すべてのなろうにさようならを   作:ハンバーグ公デミグラスⅢ世

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第二十八話

ーーー

 

それから一気にレーズラントを取り巻く情勢は変わった。

教会は王女の命を狙うために大戦力を投入し、

また何者かは王国に騒乱を起こすために兵を整えていた。

それらの思惑は十人十色だが、目的は一致している。

王女の命だ。

 

私はそれらを受けて、八方塞がりになった。

正直、教会からの指令をこなさなければならないと思いつつも

王女の命を奪う事が本当に必要なのか、または教皇の指示は正しいのかと疑念を抱いた。

 

だって、彼女には大王たる資格がないのだから。

奇術も、カリスマも、統治能力も他の大王には遠く及ばない。おまけに血筋も薄いという。

 

そんな彼女を殺す必要はあるのか?

私は、神の啓示を疑う事はなかったが、やはり謀略好きの教皇の言う事には疑念を抱かざるを得なかった。

 

それに、私はもう殺しに飽いていた。

 

 

 

私は落ち着きのない様子で、教会をうろうろした。

そして何度かペーターに呼び止められてやっと平静を取り戻した。

「・・・エルマーさん、大丈夫っすか?」

 

「ペーター、すまん。私は冷静ではなかった」

 

「・・・副長の命令。どうするのですか」

 

「もちろん、表向きには従う。だが、そもそも王女の命を取る必要があるのか私には疑問だ・・・」

 

「・・・・」

 

ペーターはそれに対して特に何も言わなかった。

彼にとって、エルマー・ギースベルトは憧れの英雄だったのに、その実は心の弱い青年に過ぎない。

ペーターはそれに、自分の理想が汚された気がした。

だから、少し不機嫌になった。

 

私はとにかく、メアリーにまた会いに行こうと考えた。

それが何の解決にならない事は十分わかっていたが、

八方ふさがりの私には、もうそれぐらいしかできることはなかった。

ーーー

 

「それで、私のところへ来たと・・・」

 

「私は、貴方の首を狙っておりました・・・・・お許しにならないでください。私は、英雄などではございません。ただの通り魔です」

 

メアリーはその可愛げで、はっきりとした輪郭の顔をもたげて私を眺めた。

そして、「エルマーさん、貴方はなんで私を殺す事をあきらめたんですか?」

と尋ねた。

 

「・・・・もう嫌になったんです。誰を殺すのも、誰かに殺されそうになるのも。正直、妻と一緒に誰も居ない田舎へでも引っ込もうかと考えたこともありました。

しかし、私は教会の騎士です。神のご意志に歯向かう訳にも行きません・・!そんな矛盾を抱えて、私はどうしようもなく苦しくなるのです・・・」

 

「・・・貴方は、お優しいのですね。エルマーさん。私は、確かに王女の資格や素質などありません。でもね、その義務から逃げ出そうとは思ったことはないのですよ」

 

私はその言葉に顔を上げた。

メアリー王女は続ける。

「だって、こんな事他の誰にもできないのですよ?私以外の末裔には農業スキルの詠唱すら覚えている者が居ない。

だったら、これも神の与えた試練だと思いませんか?」

 

「試練?」

 

「えぇ、神は乗り越えられない試練は与えないのですよ」

 

「理解できません。それに従うならば、貴方は自らを亡ぼす道へと進むことになるのです」

 

「でも、それこそ正しい道なのではないですか?私はよしんば、若い身空で命を落とそうと後悔しない」

 

私はその宣言に絶句した。

まだ20にもならないメアリーにこれを言わせるほど、彼女の信仰には曇りが無いのだ。

私は目を閉じて、祈った。祈って自分を恥じた。

 

何故迷っていたのだ。私は、神のご意志を疑う事などあってはならなかったのに。

 

私は、それを聞くと立ち上がり「ありがとうございます」

とだけ言ってお辞儀した。そうしたら、メアリーは少し可愛げのある顔で笑った。

そればかりは年相応の女の子らしく。

 

ーーー

 

私はそれら一切の無礼を詫び、まずは王城から下がろうとした。もう外はすっかりと陽が落ち、城壁には影が差している。

 

外ではペーターが馬を用意して待っていた。

「遅いですよ、エルマーさん」

 

「あぁすまない」

私は、平謝りすると馬に跨った。

思えば、私は神のご意志を疑っていたのかもしれん。

そう考えるなら、為すべきことはただ一つだ。

 

私はそう覚悟すると、暗くなり始めた道を下っていった。

 

 

 

しかし、私の問題が解決しても他の者はそうでもない。

私が門をくぐると、王城へと続く坂には何やら物々しい雰囲気が漂っていた。

私はそのただならぬ様子に、衛兵に「何があったのだ?」と尋ねた。

 

彼は私を見ると、少しあたりを憚りながら

「・・・・レーズラント保守派が、蜂起したという話が」

と告げた。

 

「何?保守派だと。反メアリー王女派か?」

 

「左様でございます。でもご安心ください。今、教会の騎士団に支援要請を出しました。すぐに1000騎ほどの騎士たちが・・・・」

 

私はそれを聞いて、青ざめた。騎士団は、王女の命を狙っているというのに。

それを招き入れるなど、王女の首を差し出しているのと同義だ。

 

「だめだ!教会騎士団を城内に入れてはならん!保守派の反乱も、教会騎士の策謀だぞ」

 

「・・おっしゃっている意味が解りません?」

と衛兵は首を傾げた。

 

そうこうしている間に、街の端にもう教会の騎士団がやってきてしまった。

彼らは市街の郊外に展開して、兵を整えている。

衛兵たちもこの段になって初めて様子が妙であることを察し始めた。

 

 

「エルマー様、あれ!」

ペーターが声を上げた。

私はその声に従って騎士団の方を見た。

 

そこに見えたのは、空を覆いつくすほどの矢の雨。

騎士団は無警告の上、同盟国であるレーズラントに弓を引いたのだ。

私はすぐさま「退避!!」とあたりに警告して、壁の陰へと隠れた。

 

ペーターと大多数の衛兵は隠れられたようだが、壁上や門の前に立っていた兵士たちは射貫かれたようだ。

おまけにそれらは火矢だった。市街地に火の手が上がり、市民たちにも犠牲が出た。

 

「正気か!?教会騎士団は、オーディンガムを攻め落とす気か?」

衛兵は半狂乱になりながら叫んだ。

私はまず、下馬して抜刀した。そして、代理指揮官として「門を閉めよ」と命じた。

 

衛兵たちは、私が教会騎士であるためすぐには従わなかったが、メアリー王女の知り合いという事もあり門を閉めた。

しかし、その努力もむなしく城壁は凄まじい轟音と共に破壊された。

 

「あれは・・・!城壁砲!!」

ペーターは青ざめてそう言った。

 

私は、剣技以外にはこれと言って軍事に詳しくないのでその単語の意味が分からなかった。

 

「あれは、教会の最新兵器です!高速の砲弾を火薬で発射して、城壁に穴をあけるんです!!軍艦にあんなもん積みやがって・・!!」

ペーターはそう言って地面を叩いた。

 

私はやはり、その意味が分からなかったが兎も角

城壁が破壊されてしまったのだ。このままでは、敵兵がこの穴から殺到してしまう。

 

「衛兵!侵入経路は、この穴だけか?この城から外へ繋がっている場所は?」

 

「地下水路が、船着き場まで繋がっています。そちらにも兵士は居りますが」

 

私はそれを聞くと、すぐさま立ち上がりそちらへ向かって急行した。

奴らは絶対に搦め手を狙ってくる。

そういう確信があったからだ。

 

ーーー

 

「ペーター、お前は王女様を守れ。ここで死なれちゃ困る」

 

「しかし、教会騎士団に背くのですか!?彼らは教皇の命令を受けているのですよ!?」

 

「少なくとも、未だに教会とレーズラントの協力関係は維持されている・・!協定違反を犯したのは、騎士団の方だ。

それに、王女を殺すにしても”事故死”であるようにとのお達しだ。これは尋常ではない」

私は焦りながらそう言った。

 

ペーターにも思うところはあっただろう。しかし彼はそれを口に出さず、諾々と従ってくれた。

これが、私の自己満足なことくらいわかっている。

でも、私は見たいんだ。彼女が、この荒んだ世界に一矢報いるところを。

 

そうしたら、私は何か変われるような気がして。

 

 

 

それから私は城の中の、櫓にあった地下水路への入り口から

下へと潜っていった。

ここは、初代レーズラント王が整備した水道で下水ではなく、王家の人間がお忍びで港へ出るために艀を出したりする場所らしい。

 

そのため、非常に地下空間は広く、アーチ状の大理石が天井を支えていた。

私はそこで、侵入してくるであろう教会騎士団を待った。

 

間もなく、兵士8人ほどが乗った船が到着した。

彼らの持つ剣には返り血がついていた。おそらく、守備兵たちは彼らに殺されたのだろう。

 

「おおい!私は教会騎士だ!」

私は手を上げて彼らを桟橋へ誘導した。

 

彼らはどうやら、上級の兵士たちの様でサレット兜とサーコート。それに高価なサイドアームを手に持っていた。

「君たちは、誰の指揮下の部隊だ?」

私は不気味な集団に尋ねた。

しかし彼らはそれに答えないばかりか、逆に「貴公は、一等騎士のエルマー・ギースベルトか?」

と訪ねて来た。

 

私はごまかしても仕方がないので、

「そうだ。私はこのレーズラント王への使節として派遣されてきているエルマー・ギースベルトだ」

と胸を張って答えた。

 

それを聞いた彼らはひそひそと何か仲間内で話すと、突如武器を抜いて斬りかかって来た。

私は突然のことで驚愕したが、後ろに体を翻し回避した。

 

「どういうつもりだ!!無礼だろう!!」

私は怒りを帯びて叫ぶ。

 

しかし、彼らは答える気配がないどころか私を取り囲むように武器を構えた。

「無礼は、こちらの台詞だよ。エルマー」

そう言って、8人のリーダー格の様な人物は前に歩み出た。

私は警戒しながらその男の顔を覗き込む。

 

私はその男の顔を見て、目を疑った。

うざったくまとめた髪。伊達に付けた金色のガントレット。

 

こいつは、教会騎士副長だ。

 

「副長・・!?これはどういうことですか?」

 

「簡単な事さ、エルマー。お前には死んでもらう。教皇様の思し召しでもある」

 

「しかし、教皇様はあくまで”事故死”と」

 

「そうだな。”教会の騎士が反乱を起こし、メアリー様はそれに巻き込まれて死んだ”という事故死さ」

 

「そして、その反乱を起こした騎士とはお前だよ」

私はゾワッと背筋に悪寒が走った。まただ。また、あの教皇はカマを掛けたのだ。

 

「お前ら退け!こいつは私が仕留める。

この、教会騎士団副長、オーギュスト・ジェローム・ド・ケーがな!」

副長はその巨腕を回しながら、そう宣言した。私は覚悟して剣を握った。

 

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