉこのリア充共がぁぁぁぁぁ!!!!!」
ヘルメットを被った少女が建物の影から出てきて手榴弾をミナトに投げ込む。
それを確認したミナトは踏み込んで、その手榴弾を相手に蹴り返す。
「はぁ!?そんなのありかよって、わぁーーー!?」
ドガーン。
と砂埃が舞っている間にミナトは出来るだけ相手の人数と情報を集めるべく、路地裏に入り、助走をつけて壁を駆け上る。
「ちょ、ミナトこれ何!?何が起こってるの!?」
「……よくわかんない……けど、何故か…狙われてる」
「そんな……!」
ダダダダダダッ!!!!
近くで銃の発砲音が響く。
「きゃっ……」
その音に思わずギュッとミナトの背にしがみつくフウカ。
その背に控えめながらもきっちりと主張する柔らかなモノが押し付けられ足が鈍りそうになるもミナトは無表情で動揺を隠す。
「……………」
ビルの屋上にたどり着いたミナトは屋上から階下をソーッと覗き込む。
そこに居たのはそれなりの数のヘルメット団と、明らかにヘルメット団よりも強い生徒達4人と、謎の大人。
「……誰?」
「さ、さぁ?」
ミナトの肩に手を置いて前のめりになっているせいで、そのエプロンの下のモノが更に押し付けられるが、フウカは全く気づいていないようだ。
流石にミナトもこれには少し顔が赤くなる。
普段無表情がデフォルトで鈍感なミナトだが、一応男子高校生である。
しかし、そんな思春期特有の淡い情動に揺さぶられていても状況は刻一刻と進んでいっている。
3分もしないうちにヘルメット団は制圧された。
その間、二人に会話は一切ない。
フウカはかなりの数居たヘルメット団を制圧した生徒たちを観察して。
ミナトは背中のモノから意識を逸らすように集中して、大人を見ていた。
(アビドス高校の人かな?でも確かアビドスってもう人がいないんじゃなかったけ……?)
(……あの大人、素人目で見ても……指揮能力の高さが……よく分かる)
((何者?))
こうして状況を客観的に見れば分かる。
黒松ミナトは美食研究会に連れ去られたフウカを風紀委員会と協力して奪還。
しかし、迷子となり何故かアビドスまで来てしまった。
そんな中アビドスでは、アビドス高等学校の救援要請に応えた連邦捜査部シャーレの顧問先生が来ていた。
その一環でヘルメット団と交戦し、その近くに黒松ミナトと愛清フウカが居た。
ただ、それだけ。
しかし、着実に歯車は動き始めている。
そして、
そして、
そして、
〝そこに隠れてるのは誰かな?〟
ここにアビドス高等学校とシャーレ、そして、ゲヘナの給食部が邂逅する。
さーてと、
見切り列車で出発したこの作品。
作者は全く頭を使っておりませぬ。
マジで自己満作品。
やるにしたって日常回を挟めばいいものを……何故メインストーリーをぶち込んだのか……。
謎である。