すべてのなろうにさようならを   作:ハンバーグ公デミグラスⅢ世

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ロルド魔法諸国編
第九話


 

 

私は、ホードリックの死と任務の完了を告げるために教皇院へと向かった。

大司教領にたどり着いた時、私は熱烈な歓迎を受けた。

 

ホードリック王の死に、教会が関わっているのは秘密のはずだが領民はそんなこと構い無しに私を担いだ。

 

出るときは、誰も見送らなかったくせに。

 

私はそうやって心の中でくさったが、残念ながら人前でそれを言えるほどの胆力と悪意は持ち合わせていない。

むしろ手を振ってやって彼らの求める”英雄”像を演じてやったりもした。

 

「お人よしだな」

 

教皇院へと向かう途中の街道でそうやって私に毒づくのは、同じく教会騎士のアッテンボローである。

彼は私と同じくホードリック王の殺害を命じられていたようで、「どうせ俺が殺していたがな」と強がった。

 

彼は実際に剣技では比肩する教会騎士は居らず、実家も貴族であってその自信相応の実力を有しているのだが

今回ばかりは、私の方が立場が上だ。

 

「ふんっ、アッテンボロー。お前が手をこまねいているうちに俺はホードリックの王をぶち殺して見せたぜ。論より行動だろ?」

 

「それを言うなら論より証拠だろ。無教養な奴め」

 

アッテンボローは睨みつける様な目で間違いを指摘した。

 

私はそれ以上彼と話し合うのを辞めた。

彼とこれ以上口論すると足をすくわれそうだ。

 

 

間もなく、我々は教皇院へたどり着いた。ゴシックの尖塔が美しく映える聖ゲオルギス教会は最近完成したばかりの聖堂で、教皇のお気に入りだ。

彼はまるでここが謁見の間の様であるかのように鎮座している。

 

中央には教皇が座し、ステンドグラスから差す光が足元を照らす。その荘厳さが、教皇の霊性をも高めているようであった。

 

「よくぞ戻った。エルマー・ギースベルト」

教皇は私の功を褒めた。

 

「ははっ・・・!教皇様の思し召し通り、狂王ホードリックことアールを討ち果たしました」

 

「うむ。きっと主も見ておられるだろう。お前の父祖も天界にて篤く労われるに違いない」

 

教皇は機嫌のよさそうな声で、王笏を持ちながらしゃべった。

 

「して・・・・報奨であるが」

「貴様には、大司教の領土の一部を割譲しようぞ。そして、代官長の役職と徴税権を与える」

 

 

私は固唾を飲んでその沙汰を聞いていたが、教皇の告げた内容に胸をなでおろした。

 

「ははーっ!!有り難き幸せ!」

私は感無量という感じで平服し彼に感謝を述べた。

 

だがしかし、現実はそうも甘くはない。

 

「加えて、貴様の妻にはこの教皇院への出仕を命じる」

 

教皇は続けざまにそうやって命じた。軽い調子で、なんのことでもなさそうに。

だがそれは、妻を人質に出せとの下知に相違ない。また再び夫婦が引き裂かれるという事だ。

 

「・・・お待ちください、それでは話と違いますではありませんか・・・!?」

 

「何も違わない。私は、あくまで貴様の妻の財務管理能力に目を付けての事だ。それとも何か・・・?異心ありとも?」

教皇はにたにたと笑いながら私にそうやって尋ねた。

相変わらず気味の悪い笑顔だ。

 

私は下がった溜飲が再び登ってくるのを感じた。

 

「思えば、貴様はあの恐ろしい略奪者ギースベルト家の末裔であったな。罪人の咎を晴らすのはまだ時間が掛かりそうだ。

そうだな・・・例えば、貴様の妻。エルザが魔女の可能性もある」

 

教皇は白々しく、下手な芝居で私を揺さぶった。

 

「・・・・あなたは、私に何をお望みか?」

 

「無論、5人の王を全員殺す事よ。龍殺しが本当なら、貴様にだってできるだろう。ホードリックを殺したみたいに運が転がり込んでくる事もありうる」

教皇はその細い眼の奥でギラリと光る、恐ろしい謀略家の心を隠そうともしなかった。

 

世俗に染まった教皇はゆっくりと立ち上がると私の肩を撫でてその聖堂を離れた。

 

誰も居なくなった大聖堂に私は悔しさのあまり吠えて、地面を叩いた。

 

ーーー

 

「面目ない・・・・エルザ。またお前を危険にさらすことになってしまった」

 

私は、所領に戻り妻との再会を喜ぶより先に謝罪した。

彼女を守るために出征したのにも関わらず、また再び彼女と家を危険にさらすことになるとは。

 

エルザはその様子を見ると、私を抱き留めた。そして私を優しい言葉で励ますかと思いきや、頭を思いっきり叩いて一喝した。

 

「ほらっ!!なにくよくよしてんの!!あたしが惚れたのはそんな女々しい男じゃないよ!

ギースベルト家は武門で鳴らした名誉ある家系!大王だか何だか知らないけど全部ブッたおしてきな!!」

 

私は彼女の迫力に圧倒されてしまった。ぶたれた頭を押さえて唖然とした表情で彼女をしばらく眺めている。

だが、私はその喝で目が覚めた。

 

「・・・・あぁ、エルザ。ありがとう。俺は・・・・・やるよ」

 

私は襟を正して騎士らしい精悍な顔つきで覚悟を決めた。

俺は、ギースベルト家の長男だ。

 

そういった自負を思い出して、私は彼女の手を取って感謝した。

エルザは私の顔を見て頷いた。

 

 

 

 

 

「ところで・・・・」

その後、エルザは体を私の方へぐっと寄せて耳元で囁く。

 

「今夜は、暇?」

彼女はそう言うと私の体に手を回して、胸を押しあてた。

たわわなそれは、幾重にも厚着した装束上からでも感じられる。

 

思えば、この1年間色欲も忘れるほど忙しかった。

 

それは何のためか?他でも無い妻の為ではなかったか。

 

私はその行動と彼女の顔を見てすっかり気持ちが高まってしまった。

「・・・少し眠くなってきた。寝室へ行かないか」

 

そしてその衝動は抑えようがないほどの大きさとなって、私の体を突き動かした。

 

 

二人は朝まで寝室から出てこなかった。

 

 

ーーー

 

私は再び任務を帯び、街道を北へと向かった。

 

「騎士様、いつも御贔屓にありがとうございます」

商人は腰低く私にそう告げた。

今回も彼の行商隊に便乗していく。

 

彼は大司教領の出入り商人で珍しい品物を仕入れてくるので教会の諸侯はよく商売相手として呼びつけているらしい。

 

「ギースベルトの旦那なら、そういってくださいな。今回からは無料で乗っていいですよ」

 

彼はニコニコとした顔でそう言った。

前までは運賃を払っていたが、私が名を上げた教会騎士と知るとその態度は一変した。

 

「ですから、今後とも良しなに・・・」

と彼は遜って言う。

なんとも、商魂たくましい。

 

さて、話を戻そう。私は今度は北へ向かっていた。

ホードリックを討った次は、北方王リンドバーグを討てとのご命令だ。大魔法使いとして知られる彼は、永遠の生を魔法で得てさながら現人神の様に扱われている。

 

噂だけ聞くと、恐ろし気な印象を受ける。

 

「おっさん、北方王リンドバーグってどんな奴なんだ?」

 

「・・・・ロルドの魔法諸国の王様かね。あの王様は・・・・そうさね、人間というより神様に近い」

 

「神に近い?比喩でもなんでもなく?」

 

「ああ、奴は魔法の能力とやらで永遠の命と若さ、そして強さを手に入れた。ロルドの地には近づかん事だね」

 

私は固唾を飲んだ。だが、自然と恐怖はしなかった。

ホードリックとの戦いで自信をつけたのだろうか?あるいは妻の言葉に背中を押されたのだろうか?

 

いずれにせよ、私は一皮むけて前向きな気分でロルドへ向かう事が出来た。

 

ーーーー

 

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