すべてのなろうにさようならを 作:ハンバーグ公デミグラスⅢ世
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それから私は、心の中にわだかまりを抱えたまま
王女メアリーの傍らに出仕した。
彼女の職務はひたすら事務的なものだった。貴族間の調停や市場の調整、
加えて、腐敗によって国土を追い出された人々への対策もしなければならなかった。
「それでは根本解決にはならない。大陸への侵攻を」
私が見ただけでもその類の訴えが複数件王女へ持ち込まれた。
確かに、彼女の施策ではいずれくる限界に対して、あまりに無策だ。
そのため貴族たちは、大陸への侵攻によって植民を行いレーズラントを東方へと拡大することを提案しているのだろう。
もっとも、それによって最終的な解決に至らないのは王女と同じなのだが。
だが私は知っている。彼女がそれを心根から行っていない事を。
私は知っている。彼女が”根本解決”の為の手段を講じようとしている事を。
それはある夕暮れ時のことである。
私は王女の下に教会との穀物輸出協定の手段について確認しに行った帰りで、
王宮に忘れ物をしたので取りに帰った。私は教会の使者でありながらそのようなこまいミスをしたのが恥ずかしく、
背を屈めて衛兵に尋ねたが、彼らはそれをなんのけなしに承諾し
「こちらにどうぞ、一級騎士様」と案内してくれた。
私はその導きに従い、城の回廊を歩いて接見室に行った。
そして忘れ物である教会の印書を取ると、衛兵に確認して
直ぐに戻った。
その帰り道、私はふといつもと違う道を通りたくなって
普段ならまっすぐ修道院へと帰る道を、わざと遠回りな裏道から帰るようにした。
裏道は、王家所有のブドウ畑と森を通る道で暗いながらも綺麗に整備されていて歩みやすかった。
そしてその道をちょうど中ほどまで来たあたりで、何やら物音がするのを私は感じた。
最初は獣か?と思っていたがどうやら違うらしい。それは何やら声を発している。つまり人間だ。
そもそも、この王家の所有地で何者がそのような真似をしているのだろうか?と私は疑問に思った。
もしかすると犯罪者かもしれないと考えた私はその声のする方を覗きに向かった。
そこには小さな池があった。そのほとりには狭いながらも耕作されたと思われる土地があった。
私は遠くからではよく見ないので、街道から少し森の方へ入って目を凝らした。
そこには4人ほどの人だかりとそれに見守られて、何か儀式の様なものをする少女が居た。
私はその少女の姿を見て驚愕した。
彼女こそ王女メアリーであったのだ。
彼女はここでどうやら祈祷の訓練をしているらしい。
それの意味するところはつまり、”農業スキル”の復活を図っているのだろう。
陳腐な名前だが、馬鹿にはできない。
この奇術を復活させればこの枯れた大地を復活できるかもしれないのだから。
私はそれ以降、彼女を見る目が変わった。
以前はその幼さながら毅然とした様子で職務に当たる彼女に感嘆を覚えていたが
今では、その内面の熱い志を見てなんと健気なのだろうと感心している。
しかし同時にやはり私は彼女の死を願っている。
何故なら、現状この世界の崩壊をとどめる最も確実な方法がそれだからである。
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私は彼女の傍に、教会との連絡役として勤務しながら
その首を狙うべく何かのきっかけを探した。
教皇は友好国であるレーズラントの王でさえ殺せと命じたのだから。
しかし、私はこの女王をロルドやホードリックのように殺すわけにはいかない。
そもそも、教皇からの指令にも彼女が”農業スキル”を使えなければ殺す必要はないとまで言われている。
だから私は最初、彼女が”農業スキル”を使えないと聞いて安堵した。
しかしそれは彼女の願いと反していた。
彼女はその力を復活させて、国土を回復したいと考えていたから。
一方で私は無くした教皇からの指令書についても努力しなければならなかった。
これをレーズラントの誰かが拾ったりすれば、教会との関係は絶交されてしまうかもしれない。
そんなこんなで、私は数か月を何もせずぶらぶらと過ごした。
もちろん手紙を探したり、現地の司教と教皇院との間の連絡の他に現地有力者との交流など
”表”の任務はこなしていた。しかし、教皇はそれに対して苛立ちを募らせているようだ。
彼は手紙で「手持ちの戦力が足らないなら、こちらから1級騎士3名と騎士副長に率いられた1200名からの騎士団を派遣する」と事後通告で送って来た。
一級騎士は教会騎士団の中でも高級幹部だ。私も(龍殺しの末裔というコネがあったが)一級騎士であるが、その実力は知ってのとおり
手練れである。通常なら、一級騎士はそれ単独で数千名の部隊を束ねたり任務を総括する物だが、今回は教会騎士副長までやってくるという。
その名が示す通り、彼は騎士団のナンバーツーであり、その実力はやはり私を遥かに凌ぐ。彼は本来は教皇領への侵入以外には滅多に出陣などしない。
つまりこれは教皇の激怒の証明に他ならない。
私は急いでペーターを呼び出した。
そしてまず、彼らを迎える準備をした。
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波止場には教会の印章が掲げられたキャラック船が堂々と入港してきた。大型の軍艦で、港町は騒然となったが友好関係にある教会の紋章を見てからは市民も落ち着きを取り戻した。一方で私は胸のざわめきが大きくなっていった。
キャラックの船団はそのまま桟橋に寄せると
完全武装の兵士たちを次々に下ろした。
私はその兵士団をの方へ歩いてゆき、副長を迎える準備をした。
やがて、着飾った様子で副長が私の前に現れる。
彼は聖職者ながら清貧という至上を忘れ、宝石がちりばめられた宝剣を帯刀している。ガントレットも金色に輝く特注品だ。
私は彼の前に膝間づくとあいさつした。
「騎士副長様。ご無沙汰でございます」
「エルマー・・・・貴様は言ったい何をしている。私の手を煩わせる気か?」
「は、閣下・・・?」
「貴様の役割は、レーズラントの王女を殺す事だ。何をしている。私の出迎えなど良い。早く攻撃の準備をせよ」
と性急に言い放った。
私はその言葉に疑問を抱きつつも、とりあえずその場を取り繕うために「はい」と承諾して下がった。
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