すべてのなろうにさようならを   作:ハンバーグ公デミグラスⅢ世

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第十一話

ーーー

 

 

 

「どうだ、俺は天才だろう」

 

 

 

アッテンボローは略奪したワインを飲みながら自慢げに言った。

 

まさに大勝利。私は彼の姿に嫉妬した。

 

 

 

「ああ、君は天才だ。私ははっきり言うと、遜るのが嫌なくらい嫉妬している」

 

 

 

だから、正直な私は心の内をそのまま彼に告げた。

 

それを聞いた彼は素っ頓狂な顔をした。

 

 

 

悔しがったり、或いはごまかしたり。

そういう振る舞いを私に求めていた彼は私の堂々たる態度に大変不興であったようだ。

 

 

 

「くそ、気に入らないな。お前は」

 

アッテンボローは興ざめという感じで椅子に凭れた。

 

「それで、何をしてほしいんだ?約束は守ってやる」

 

彼は不機嫌そうな様子で私に言った。

 

 

「そうだった。アッテンボロー、王殺しの為に是非とも協力してほしい」

 

「いいぜ。でも、手柄は俺のものにしろよ」

 

彼はばさり、とまたマントを翻して長机の方へと歩いて行った。

そして地図を開いてある地点を指し示しながら小声で私に情報を伝えた。

 

「この砦から、南西の街のオストロルドに近々王や高級貴族が集まる」

 

 

彼はまるで人目を憚るかのような様子であった。

この部屋には王の監察官が居ないが、下の区画に士官達と共に彼らが待機している。

恐らくは、聞き耳を立てているに違いない。

 

 

「何故、貴族どもが集まるのだ?巡察王権なのだろう?王宮を構える事をしないはず」

 

「なんでも、この冬はオストロルドに滞在するそうだ。そして、そのついでかは知らんがそのオストロルドで王宮会議を開くそうだ」

 

「それで、国内の貴族が集まるのか・・・・」

 

「あとはわかるだろう?これはチャンスさ。たくさんの貴族が出入りするなら、我々の様な刺客が入り込む隙もあるだろう」

 

私は蝋燭に照らされる彼の自信満々な横顔にごくりと唾を呑んだ。

 

「お前にあの王は殺せない。大魔法使いだかなんだか知らないが、俺がぶっ殺してやる」

 

 

彼はそう言い切るとまたはははっと笑った。

 

なんとも気性の激しい男だ。

 

 

彼は加えて、私に街へ行くように命じた。

 

 

「オストロルドへ行って、本当に王が居るのかどうか確かめて来い。奴に謁見する口実は、教皇の使者というのでいいだろう。俺からの紹介状と教皇の勅書を持っていけば怪しまれまい」

 

 

 

私は彼からそれら一式を受け取ると、さっそく部屋を出てオストロルドへ向かった。

 

真夜中の終わり。丁度朝焼けが見え始めたころの事であった。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

ロルド国の北方、都市群の中では最北に位置するオストロルドは、かつての王朝が宮殿を置いた古都であり

その活力は未だ凍土に包まれても衰えていなかった。

 

 

街は高い2層の城壁に覆われている。内の城壁はかつての王朝であるコズロフ家が建て、下層区を囲う大城壁はそれを征服したリンドバーグが置いた。

 

城門をくぐって、私は早速その中心にあるという宮殿へ向かった。貴族が集まっているという事もあり、街は厳戒態勢であった。

 

 

 

あくる1週間後に開かれるという王宮会議に向けた準備だろう。

市場の商品はどれも品切れであった。

 

 

 

宮殿はビザンティン風の様式と地元の木造建築が混ざって重厚な城塞として鎮座している。

東側と西側に旧来の木造と石造りの堅牢な要塞として顔をのぞかせる一方、人々を迎える母屋と正門は絢爛なとうや白い城壁が誇らしげにそびえている。

 

どうやらこの城は、元あった城塞に全く違う文化の建築物が乗っかっているようであった。

 

 

そんな楽し気な様子の街であるが、どこか人々の面持ちは暗かった。

話に聞いていた予想とはだいぶ違っていて、私は面食らった。

 

道行く人々は、皆ひそひそ声で話をして、道路に出ている人は少ない。

 

私はその途中で、街を征く青年を捕まえて訳を聞いた。

 

「どうして皆、一目を憚る様に話をしているのだ?」

 

青年はあたりをきょろきょろ見回して、一言だけ秘密の様に私に教えた。

 

「・・・魔女が出たんです」

 

 

「魔女?」

 

 

 

私は思わず聞き返した。

魔女、とは禁術や悪魔崇拝などを行う宗教的逸脱者だ。

 

 

私も教会の騎士なのでその処刑に立ち会ったことがあったが、その実はひどいものだ。

村の嫌われ者、身体障害者、反体制活動家などを葬る体のいい口実に過ぎない。

 

 

それが、この国では王の命令として行われているらしい。

 

ロルドでは教会が機能していないため、リンドバーグの差配によって宗教的な取り決めが行われているが

それがこのような結果を招いているとは。

 

 

「こんなことは初めてか?」

 

「いえ・・・今年に入って、10人目です。市民は互いに監視しあい、少しでも国王や政治に不満を持つものがあれば”魔女”として火あぶりにされております」

 

 

私は固唾を飲んだ。

やはり、宗教的な導きを持たない地ではこのような蛮族的なやり方がまかり通ってしまうのだ。

 

熱しやすい私は怒りと共に王城へと乗り込んだ。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

宮殿は貴族たちの出迎えでてんやわんやだった。街下で魔女が出たなんて言ってられるような状況ではない。

 

買い付けた食料や燃料の搬入。貴族の宿泊先の確保。

 

 

それらを差配する役人たちの声は、夜の暗闇だというのにまるで怒号の様に鳴り響いていた。

私は彼らの肩の間を縫って、丘を登った。王城は街からさらに丘を登った先にある。

 

 

巡察王権とは、一か所に王朝の中心地を置かずに各地を季節と共に王が巡る統治方法だ。

 

ホードリックや教皇。他の王朝はおおむねどこかに居城や王都を構えてそこで政治を行うのだが、リンドバーグの場合はそれをしない。

 

 

その理由は今日のこの様子を見れば明らかだ。会議のたびに貴族や役人を一つの都市に集めていては、その街は枯れてしまう。

 

1万人しか賄う事の出来ない都市に2万人は住めないのだ。特に、この食料生産に乏しいロルドの大地ではそうだろう。

 

そんな考えを巡らせているうちに、私は王城へとたどり着いてしまった。

 

 

 

「教皇からの使者だ」

 

私は勅書を掲げて門衛に向けて堂々と宣言した。

 

「どうぞ、ギースベルト様」

すると門兵はその書状を確かめもせず門を開いた。

 

ホードリックのところの下士官たちとは大違いだ。私は気分よく門をくぐったが、反面気味の悪さも感じていた。

 

そもそも何故、教皇の使者としてではなく、私個人の名前を呼んだのだ。

 

薄気味悪い金ぴかの装飾が心なしか私を見ている気がした。

 

私はその後、薄暗い待合室に案内された。暖炉があったがいかんせん部屋が広すぎて寒かった。

 

部屋にはほかにも貴族が座っていた。彼らは毛皮を纏ったり鎧を着こんだりしていて、きまってみんな毛むくじゃらの口ひげを蓄えていた。

 

この国では、男は毛むくじゃらの方がモテるのだろうか。

 

私も少し前に髭を生やそうとしたが、妻に良い顔をされなかったので控えたのを思い出した。

 

 

 

この調子では暫く待つだろう。

私は先客を一瞥しつつ、この寒い部屋で数時間待つことを覚悟した。

 

「エルマー・ギースベルト様。謁見の間へお進みください」

 

しかし、席に座るや否や私はすぐに呼ばれてしまった。

 

 

 

あまりにも速すぎるのではないか。周りの先客の冷たい視線が怖い。

私は逃げるように背をかがめて待合室を後にした。

 

 

王が待つ謁見の間は天井が高く、ぼんやりとした照明がかがっており神秘的な印象を受けた。

私は恐る恐るその奥へと進み、王の前に傅いた。

 

王は部屋の奥に座っていてその顔は布かけで見えないようになっていた。彼は席に座ったままあれこれと側近に命令している。

 

王は無暗に人前に顔を晒さないのがこの国の風土なのだろう。

 

 

「よく来た。貴君が、龍殺しの末裔であるギースベルトか」

 

ロルド王は私の名を呼び、それを確かめた。思ったより若い声だ。張りがある、男性の声だ。30歳ぐらいだろうか。

 

「神の御名において参上仕りました。教皇の騎士エルマー・ギースベルトでございます」

 

私は”神”と”教皇”を強調してそう言った。

彼らは先ほどから私自身に興味があるようだ。

 

覚えめでたいのはありがたい事だが、私は教会の刺客。

 

名が売れすぎるのは今は避けたい。

 

 

 

だが王はそんな私の表情を見てか畳みかけてくる。

 

「知っておるぞ、あのホードリックの一件に関わっておると。今度はこのリンドバーグの命をとりに来たのか」

 

 

 

私はその発言を聞いた瞬間、ごくりと唾を呑んだ。そしてあたりを見回して、リンドバーグの親衛兵が私の周りに潜んでいるのに気が付いた。

 

血の気が全身から引いていく。

 

 

 

私はもはやこれまで、と覚悟を決めた。そしてどうせなら一思いに、と剣の柄に手を掛けた。

 

 

 

王は手を上げ、ヴァリャーグ親衛兵に周りを囲わせた。

 

彼らはもともと北方の海で暴れていた戦士団だという。

そのあまりに巨大な体は私の2倍はあろうか。巨人と呼ばれるのも頷けるほどの威圧感である。

 

 

私は進退窮まった。そしてどうにでもなれと剣を抜こうとしたとき、突如声が響いて制止させられた。

 

 

「もうよい。ウラジンスキ。そこらへんにしておけ」

 

それは30歳ぐらいの落ち着いた大人の女性の声だった。

それを聞いて親衛隊は引き下がり、それどころか王もその声に敬意を示した。

 

 

私はその声の主を警戒と共に見つめた。どうやらその声は、玉座の脇の壁の中からしたようだ。私は頭に疑問符を浮かべながらしばらくその壁を見つめていると

やがて人影が玉座の横手から現れた。私は見慣れない奇術に身構えた。

 

 

「しかし、陛下。こやつは教会の刺客です」

 

布の向こうのシルエットが壁から現れた女性に激しい様子で意見する。

 

だが彼女はそれを人差し指で制すると、今度は私に語り掛けて来た。

 

 

「怖がらせたな。どうにも私の部下は血の気が多くてかなわん」

 

女は堂々と私の前にまで現れると、その端正ではっきりとした顔をあらわにした。

髪は薄く色がかり、すらりとした立ち姿は正に魔女のそれを思わせた。

 

 

「貴方様は・・・?」

 

 

「私こそがこのロルドの王、アークウェット・リンドバーグ。正当な北方王であり、グレイブラント一の魔法使いである」

 

 

彼女はマントをばさりと翻し、私に宣言した。

 

噂に聞く奇術。尊大なその振る舞い。

アッテンボローや教皇の言っていた情報に合致する彼女の様子に私は確信した。

 

そう、彼女こそ本物の北方王リンドバーグだったのだ。

 

 

 

ーーー

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