すべてのなろうにさようならを 作:ハンバーグ公デミグラスⅢ世
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相手の戦力は広く分散していた。
これは弓兵の射角を広くとることを目的としていたからだ。
私はそれを逆手にとって、急所を守りながら盾を担いで弓兵の方へ突撃していった。
私が持っていたのは中型のカイトシールドだ。これは取りまわすのには楽だったが、強度に問題があり
実際この時の射撃に対してはすぐに貫通されてしまった。
私は走りながら盾を捨て、頭を手甲で覆いながら剣を片手に近づいてゆく。
こうなっては、胸や足への攻撃は防ぎようもない。しかしそれらには教皇から下賜された金一封で作った板金鎧がある。
多少の事で傷つきはしまい。
私はもはや怯えても仕方がないので、剣を構えてひたすら大きな声で突撃を繰り出した。
それに驚いたのか、弓兵たちは私に向けて集中砲火を加えて来た。
私は木の裏に隠れてそれをやり過ごした。
そして一通りの矢が放たれた後再び身を屈めながら、一気に走り寄った。
敵のメンアットアームズが行く手を阻まんと剣を剥いて私に飛び掛かってくる。
それなりの腕はあるのだろうが、ロルドの親衛隊と比べれば小柄でだいぶおとなしい。
私は剣を交差させて、相手の刃を下に払うと慣性でそのまま相手の喉元を突いた。
次いで襲い掛かって来た敵は剣で敵わないとみると防御を捨てて、盾を構えたままタックルを見舞ってきた。
私は剣を逆側に持ち替えて、ハンマーのように剣を使った。
これは一見、乱暴な使い方に見えるがれっきとした剣術の一つで
特に搦め手の時に用いる。長剣はそれ一本でだいたいの場面に対応できる。だからこそ、それは騎士の象徴でもあるのだ。
私は剣を逆手に持ってポンメル(剣の柄の下にある突起。重りになっている)で相手の盾を叩いた。
これによって相手はひるみ足を止めた。それを見るなり私はすぐさま蹴りを放ち彼を転がした。
そして転んだそいつの脳天に又ポンメルで3回ほど叩きつけて仕留めた。
弓兵たちはそれをみて、私を脅威と思ったらしい。
半数の5人が弓をしまって剣を抜いて襲い掛かって来た。
しかし、彼らの多くは短弓以外にはブロードソードぐらいしか持っておらず
纏う鎧もほとんどが布地の物であった。
装備では圧倒的にこちらが優位だ。
私は大振りで真っ先に近づいてきた兵士を斬り伏せた。
鎧下にチェーンメイルを着こんでいる者も居たが、私の剛腕と硬質のロングソードの前では
生身も同然。板金鎧でなければ、剣の斬撃は一発で致命傷となりうる。
仲間が屠られるのを見た弓兵たちは恐れおののいて後退し始めた。
元々彼らは近接戦は得意ではない。それに見たところ矢筒ももうないようだ。
こうなればもはや敵集団は浮足立って、戦いどころではない。
近接兵種であったメンアットアームズが瓦解した今、彼らは烏合の衆だ。
私はそれらを見届けて、歩みを止めた。茂みの後ろにまで後退するならもう追撃する必要もない。
だが、私が剣を収めて正面の方へ向こうとしたその矢先、音もなく背後から騎士が斬りかかって来た。
そういえば騎士も混ざっていた。彼はメンアットアームズよりも上等な鎧を着込んで、硬いクレイモアを持っていた。
私は彼の斬撃を後方へ回避して、素早く突きを放つ。
騎士はそれに驚きつつも、刀で薙ぎ払い防いだ。今までの騎士とは違う、大振りの剣術だ。
しかし私は数打ほど打ち合いして彼の行動の癖を完全に見抜くと、
一気に懐に潜りこんで脇の鎧が甘い部分を切り上げた。
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敵が退いていく。
どうやら正面の敵も撃退したようだ。
私は切り殺した騎士の死体を持ち上げる。
そしてその身辺を改めた。彼はひと際仕立ての良い上衣を着ていた。
恐らくはこの襲撃部隊の指揮官だったのだろう。
私はその板金鎧をはがして鎧下に手を伸ばす。
彼の首にはペンダントがかかっていた。それはどうやらどこかの貴族から下賜されたのか
裏には紋章が刻印されていた。
虎と、花の紋章。これには見覚えがある。
ロルドの、それもアークウェットの紋章だ。正確に言えば彼女の王家の紋章だ。
これを持つという事はつまりこの者はロルドの手の物という事。
私はそれを訝し気に見つめた。
「居たな、大逆人」
ペンダントを見つめていると、突如後方から声を掛けられた。
私は振り返る。
「忘れはしないぞ、女王陛下を殺害した痴れ者。エルマー・ギースベルト」
その女は口をとがらせて私を糾弾した。
この声には聞き覚えがある。
カンカンと頭に響く声。やがて彼女は私の方へ歩み寄り、フードを下ろす。
「久しぶりだな、エルマー」
彼女は狐目で睨みながらそうやって挨拶した。
毛並みの良いポニーテールに、左目を覆う眼帯。それに顔を斜めに走る切り傷の跡。
私は彼女を見据えて、目を丸くした。
この女は、オストロルドの処刑台で戦った女小姓だ。
私は彼女の様子に警戒を強める。
「・・・その様子では、私に会いに来たのではなさそうだな」
「当たり前でしょう?あたしは、あんたを殺しに来たのよ」
「ああ、アークウェット様を殺した愚か者め!お前が女王陛下を殺したように、喉元を掻っ捌いてバラバラにしてやる!!」
小姓は叫んだ。
彼女は相変わらず激しい気性でレイピアを構える。
私は暗闇のせいで彼女の剣撃が良く見えなかった。だが、焚火に反射した剣の峰が一瞬見えた。
私はそれを頼りにぎりぎりで剣を避けた。
強い。彼女は以前よりも強くなっている。
「どうした!罪人!お前の剣技はそんなものか・・!?女王陛下を殺したのだろう!!
あのお方がそんなへなちょこな男に殺されるものか・・・!ああぁ!!陛下を冒涜したな・・・!!」
彼女はそう言って益々怒りを募らせる。
普通、憤怒は剣先を鈍らせる。しかし、彼女の場合はその怒りが
甘かった脇を固める要因となっている。
厄介なことだ。
私はこれでは勝てない。そう悟った。
何故なら彼女が指摘するように、私の剣の腕は鈍いからだ。
先ほどの騎士との戦いもそうだが、暗闇に紛れる相手の気配を読み取ることができない。
下手すればあの時殺されていたかもしれない。
だが今は、私に有利だ。おそらく彼女の手の者であろう部隊は後退している。
強がってこそいるが、彼女は私を殺す機会を改めなければならない。
そして私の読み通り、小姓は不利を認めると
じたを踏んで剣を収める。そして一通り叫び散らかすと
「この先のレーズラントで会おう。お前を殺すのはこの私、ロルドのユリア・イスフェルトだ」
と吐き捨て、再び闇の中へと消えていった。
私はその時初めて、体がぶるぶると震えていることを認識した。
死を意識して、体が恐怖を覚えていたのだ。
なんとも情けない。
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レーズラント連合王国に着いた頃には、兵士・従卒合わせて僅か7名にまで減っていた。
そのほかは殺害されるか、或いは傷が原因でそのまま死んだ。
近場に傷を手当てできるだけの集落が無かったのが災いだった。
そのせいで彼らは深い森の中に骨を埋める事になってしまった。
私はまず、レーズラントの女王へ会いに行った。
今回の指令は彼女を殺す事ではない。
王女にその次第をすべて話して、判断を仰ぐ使者の役割だ。
だからこうして、お供までつけて着飾って来たのに
レーズラントに着いた頃には返り血と汗で鎧は滲んでしまっていた。
大陸の西端にあるレーズラントは本土が大きな島になっていて
その殆どが豊かな穀倉地帯である。
私は大陸側の舟渡に駄賃を渡して海峡を渡った。
この地域は治安が良く、海賊などの心配はいらなかったが
暇と富を余らせた貴族同士の私闘が横行している。
この海峡を渡るときも、対岸の村で火の手が上がるのが見えた。
私は船頭にあれは何事かと尋ねた。
「ああやって、レーズラントの貴族同士が土地を巡って争ってるんでさ。西の端では世界が腐り始めているらしいですし、
王様は虚弱ですし仕方がねぇんでしょうけど、わしら民草からしてみれば迷惑千万ですわ」
と老爺。
「請求権を捏造してまでか、見苦しい。世界が端から腐り始めているというのに」
「だからじゃないですか?西の方はもう、陸地も腐り初めていると聞きます。そういう危機感から、東へ東へと行くんじゃないんですかい」
彼は一通り言った後、「まぁ、私の下らん与太ですが」と言って目を背けた。
私はそれを横顔で聞きながら、対岸の火事をじっくりと眺めていた。
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レーズラントは肥沃な大地だ。
雨が多く降り多湿なため大陸の中央部と比べると全体的にぬるっとした空気が漂うが
それを補って余りあるほど自然と豊穣に満ちている。
私はレーズラントの本島に上陸し、王宮のあるオスティンガムへと続く街道を進んだ。
私は驚いた。
その道脇には目を疑うほどの大麦畑と、のどかな牧草地が広がっていた。
人々は生き生きと生活を楽しみ、街道は広く、見通しよく作られている。
「レーズラントは田舎に過ぎないって聞いてましたけど、全然そんなことないじゃないっすか。
天国みたいな場所ですね」
ペーターがまた能天気な事を言う。
でも確かに、この景色は美しい。我々の故郷である教皇領は山々に囲まれていて寒い。
それに比べてここは温かい。それだけで羨ましいと思える。
我々はそうして旅程を楽しんでいる間にオスティンガムへとたどり着いた。
この街は初代レーズラント連合王が城塞都市として建てたのが始まりらしい。
実際その噂は本当らしく、円形の側防塔が我々を覗き込むようにそびえて居る。
居並ぶ城壁は、まるで王権を誇示しているかのようだ。
我々が教会の使者である旨を伝えると門兵は我々を城内へと向かい入れた。
城壁を超えた先の館は以外にも質素だった。
否、質素というよりも古い様式の城館と言った方が正しかろう。
石造りの箱型の城はよく手入れされていて、床や壁は適度に補修がされていた。
私は最初、どこからそこに入っていいのか判らず右往左往した。
使節なんて気取ったことはしたことがない。当然、宮廷儀礼なんかも私にはわからない。
だからこういう時、どうやって王に謁見するのかなんか知らない。
そうこうしているうちに、ペーターが私に「何をしてるんですか?さっさと中へ入りましょう」と言った。
私は彼の言に従ってその中へと進んだ。
中には従者が待っていて、皆我々に頭を下げている。
私は今迄の様な訪問者ではなく、対等な使者としてやってきているのだ。
堂々とせずにどうする。
私は心の中で自分を叱咤した。
ペーターは流石にボンボンというだけあって、こういう高貴な場所や儀礼に物おじしない。
やはり、貴人には貴人なりの器量というものがあるようで、
こういう外交的な知識に関しては遥かに彼の方が上手だった。
間もなく、レーズラント王家の家令が私たちを呼びに来た。
私はその誘導に導かれるまま、王女の待つバルコニーへと向かった。
そこは大きな窓がある部屋だった。
照明は少なく自然光を多く取り入れる設計になっていた。
簡素ながら質実剛健を思わせるインテリアが美しい。
そして何より、外から吹く緑の香りが心を落ち着かせてくれる。
王女はその部屋から出たバルコニーで椅子に凭れていた。
私は彼女の近くまで寄って、挨拶を申し上げた。
「レーズラント連合王国の王にして、6大君主の一つオスティンガム公爵の正当な保持者、ウィルヘルミナ・メアリー・ドレッドノート様。
教会騎士エルマー・ギースベルトが教皇の名代としてご挨拶申し上げます」
私はうやうやしくあいさつした。
それに反応して彼女が椅子事こちらへ振り返る。
その姿は、女性というよりも少女という言葉が似あうような可憐なものであった。
アークウェットを大人の魅力とするなら、彼女は清廉な若さの魅力だろう。
金髪のブロンドと美しい青色の眼は優しさと思慮深さを感じさせた。
彼女は私を見て少し顎をあげ、そして口を開いた。
「貴方が、エルマー・ギースベルト・・・・。あの龍殺しの末裔ですか」
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