給食部副部長は料理を作る   作:絶対正義=可愛い

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「フウカ……大丈夫?」

ベッドで横になるフウカを見て、心配そうに覗き込むミナト。

ここは、フウカの家。

今日、フウカは風邪で学校を休んでいた。

「ゴホッ…ゴホッ……大丈夫だよ、ミナト」

「全然…大丈夫じゃ……ない。待ってて…今、お粥、作ってくる……から」

黄色い花がらのパジャマを着たフウカの額に冷たいものが乗っかる。

今どきの貼るタイプではなく、きちんと氷を使ったやつだ。

そばから、ミナトが離れていくのをぼんやりと見ていたフウカは、はて?と疑問に思う。

今は何時だろう……と。

壁に立てかけてある時計を見ると、午後11時だった。

こんな夜遅くにどうしてミナトが……?そう思った時に、思い出す。

枕元に置いてあったスマホを取り、モモトークを開く。

そこに書いてあったのは。

〝ミナトに会いたい〟 

風邪の熱ではない熱が、顔に溜まっていく。


「っ〜〜〜〜〜!!!!!」


掛け布団を頭から被り、自分の迂闊さを呪う。

(バカバカバカ〜〜〜!どうして、私っていつもこういうことしちゃうの〜〜〜っ!!!)

熱で思考力が低下していた…そう言い訳できるだけマシ…とは到底思えなかった。

こんな時間にミナトを呼び出して……という自責の念にかりたてられる。

でも、来てくれた………ということに、喜んでいる自分もいて。

どうしようなく、その卑しい自分が醜くて嫌いになりそうだった。

「フウカ……食べられる……?」

ビクッ……と肩が跳ねる。
すぐ近くにミナトがいる。

こんな姿、ミナトには見られたくなかった。

「うぅ……ミナトー……」

熱で精神面が不安定なフウカは、とうとう泣き出した。

さすがに病人が泣き出したことにアワアワと慌てるミナトだったが、如何せん心当たりが全くない。

「ご、ごめん…俺、何か…しちゃった?」

「うぅ〜〜…」

唸ってるだけのフウカに戸惑いつつも、取り敢えず、頭を撫でて落ち着かせる。

(こういう…フウカは……なんか、新鮮だ)

やがて落ち着いてきた頃その手を離す。

名残惜しそうに手を見つめるフウカは、目がトロンとしてきている。

「フウカ……辛い?」
「うん……」

「……お粥、食べる?」
「うん……」

「じゃあ……」

フウカの背中に手を回して、上半身だけ起き上がらせる。
フウカの顔は真っ赤だ。

ミナトはお粥を木のスプーンですくい上げて、息を吹きかけて冷ます。

そして、おもむろにスプーンをフウカの口元に差し出して言いやがった。

「はい、あーん……」

その瞬間、熱で浮かされていたフウカの頭は冴えわたる。

(……あ、あれ!?これって、つまり……伝説のカップルがやる……あーん!?まって、まだ心の準備が全然できてないっていうか、そもそもどうしてミナトここに居るのって、あぁ、私が呼び出したんだっけってそれついさっき確認したよ、というかこの状況、私パジャマで禄に髪もセットできてないし、私の部屋にミナトが居るってこれもうもはや同棲みたいなもんじゃ……!!!!)

「食べないの……?あーん……」

「あーん……♡」

屈した。
色々暴発気味だったフウカはその一言で屈した。

もう全部風邪のせいでいいやー、なら普段できないこともできるよね?

みたいな感じに思考が働いていた。

フウカはちまちまとお粥を食べ、ミナトは急かすことなく食べさせ続けた。

その中身が全てなくなったとき、時計の針は1時をさしていた。

夢のような時間の終わりだ。

「それじゃ、フウカ…お大事に…ね。ジュリも…心配してたから……早く…治すんだよ?」

「やー…」

お腹いっぱいになったことで眠くなったフウカは、熱と相まって幼児退行していた。

「やー…って、でも…俺も家に、帰らないとだし、校則でも…一応、夜間の外出は禁じられていて……」

ゲヘナに校則があったんだ、とか、そんなん誰もゲヘナ生は守ってねぇよとか、そういうツッコミ役がここにはいなかった。

頭が回っていないフウカは眠気に抗いながら、ミナトの腰の羽を掴む。

月明かりに照らされた、眠たげなフウカが、ミナトの瞳に映った。

「まだ、行かないで……?」

「っ……!」

ミナトの頬が若干赤らむも、フウカがそれに気づくことはない。

もう、ほとんど瞼が落ちているから、気づきようがない。

最後にミナトの腰の羽を両手で抱き寄せたフウカはそのまま夢の中に入った。


「……困るよ、そういうの………俺だって…男だよ?」


頭を掻きながらボソッと呟かれた声は、夜の静けさと狭い部屋にはよく響いたが、生憎それをフウカが聞くことはなく眠りに落ちた。










朝目覚めたフウカが悲鳴を上げ、ミナトが翌日熱を出したのは、言うまでもないだろう。


甘口カレーライス

「あ、ようやく見つけた!もう、どこ行ってたのよ!」

 

「うん…、ごめんフウカ」

 

迷子になったミナトを探して30分。

フウカ達御一行はミナトを発見した。

 

「……?ミナト、何かあった…?」

「……っ、別に…特には、ない」

「………そう」

 

些細な違和感を抱く。

曖昧な返事をするミナトの表情が、それを物語っている。

いや、知られたくないと暗に伝えてきている。

 

「顔色、悪いよ…?」

「……ここは、少し…暑いから」

 

いつもフウカの心臓をざわつかせる蒼い瞳は伏せられていて、今は見えない。

 

「ねぇ、ミナト」

「……なに?」

 

その様子が、まるで迷子のようで、ひどく痛々しくて、どこか遠くに行ってしまいそうで、だからその行動は無意識のうちだったのだろう。

 

「私の目を見て喋ってミナト」

 

フウカよりも背の高いミナトの頬を両手で挟み、その蒼い瞳を覗く。

 

「っ、フウカ…?」

 

紅と蒼が交錯する。

真っ直ぐとした紅は蒼を射抜く。

揺らいだ蒼は紅を覗う。

 

「……あまり、溜め込んじゃ駄目だよ?」

 

グッと堪えていた涙が決壊しそうになる。

 

「頼りにならないかも知れないけど、辛いときくらい頼ってよ」

 

どうしようもなく優しさに満ちたその言葉は、優しく、優しくミナトの胸を抉る。

 

「っ……フウ、カは…さ」

「うん」

 

母親のように、果てしない慈悲を滲ませた声色でフウカは相槌を打つ。

 

「もし…もし俺が、おれが…とんでもない嘘つきでも…おれと一緒に……居てくれる……?」

「もちろん」

 

即答だった。

あまりにも抽象的過ぎて、その言葉の意味全てを理解できることはないだろうに、それでもフウカは肯定した。

 

それが、何よりもミナトにとっては救いだった。

敵わない。

きっと、これから先どんな事があっても、黒松ミナトは愛清フウカに勝てない。

 

 

「ありがとう……フウカ…」

「ふふっ……♪どういたしまして!」

 

そう二人して笑って………

 

 

「(あの二人絶対私たちのこと忘れてるわよね……)」

「(う、うへ〜……アチアチだー。見てるこっちが恥ずかしくなってきちゃうよ〜…)」

「(ん!そこ…!行け、そのまま()()()()()だ!)」

「(シロコちゃーん?お二人の邪魔しちゃいけませんよ?)」

「(で、でも…この雰囲気だと…そ、()()()()()になっちゃいますよ!?)」

“(いやー、青春だねー。私の青春は遥か昔に置いてきちゃったからな……とほほ)”

「(ちょ、コメントし辛いからやめてくれる先生!?)」

 

 

ピシリと固まった。

ギチギチとブリキのように首を動かし、ミナトとフウカは目撃する。

 

寂れた道路の折れ曲がった標識から顔をのぞかせる6つの影を。

標識自体が1本の棒だからか、全く身体を隠せてない。

ご丁寧に標識は「!」マークだ。

 

そして、首を元の位置に戻し、一組の男女は今の構図を客観的に分析し始める。

 

フウカはミナトの頬を両手で包み、()()()()で両者共にはにかみあっている。

 

イタズラでミナトの背中でも押されればそのまま()()()()()してしまいそうなほどその距離は近い。

 

(あ、まつげ長い……きれい……。………!?)

(……………ち、かい…)

 

ボンッ!!!

 

二人の頭が爆発した。

物理的に湯気が出ている。

そして、バッとお互い離れて背を向け合う。

 

フウカの顔は真っ赤で見るだけで羞恥に悶えているのが分かる。

 

(あぁぁ〜〜〜〜〜っっっっ!!!!!よくよく考えたら私今とっても大胆なことしちゃったんじゃ……〜〜〜〜ッッッ!!!!!)

 

ミナトは普段は変わらない無表情が崩れ、眉を八の字にして口元を押さえている。

心なしか腰から生えている羽がソワソワしている。

 

(……なんか、顔が熱い)

 

初々しいここに極まれり。

どこからともなく声が聞こえてくる。

 

 

――アレでまだ付き合ってないんですよね……。

 

 

はよくっつけお前ら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その、改めまして、この節は…誠にご迷惑を、おかけしました……」

 

アビドス対策委員会の一室にて、黒松ミナトは頭を深々と下げていた。

 

「いや〜、いいよいいよー。おかげで良いもの見れたし〜」

 

「?」

 

良いもの…とは何だろう?

ド腐れ天然ボーイはそんなふざけたことを思っていた。

 

「や、やめて下さい……わ、私…恥ずかしすぎて死んじゃいますから……!」

 

その横では、消え入るようなかぼそい声でフウカが力なく抗議している。

 

フウカの様子が気になったものの、それよりもミナトにはやるべきことがあった。

 

「お礼…したい。…けど……何ができるか……」

 

「あ、じゃあじゃあ〜、ミナト君とフウカちゃんの料理が食べたいなーなんて」

「わかった」

 

即答だった。

食い気味にそう答えたミナトは早速買い出しに行こうとして…。

 

「ストップミナト!」

 

フウカに止められる。

 

「……?何か、買ってきて…欲しいものでも…ある?」

「いや、そうじゃなくて。……ミナトまた迷子になるつもり?」

 

あ。

 

と絶賛迷子になっていた子が気づく。

 

“あー、なら私が一緒に行くよ”

「ん、先生も迷子になったばっか」

“いや、今回はちゃんとシッテムの箱(コレ)の充電もしてあるから大丈夫だよ”

「…そう」

 

なら私と一緒に行こうか。

先生の言葉に無言で頷くと、今度こそミナトは買い出しに行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて…と」

 

ミナトが先生をお姫様抱っこで校舎から出ていったのを確認したホシノは、見計らったかのようにそう呟いた。

 

「後輩ちゃん達〜、フウカちゃんを囲め〜!」

 

「え?」

 

「ん、にがさない」

「は〜い☆」

「わ、私も聞きたいと思ってたのよ。悪く思わないでよね!」

「あ、あはは……」

 

瞬間。

愛清フウカは悟った。

あ、終わった、と。

 

「さぁ〜馴れ初めを聞かせるんだー!」

 

「いやぁぁ〜〜〜〜!!!!」

 

悲しいかな。

フウカの悲痛な叫びがあたりをこだまするが、それを聞いた者は誰一人として助けることはしなかった。

 

 

 

 

 

 

「帰っt………?」

“んん……カオス”

 

手にはレジ袋、その中には今日の献立の材料たちがひしめき合っている。

 

そんな、ザ・主夫!を体現した男、黒松ミナトがアビドスに帰ってきたとき、そこには口から魂みたいなのが出ている真っ白なフウカがいた。

 

ついでに何故か縛られている。

 

美食研究会でも来たのだろうか…?

真面目にそんな事を考えてしまう。

というか、それ以外でフウカが縛られている姿を見たことがない。

 

「???」

 

フウカを囲むように倒れ伏している対策委員会を見てさらに困惑してしまう。

 

もしや敵襲か何かでもあったのだろうかと見当違いな想像をしてしまうまでにある。

 

床に倒れる対策委員会の面々にヘイローが出てることから、緊急性がないのはわかるのだが……。

 

取り敢えずフウカを開放しようと縄を解く。

 

「フウカ…、フウカ……起きろ。なにがあった」

 

肩を揺すりながらフウカを起こそうと試みる。

 

「はっ……!ここは、どkみ、みみ、みみみみみ、ミナト!?!?!?!!?!?」

「深呼吸…落ち着け…」

 

目覚めたと思ったら顔を真っ赤にして言語中枢がおかしなことになっているフウカ。

 

だが、察してほしい。

 

根掘り葉掘り、秘めたる想いを赤裸々に暴かれ精魂尽きた少女が目覚めたとき、目の前に想い人の顔があったらどう思うかを。

 

結果、フウカはバグった。

それはもう盛大にバグった。

 

「い、いやー……破壊力が凄まじいね〜。おじさんには毒だよ〜」

 

フラフラと立ち上がり、服についた埃を払うホシノは、若干頬が赤い。

 

「………なんか、私たちとは、住んでる世界が違うわね……」

「うーん、でもでも〜素晴らしいですよ〜☆」

「ん、これは必ずぶっt……んぐっ」

「し、シロコ先輩、しーっ!」

 

ホシノが立ち上がるのを機にゆったりとした動作で立ち上がる対策委員会。

もちろん、皆一様に顔が赤い。

 

どうやら、恋バナに当てられたようだ。

 

「?……何が、あったの……?」

 

「ん。女子会」

 

「……?」

 

“……なるほどね。みんな、あんまりフウカをいじめちゃ駄目だよ?”

 

「わかってるわよ」

 

「???」

 

先生にはどうやら通じたようで、注意とともにやれやれと首をふる。

 

ミナトは本格的に宇宙猫状態だ。

 

 

「も、もう!それよりも、ご飯!」

 

「あ、うん。…ちゃんと、買ってきた…」

 

強引に話をぶった切る。

呼ばれたミナトは手に持っていたレジ袋を見せる。

 

「えっと…調理室…とかは?」

 

「調理室なら三階ですね~☆案内しますよ〜?」

 

「助かる……」

 

 

 

 

 

「……フウカ」

 

「はいピーラー」

 

「……ありがとう…」

 

「…あ、ミナト」

 

「はい…これ」

 

「ありがと」

 

 

 

((((いや、熟年夫婦か……!))))

 

以心伝心が過ぎる。

ミナト&フウカの料理過程があまりにもお似合い過ぎて、ちまちまと端っこでニンジンを星型にくりぬいている対策委員会の面々はなんとも言えない顔をしていた。

 

ちなみに先生は包丁を握らせた途端に指を切ってスプラッターに。

 

先生曰く、歴戦の戦士待ったなしの傷を背負うのであれば料理できるよ?だそうだ。

 

ドクターストップならぬ、コックストップがはいって先生は隅の方で体育座りで落ち込んでいる。

 

「でも、なんかいいですね〜、憧れちゃいますああいうの」

 

「それは……わからなくないけど……」

 

「ん。私はあの二人以外のカプは認めない」

 

「シロコ先輩、今日も元気ですね」

 

「うんうん、若人はこうでなくちゃいけないと、おじさんは思うよー?」

 

口々にフウカとミナトについて語り合う対策委員会。

そうやって、話題の中心たる者達が気づかぬ間にカレーのいい匂いが漂ってきた。

 

「わぁ〜☆とってもいい匂いです!」

 

「ん、今日のお昼は豪華」

 

「ちょ、まだ出来上がらないの!?は、早く食べたいんだけど!!」

 

「………もう少し、待っててね…セリカさん」

 

鍋から漂うカレーをお玉ですくい、一口味見するミナト。

 

「……うん、ちゃんと美味しい」

 

「あ、ミナト私も味見する」

 

「ちょっ、ちょっと二人とも!味見とかいって抜け駆けしてるじゃな………あ、間接……」

 

すくったお玉をミナトがフウカに手渡し、そのお玉で味見をするフウカ。

 

もちろん、間接キスなわけだが……。

 

「うん、完璧ね」

 

「……でしょ?」

 

はにかむフウカと、ドヤ顔風のミナトの二人はそれに気づいていない。

 

自然と頬が赤くなるセリカ。

もちろん、指摘するような野暮はしないが、勘弁してほしい。

 

 

今日一日だけで、糖分を摂り過ぎてる。

明らかに糖分過多だ。

 

 

「ん、二人とも間接キスしてる」

 

「「シロコ先輩!?」」

「「シロコちゃん!?」」

 

“あちゃー……、言っちゃった”

 

野暮を言うやつがいた。

 

その言葉に身体を硬直させたのはフウカ。

みるみる顔が赤くなって目もグルグル渦巻いている気がする。

 

「…ぷしゅー」

 

「フウカ…!?」

 

そのまま直立不動のまま後ろに倒れそうになるも、ミナトが慌てた様子で抱きとめる。

 

「だ、大丈夫…か…?顔が…真っ赤だ。熱中症……には、気をつけて…フウカ」

 

ボーッとしてきた頭でミナトの言葉を聞くフウカ。

 

(熱中症………ねっちゅーしよう……?)

 

聞き取った言葉を反芻し、

 

 

ボンッ!!!

 

 

爆発した。

自爆である。

 

そして、そんな光景を目の当たりにした対策委員会は。

 

『砂糖吐きそう……』

 

「砂糖だけ、吐く……?……みんな、器用なんだね」

 

“違う、そうじゃない……”

 

ミナトの天然発言に、先生の虚しい言葉は聞こえなかったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なには、ともあれ……召し上がれ」

「召し上がってください……うぅ……」

 

『いただきます!』

 

机に広げたカレーライスはホクホクと湯気を出している。

ルーとライスのコントラストが美しい対比を奏でるソレに、銀のスプーンが差し込まれる。

 

そして、対策委員会の口の中に……。

 

「こ、これはっ……!!」

 

瞬間。

対策委員会は幻視した。

 

カレーを口にしたものの服が弾け飛ぶベタなあの描写を。

 

「お、美味しい!!」

「これ、目茶苦茶美味しいですよ!?」

「ん、食べたことはないけど、一流のカレーってこういうのだと思う」

「……一流のカレーってなんだろ?」

「口の中でとろけて、しつこくない香辛料と、ご飯のハーモニーが、私の舌の上で大合唱してます!!!!」

「面白い食レポするねーアヤネちゃん。でも、その気持ちはわかるよ〜?これ、すごいもん」

「こ、こんなの、こんなの食べたらもう、市販のカレーなんて食べられないじゃない!!!」

 

 

その反応を見て、ミナトとフウカは顔を見合う。

そして、片手を上げてパンっ!と小気味よいハイタッチをする。

 

「やったね……」

「うん…!でも、いつもこんな言葉かけられないから、なんかすごい嬉しいね」

 

久しぶりにじっくりと、料理に集中して誰かに振る舞っただけあって、ミナトもフウカも満足感と達成感に満ちていた。

 

普段なら、ここまで一つの料理に時間をかけてあげることもできない。

 

「これをまずいとかいう奴がゲヘナにはいるの!?」

 

嘘でしょそいつら味覚が死んでるわよ!と驚愕に満ちた表情で言うセリカに、対策委員会全員(+先生)が頷く。

 

「給食部は……部員が、俺と、フウカを含めても3人なんだ」

 

「うへ〜、そりゃ大変だー」

 

「そうなんです。毎日給食4000人分を作るとどうしても味の低下がですね…」

 

『』

 

絶句だった。

思わず箸が止まるほどの衝撃だった。

 

え?

4000人分を3人で……?

1人1333人分?

 

そんな思考が対策委員会の面々によぎるものの、それは誤りだ。

 

正確には1人使い物にならないので、フウカとミナトで2000人分ずつだ。

 

「だから、今日は本当に嬉しいんです!こんな、料理を作って感謝されたのなんて…、すごい、久しぶりで……っ」

 

思わず涙が零れたフウカ。

そんなフウカの背中を優しくミナトがさする。

 

フウカは頑張っている。

それは、ミナトが、ジュリが誰よりも理解してる。

 

だからこそ、ちゃんとフウカをサポート出来ない自分に、やるせなさと、申し訳無さがわきあがってくる。

 

「……………(スッ……)」

 

 

そう、二人が黄昏れていると、シロコが懐から何かを取り出した。

 

 

青い覆面だ。

 

 

「………………みんな、ゲヘナにカチコミに行こう。いいよねホシノ先輩」

「うん、いいよ〜。今回ばかりは、私もちょっと許せないかも」

「…………………ぶっ殺してやるわそいつら……!」

「う〜ん、生意気な子たちはどこですか〜☆」

「…あはは……、まぁ、今回は……」

“うん、私もゲヘナに用事ができたかも……”

 

 

対策委員会と先生の凶行を止めるのにザッと1時間は要した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、また会うことがあれば!」

 

「うん、……その、案内…ありかとう……」

 

手を振りながら、ミナトはフウカをおんぶして走り去って行った。

 

 

とてもいい子たちだった。

 

対策委員会と先生が抱いた二人の評価はそれに尽きる。

 

「いやー、じゃあお昼も食べたし、お昼寝でもしようかな〜」

 

「もう、ホシノ先輩?今からアビドス定例会議の時間ですよ?」

 

「うへー、おじさんお腹いっぱいで眠いよ〜」

 

 

さて、切り替えよう。

 

 

“みんな、とりあえずアビドス校舎に戻ろうか?”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フウカ……」

 

「なに…?ミナト……ふふっ♪」

 

「機嫌…いいね」

 

「……ふふっ、それはミナトもでしょ?」

 

「……………うん、…まあね」

 

対策委員会から貰った地図を眺めるフウカとそれを背負うミナトは、ザッと時速60kmは出ている。

 

「あ、そこ右」

 

「…分かった」

 

自動車と変わらない速度で駆けているミナトは、黒い服の男を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私と契約しませんか?」

 

「………絶対に、断る」

 

「まあ、そう答えを急がずに……」

 

おどけたように、そう言った黒い男は間を作ってからこう言い放った。

 

 

「白州アズサ」

 

 

ダッッッ……!!!

と黒い男の首元にミナトの足が一瞬で到達し、寸止め。

 

「…………………どうして、お前、みたいな……怪しいやつから……、その名前が…出てくる?」

 

「あまり、怒らないで頂きたい……。私と契約すれば、彼女の現状をお伝えしますよ?」

 

「……っ!」

 

わずかに怒気の宿っていた瞳が、不安定に揺れる。

 

「どうでしょう?」

 

「……………………………」

 

自然と、振り上げた足が下がってしまう。

 

それだけ少年にとっては、大事なことだった。

 

「ああ、何も今すぐお答えしろと申してはいませんよ。ゆっくりでいいので、良いお返事をお待ちしておりますよ?」

 

クックック……と、笑いながら黒い男はその場から幻のように消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エデン条約」

 

「何か言ったミナト?」

 

「……いや、何も」

 

何かが始まるような、あるいは終わるような。

 

漠然とした予感。

 

そんな、予感を胸に抱きながら、ミナトはいつもの食堂に向かって走った。

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