すべてのなろうにさようならを   作:ハンバーグ公デミグラスⅢ世

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第十八話

ーーー

 

 

私は、広場へ向かって大急ぎで走った。

混戦のさなか、チェーンメイルを着た衛兵がグレイブで斬りかかってきたが

私はそれを躱して相手の懐にもぐりこみすぐさま斬り殺した。

 

広場はもはや、誰が味方で誰が敵かもわからないような状況であった。

私は混戦の合間を縫って、貴賓席の方へと走る。

 

爆発音、怒号、悲鳴。

曇り空の中でそれらの音は入り混じって壮絶な重なりを奏でている。

 

私はそれらの混乱の中を走り抜け、いよいよアークウェットの前へと躍り出た。

彼女はどうやら革命軍の首班と戦っているらしく、しかもその決着は今しがたついたようだ。

 

女王アークウェットは手を掲げ、膝をついた相手にとどめを刺そうとしている。

 

「アークウェット・リンドバーグ!!!貴方の御命を頂戴しにまいりました!!」

私は大声で宣言した。

 

勿論それは、彼女に気づいてもらうためではあったが

何より、今度は汚い手で命を狙わないという意思表示である。

 

女王はゆっくりと振り向くと、口角を上げて機嫌よさげに笑った。

 

「フハハハハハッ!!やっぱりお前は、私が見込んだ通りだ。そうでなくてはならない」

「簡単に死んでくれては困る!こうまで私の命に執着しているのは、ここに転がっているアリーナとお前ぐらいだからな。

だが、しぶといのはお前の方だ。だから気に入った」

 

「陛下、貴方は私に寛大なご処置を下さいました。しかし、私は教皇の御密命によってあなたを殺さなければならない!!

恩をあだで返すことをお許しください・・!」

 

「ふんっ、今更白々しい。私の親衛隊に襲われてそれを返り討ちにしておいて。

もう今からは何も考えなくていい。お前と私は、ただ命のやり取りをするんだ。全力でな。そこには何のしがらみもない。

例え教皇から命令されて、今ここに立っているのだとしても関係ない。互いの命を取ると決断して、剣を握っているのはお前と私自身でしかないのだからな」

 

アークウェットは今までにないほど楽し気に言った。

私には、彼女の言葉が不気味に思えた。

 

命のやり取りをする相手を前に、狂喜して上ずるのはっきり言って気が違っている。

 

私は、今までにない強敵を前にして震えが止まらない。普通はそういう反応をする。

 

「・・・・何故、貴方はそこまで楽しげなのですか・・・?私は貴方の御そばに居てずっと不思議で仕方なかった。

何故そうまでして殺しが。いいや、自分の命が危険に晒されることが愉快なのですか」

 

アークウェットはそれを聞いて、遂に万遍の笑みを浮かべた。

そして力強く拳を握って、万感の思いを込めて告げた。

 

「・・・・それは、その営為が!殺しという行動が!!・・・・もっとも人間的だからだ・・・」

 

「仰っている意味が解りません」

 

「エルマー、人間の定義とはなんだ?」

 

「・・・・・」

 

「人間を定義づけているのは、生と死だ。何某かの理由で生まれ、いずれ死ぬ。

生れてから死なぬのは、神だけだ」

 

私はその意味がやはり分からなかった。

彼女が大きな歩幅で歩み寄ってくる。

 

私はもう考えている余裕がないので、剣を構えた。

落ちていた刀なので手に馴染まない。だがしかし選り好みできる状況ではない。

 

私は右上段に構えて、ゆっくりと近づく。

女王は様々な魔法を持っている。今までに見た魔術は身体強化と触れた相手を燃やす魔法。加えて、念動力。

そしておそらくは、オーソドックスな遠距離攻撃も持っているだろう。

 

今迄に見た魔術はほとんどが”対象に触れる事”が発動条件になっているように思えた。

バザロフ公を焼き殺したときも、私の首を絞めた時もどちらも直接触れていた。

 

であれば、注意を向けるべきは遠距離の攻撃と純粋な体術。

魔術に強化された蹴りの前では鎧に覆われていても意味がない。

 

とにかく、近づいて彼女の意識外から攻撃を掛けるしかない。

 

「さぁ、来い。最後の勝負をしようじゃないか」

 

彼女は肩を回して、堂々たる表情で私を迎えた。

その顔は、北方の伝説。魔法使いアークウェット・リンドバーグのそれであった。

 

ーーー

 

戦いは熾烈を極めた。

私は彼女の攻撃を見切るのにやっとで、なかなか接近できなかった。

 

彼女はアリーナのようにいちいち詠唱して立ち止まる必要が無かった。

同じような高速の弾丸をノーモーションで打ち込んでくる。

 

もし、この直撃を貰えば私は一発で灰になる。

とてつもない緊張感の中、私はその間隙を縫い徐々に接近していった。

 

この時ばかりは、普段着ている鎧を着てこなくてよかった。

身軽な方が却って必死の状況では吉と出た。

 

私は彼女のペンダントが見えるくらいの位置にまでたどり着くと

一気に剣を横にして刺突攻撃を放った。

 

鉄壁の防御を貫くには、強度だ。ナイフを刺したときもあと少しで彼女の肌に触れられたのだ。騎士剣を、それも槍のように突き立てればあるいは。

 

私はリカッソ(剣の柄の部分で突撃する際に掴む)を握り、騎士剣に全体重を乗せた。

 

彼女の防御魔法に刃が刺さる。

私の騎士剣は最初こそ勢いよく進んだものの、相手の生身に触れる前にひしゃげてしまった。

 

女王は視線を上げて、鋭い目線と共に私を睨みつける。

私と彼女はそのまま一瞬目を合わせて見つめあった。

 

思い返せば、彼女は生身の状態では触れることが可能だった。意識を持たない唯物を弾くとすれば、或いは。

 

私はそのまま、曲がった剣を捨てタックルを繰り出した。

そしてその目論見は見事に的中した。

 

彼女と私はそのまま団子になって後ろに転がる。

私はすぐに拳を彼女の脳天めがけて振り下ろそうとしたしかし、その瞬間、彼女がふっと笑ったような気がした。

 

私は直感的にその表情に恐怖を感じ急いで彼女の体から離れた。

女王は大きく腕を掲げてそのまま振り上げると私の首に触れようとしてきた。

 

私は大きく体をのけぞらせてそれを避ける。

 

危うく、忘れるところだった。

彼女の魔術を。

 

私は再びひしゃげた剣を持つ。

何か打開策を・・・・何か、と私はじり貧になりながら考えた。

 

しかし、この状況ではそんな物も浮かばない。

だから私はまた外的要因を待った。有利になるようなイベントが何か起こらないか。ひたすらにその機会を待った。

 

その瞬間再び閃光が私の視界を包んだ。

アークウェットの洗練された魔法ではない。

出力をそのまま放つ粗野な魔法、これはアリーナこと姫の魔法だ。

 

「馬鹿な」

女王は焦りながらそちらの方向に振り向く。

彼女は親衛兵に抑えられているはずだ。魔法を撃てば自らさえ吹き飛ぶはずだ。

 

だがしかし、そこには紛れもないあのアリーナが立っていた。

 

正確には、すでに彼女は立っているとは言えない。

足はすでに焼けただれ全身にやけどを負い、満身創痍で這い

廻っていた。

 

「なるほど、親衛兵ごと魔法で巻き添えにしたのか」

 

女王はほんのりと汗をかいた。そしてぎろりと目を剥くと

私ではなく、彼女へ向けて魔法攻撃を放った。

 

アリーナはそれに対して精一杯の反撃を見舞った。

勿論、もはや女王の攻撃は防げない。だから彼女は女王に一矢報いてやろうという意地で攻撃を放った。

 

閃光があたりを包む。私はその衝撃と爆風に目を覆った。

次の瞬間に煙が晴れて、女王の姿があらわになる。

 

彼女は未だ健在であった。だがその立ち姿はボロボロで、

額からは血が垂れていた。

 

私は改めて彼女の前に立ちふさがる。

 

「女王陛下、恐れながら・・・・御命を、頂戴いたします・・・!」

 

私は再び彼女に告げる。

 

満身創痍なのはお互い様。今や剣は歪み、魔術は切れた。

ここからは互いに身一つで戦う。

 

終に私と彼女はただの人間同士として向かい合った。

 

ーーーー

 

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