すべてのなろうにさようならを   作:ハンバーグ公デミグラスⅢ世

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第二十話

 

ーーー

 

 

それから数か月後。ロルドは内戦状態へと陥った。

これは一度は解散命令を受け、散り散りになっていた親衛隊が再び結集し、残党組織を編成したがためであった。

 

アリーナという頭目を失い、市民たちばかりの革命軍はこれを抑えるに十分な戦力を持たず

結局は、貴族たちの助力で残党軍を排除した。

 

だがそれによって、新体制における革命軍の立場は一層弱まった。

やがて貴族たちは自分こそが次のロルド王だ、と争い始めた。

勿論、革命軍にそれを抑える力はない。

 

それから後はひたすら内戦。

彼らは安住どころか、元あった生活さえ投げ出して血みどろの闘争に陥ってしまった。

 

私は暫く現地で身を潜めていた。というのも、これだけの混乱の中ではまともに身動きが取れない。

 

町々では親衛隊の残党が略奪を繰り返し、それを抑えるべくやって来た貴族軍も同じように振舞った。

もちろんそれは僻地や田舎でも同じようなことが続いた。

 

私は結局一か月ほど身を隠して、教会の騎士たちと合流するために再びオストロルドへと戻った。

オストロルドはあの後、革命軍の首班が統治の中心地として使用していたようであったが、残党軍の逆襲によって奪い返されてしまった。今では、残党軍が占拠しているようではあるがその大部分はすでにこの地を去っており人通りはまばらだった。

 

そのせいか、私の様なよそ者が町を歩き回っていても誰も気に等留めなかった。

私はその足取りを、女王を殺したあの広場へと向けた。

この日はもう雪解けの季節となっていて、溶けた雪と雨の水分で石畳はびしょびしょに濡れていた。一方で建物の陰などにはまだ雪が残り道が結露していた。

普段なら、湯を掛けたりして道を整備するだろうに、この様では市民たちの多くはすでにこの街を去ってしまったのだろう。

 

街道をまっすぐ進み、城へと向かう階段を駆け上がる。脇には戦闘で死んだであろう兵士たちの亡骸が

いまだ片付けられずに転がっていた。この冬のおかげで腐らずに済んでいるのだろう。

 

私はそれらを横目に広場へと躍り出た。

見覚えのある景色だ。丁度一か月前にここで女王と殺し合いをしたところで相違ない。

私は何の気もなく広場を眺めた。

 

「あれは・・・?」

だがあたりを見回していると、一か月前にはなかった物が目に入った。

それは十字架のオブジェクトで、何か仰々しい文章が書かれているようだ。

どうやらその十字架は墓のようだ。枯れた花束が周りに散乱していた。

 

私はその前まで進む。

そこには、長ったらしい前文と共に

”アリーナ・アガフォーノヴナ・マスリュコヴァ。王家とロルドの民の為にここに死す。享年17”と記されていた。

これは、あの反乱軍のリーダーだったあの子のものだ。

 

若いとは思っていたが、僅か17歳だとは。

私は静かに目を閉じて彼女の為に祈った。

 

そうして私は広場から離れようとした。

だが、その時ふと視界の中にもう一つ見慣れない物が映った。

 

それはこのアリーナの墓よりもよっぽどちゃちで、

普通の墓にしてみてもだいぶ質素だった。

 

私はそんな面白くもない墓に、妙に好奇心をくすぐられた。

ふと気が付いた時には思わず、その前に歩み寄っていたほどだ。

 

それは、丁度建物の陰になる位置でまだ溶けきらない雪が重なっていた。

私は手をかざして、その雪をのける。

 

だが、この墓には個人名は愚か具体的な事は何も書いていない。

ただ小さく”名もなき一人の人間。ここに眠る”とだけ記されている。

 

結局、これは誰の墓なのだろうか。

ここで命を落とした名もなき兵の物か?

 

私は自分が何故、こんな何者でもないような墓に惹かれたのか判らなかった。

こうして、ま近で見て見ても面白いものは何一つない。

 

「もう戻ろう」

 

私は軽く手を合わせると踵を返してきた道を帰ろうとした。

だがその時、足元に見覚えのある物を見つけた。

 

私は溶けた水で濡れたそれを拾って顔に近づけた。

 

それは髪留めだ。簡素ながら、上質な造りの物。きっと貴人の私品だろう。私は暫くそれを眺めた。

 

どこかで見たか、あるいは誰のものか。

私は寒さに肌を強張らせながら掠れつつあった記憶を辿った。

 

微かな思い出。そのうちの一遍にその髪飾りは在った。

それはやや色味がかった長髪の女性に刺されていた。

彼女はそれを風呂場で外し、侍従に渡していた。

 

そしてその持ち主は、美しい体つきと共に哀愁を帯びた面持ちで私の記憶に焼き付いていた。

 

 

ここまで思い出して私はそれが誰のものであったのか理解した。

そしてこの墓に埋まっているのが誰なのかも。

 

私は彼女の名を呟こうとした。

しかし、私はそれを住んでのところで止めた。

 

この墓に書かれている名前は”身元知らずの女性”なのだ。

それは”女王”でもないし”大罪人”でもない。ただの人間だ。

 

 

だから私は彼女の名前を呼ばず、あくまで

一人の女性としてその墓を見舞った。

 

私は何も言わなかった。

もちろん、私が殺したのだから告げるべき言葉はあるだろう。

 

しかし、これは使命であったし何より彼女が望んでいたのはあらゆるしがらみからの開放だったろう。

 

だから、私は祈り以外に何もしなかった。

きっと彼女もただの人間として葬られることを望んでいる。

 

私は髪飾りを落とした。

 

それは墓の前から転げて奥の方へと消えて行ってしまった。

私は最初、そちらを向いてそれを拾おうとしたがやめた。

 

髪飾りは貴人の物だ。普通の人間として眠っている彼女にはもう不要だ。だから、あれを追う必要もない。

 

ーー

 

次に生まれ変わった時には、きっと短くても色濃い人生を彼女は望むだろう。たとえ特別な力なんかなくても、その短い一生の間に意味を見出すだろう。

 

それが、人間というものなのだから。

 

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