すべてのなろうにさようならを   作:ハンバーグ公デミグラスⅢ世

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第二十九話

ーーー

 

副長は騎士団の重役でありながら、剣をまったく使わなかった。

私も彼については見聞きしてはいたものの、

拳で戦うというのは流石に嘘だろうと思っていた。

 

しかし、この大男は今実際に金色に光る腕鎧を付けて

在ろうことかそれを振り回して襲ってきている。

 

私はその大ぶりの隙を伺って、斬撃を加えたが

取り回しの速さで、弾かれてしまった。

 

私が剣を一振りするだけの間に彼は腕を二回も振り回すことができる。

この差は如何ともしがたい。

 

「人間の体こそ、我々に与えられた最強の武器!!

鍛えられたこの拳で貴様の付け焼刃を粉々にしてくれるっ!!!」

 

副長は雄たけびを上げながら再び突っ込んでくる。

私はそれに対して恐怖を感じ、回避した。

 

あれだけの巨体と、数十キロある鎧に圧し掛かられれば

流石の私もぺしゃんこになって死んでしまう。

 

厄介だ。だが、私は別段恐怖であったり

絶望であったりを感じていなかった。

 

何故なら、私はもう迷っていなかったからだ。

 

「どうした!!?エルマー!逃げ回っているだけか!!?

仮にも教会の騎士なら、正々堂々と立ち向かってこい!!」

 

副長はにやけながらそう言った。

 

「私はもう、教会には従わない!!!」

それに対して私は笑いながらそうやって言い返した。

 

副長はそれを受けて、拳と拳を合わせて

「神の行いを疑ったなァ!!教会騎士として、貴様を葬ってやる!!」と大声で叫んだ。

 

私は自分で言った通り、もう教会を信じることはしない。

メアリー王女がそうであったように、私は自分がすべきことが解ったからだ。教皇は、神のお告げを利用して勢力圏を広げることしか考えていない。

 

だったら、私は最短ルートで世界を救ってやる。

教皇が神のお告げを聞いたという、教皇院へ乗り込んで

それを確かめてやる。

 

もう私は世界に振り回されるのにうんざりだ。

 

私はもう吹っ切れた。

 

副長が右手を掲げて大きな横なぎを放つ。

私はそれを避けず、剣で受け流した。

 

だがそれによって、私の直剣は吹き飛ばされた。

 

いくら受け流したとはいえ、剣は衝撃に耐えられなかったのだ。

しかし、それでいい。

 

私は勢いのまま直剣を手放すと、副長の懐に飛び込んで

右手で彼の顎を思いっきりぶん殴った。

 

彼は完全に虚を突かれて思いっきり脳天を揺らした。

 

ーーー

 

ペーターはエルマーの命令を受けて、急いで

メアリー王女が待つ大広間へと走った。

 

正門や回廊はすでに教会騎士達と衛兵たちの戦闘の舞台となっていたため、彼は近づけなかった。

 

だから彼は倉庫の屋根によじ登り、そのまま屋根伝いに

城を目指した。

 

既にあたりは日が暮れて真っ暗だ。しかし、騎士団の放った火矢は木造の家々を燃やして、煌煌とオーディンガムを照らしていた。

 

ペーターはその灯りを頼りに屋根を走って行った。

足元は暗闇で、一寸先踏み外せば転落してしまうほどの危うい道であったが、彼の天性のバランス感覚と運動神経でひょいひょいと飛び越えて行ってしまった。

 

間もなく、王城の二階窓が見て来た。

綺麗なステンドグラスがはめられていて、叩き割るには大変心苦しかったが、今の彼にはそこを叩き割る以外には城の中へ入る方法はない。

 

ペーターはその丸窓に続く屋根の一本道へと飛び降り、

叩き割るべく走った。

 

しかしその瞬間、黒い影が彼の前を遮る。

ペーターは足を止め、それらを凝視する。

 

炎の明かりに照らされて、彼らはその姿をのぞかせる。

どうやら4人ばかりの集団のようだ。

 

彼らはフードを被り、その下に武装を帯びているようだ。

目論見は、ペーターと同じく窓から城へ侵入すること。

 

どう見たって、味方ではない。ペーターは剣を引き抜いて大声でそいつらを呼び止める。

 

「止まれ!!教会騎士のペーターだ!!この攻撃は協定違反だ!!教会の兵士ならそこで止まれ!!」

 

 

しかしそれらに対してフードの集団は何か驚いたりするそぶりもなく、一言二言発すると1人を置いて他はそそくさと窓から城内へ侵入してしまった。

 

残った一人はフードを上げて剣を抜いた。

それは上質のレイピアで、気品ある装飾がなされていた。

 

 

「問う!!お前は誰だ!!」

ペーターは同じく直剣を抜刀して叫ぶ。

 

対する相手は首を回してぴょんとステップを踏んだ。

準備運動だろうか。

のぞかせた顔は女性のそれで、髪はポニーテールに纏められていた。服は汚れていたが上質のチェニックのようだ。

 

ペーターはそれを見て、少し妙な気持ちになった。

その様子から見るに彼女は貴人のようだ。

 

しかし彼女は

「うるせぇな!!叫ばなくても聞こえてんだよ、馬鹿が」

と乱暴に言い放った。

 

その身なりからは想像できないような粗暴さに、

ペーターは驚いた。

 

一方の彼女は彼の顔を見るなりさらに悪態をついた。

「・・・お前は、たしかアーサーの・・・・副官だったな」

「そうか・・・・お前も私の邪魔をするのか・・・!?」

 

「一体、何のことだ?」

 

「うるせぇ!!お前らみんな屑だ!!死ね!死ね!!

よくもアークウェット様を殺しやがったなこのくそエルマー!!

お前も同罪だ!」

そう言って小姓は激怒した。

 

ペーターはそれを見て、エルマーが昔語っていたことを思い出した。こいつは確か、ロルドの女小姓だ。

 

彼女は怒りに任せて、素早い刺突をペーターへ向けて放った。

彼はそれを十字に受けて、薙ぎ払った。

 

「戦争はもう終わってんだよ!お前が俺らを殺そうと、殺すまいと、過去は変わらない!ロルドだって元通りにはなんねぇだろ!」

 

「うるさい!!黙れ!これは、意地なんだよ!私らの国家を破壊したエルマーに対する憎悪だ!これを晴らさずして、どうして生きながらえられようか!!?」

彼女は歯をむき出しにして、はち切れんばかりの大音量で叫んだ。

 

両者は走りこんで激しく剣をぶつけ合う。

二人とも貴族の子弟出身で、技量に優れた剣技を持っていた。さながらそれは決闘のごとく華麗で、洗練されていた。

力技や体術を駆使する泥臭い戦士の戦いぶりとは違う。

 

そのまま彼らは何打か打ち合ったが、なかなか決着がつかなかった。

これは両者の技量が、同等だからだ。

 

ペーターは血気に逸る若い騎士だが、それなりに訓練の成績は良かったし、実家でも相手を付けてよく試合をしていた。そのため並の騎士よりはマシ程度の腕はあった。

がしかしそれよりも、これだけ戦いが長引いているのは小姓の方の技量が著しく下がっていたせいだ。

 

彼女は、以前エルマーから受けた刀傷によって片目と右半身に大きなダメージを負っていた。それによって時折、視界がくらくらしていたし何より遠近感が狂っていた。

 

調子のよい日では、かつてとそん色なく剣を振るう事が出来たのだが、日に日に体はいう事を聞かなくなりつつあった。

 

当然だ。休まねば治らぬ物に無理を言わせて戦い続けているのだから。

 

ペーターはそれを見て言う。

「・・・・体さばきがなまって来たぞ。疲れんたんじゃないか?」

 

「黙れ!!教会騎士のくそ坊主!!」

 

「お前のやってることは無意味だ。子供の児戯と同じだ!!いい加減、現実を認めろ」

 

ペーターの言葉に小姓は苛立たされた。

「認めろだと?それができないからこうやって生きてるんだろうに。私はもうどこにも行くべき場所なんかない!

間違ってるだとか、正しい事をしろっていう言葉はもう聞き飽きた!」

血走った眼で彼女は叫んだ。

 

ペーターはそれに反論する。

「俺にも難しいことわかんねぇんだよ!!俺には経験が足りなさ過ぎてわからない!!

でも、俺はなんかわかんねぇけどよ・・・・そんな中でも、できる事っていうのか?そう言うのがなんとなくわかるような気がしてよ・・・」

「だから、何が言いたいかってというと・・・お前はまだ何も分からないんだ!あまりにも世界を知らなさすぎる!」

ペーターは言葉足らずながら、その若い声を震わせた。

自分でもひどくたどたどしいと思いつつも、何か言いたいことは言えた、という実感はあった。

 

それに対して小姓は「馬鹿な、学無しめ」と反目したが

少し心に響いたのだろうか。やや動揺が見えた。

 

ペーターは大きく息を吸って、吐いた。

そしてまた足らない口を開いて、彼女へ向けて言葉を渡す。

「俺は・・・正直!数か月前まで、あんたみたいな人間だったさ!立身出世や争いに身をやつしても構わないと考えていたよ!

でも、でもさ!それってなんだか、虚しくないか?それってよ・・・・俺は若いんだ!分かんねぇけどさ!!なんか嫌なんだよ!!」

「だから、それが解るまでは生きようって。俺は思ったんだ」

 

それに対して小姓は目を細めた。

ペーターからは暗くて良く見えていなかったが、確かに彼女の表情は激怒から緩んで

穏やかなものになりつつあった。

 

だが、二人はぼんやりとした遠影意外に互いの顔を確かめる手段を持たない。

 

「黙れ!!知ったような口を!!」

小姓は怒号をまた放った。

それ以外に手段をもたないから。しかし、心に動揺は確かにあった。

彼女はまだ若い。彼の言う通り、小姓は自分の人生という物を生きたことがない。

 

わかってはいけない、そうしたらきっと二度と剣を握れないから。

 

彼女は心の不調から、視界が揺らぎ始めた。

くそっ、もう少し持ってくれ。体よ。

 

彼女はドクンドクンと鳴る鼓動を抑えながら闇雲に剣を振った。

しかしそれでも、心は晴れない。

 

こんな調子では、この若造にさえ殺されるかもしれない。

それこそ本当につまらない。

 

彼女はそう思うと「今日のところは、道を譲ろう・・!しかし、ロルドの手は広い。いずれまた会う事になるだろう」

と捨て台詞を吐くと、屋根から降り去って行った。

 

ペーターは緊張を解いて息を吐くと、少し彼女の背中を眺めて、すぐさま気を取り戻して

王城へと進んだ他の3人を追った。

 

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