この呪術界に駄女神を!   作:ぷに凝

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10.この忌み子と決着を!

加茂早見寧(はやみね)は憤っていた。

 

“自分のもの”である五条悟が、自分より年下で、才がなく、ただまぐれで結果を出しているに過ぎない加茂家の面汚し……加茂美水矢と過ごしているというその事実に。

 

早見寧は加茂憲利の長子である。

 

男児でないため当主の座を継ぐ資格を持たない早見寧だが、加茂家の相伝術式である“赤血操術”を受け継いでいたたため、呪術師として教育を受けた。

 

しかし、それは本格的なものではなくあくまで教養としての知識に留まっていた。

 

呪術界には、女子は前線で戦うのではなく子を産み育てるのが役目だという前時代的な考えが根強く残っていた。

術式を受け継いだ早見寧に対しても、期待されているのは呪術師としての役目ではなく、早見寧が将来的に産むであろう男児に術式を相伝させることだった。

 

しかし、早見寧自身は自身の術式に強い興味・関心を抱いていた。そして独学で呪術について学び始める。

 

加茂家の教育係はこれを良い兆候と捉え、咎めることをしなかった。むしろ彼女を褒め称え、より呪術への自己研鑽に励むことを期待した。

 

だが、結果として早見寧は増長した。正しい呪術知識を身につけないままに。

 

周囲の大人たちを“呪術も使えない馬鹿”と断じ、独学で習得した派手さを求めた術をこれ見よがしに使っていた。

 

彼女の呪術の才は、実際、類稀なものがあったことも災いした。

 

彼女は、自分こそが現代呪術界の頂点と信じて疑わずに育った。呪霊と相対したことも、他の呪術師と手合わせをしたこともない。

それは早見寧を危険な目に遭わせることを嫌った父の判断だったが……。

 

早見寧はそれすらも“臆病”と断じた。

 

そんな彼女の耳に入ってきた、“六眼”持ちの五条家の呪術師の情報。

 

早見寧にとっては格下以外の何者でもないその男だが、顔だけは見ておいてやろうと、父の後について五条邸に足を運び、彼を遠目から見た。

 

その瞬間、早見寧の目は彼に釘付けになった。

 

硝子のように澄んだ瞳。まだ物心ついて間もないにも関わらず、己こそが唯一絶対だと信じて疑わない威風堂々たる態度。

 

そして何より、美の神がおのずの手から作ったと言われても何一つ疑う余地がないほどの、いっそ現実感がないその美貌。

 

彼女は五条悟に魅入られた。

 

そしてその日から、少しずつ彼女の言動には不可解なものが見られるようになる。

 

呪霊に対峙する五条悟を、陰ながら支援する自分という……肥大した妄想。

 

彼女の中では、もはやその妄想は事実も同然であるかのように語られ、ついには現実と空想が逆転し始める。

 

五条悟は私のもの。彼に言いよる数多の女達は、私と彼との仲を裂こうとする邪魔者だ。彼自身がそんな女達を相手にもしていないのがその証拠である。

 

……だと言うのに。

 

(……その顔は何?)

 

ようやく、ようやく……彼に。

 

彼に、久しぶりに……会えたのに。

 

「あっ! ちょっと私の蟹取らないでよー!」

「早い者勝ちだろバーカ」

 

彼の……五条悟の周りを纏わりつく羽虫。

 

加茂美水矢。

 

あぁ、汚い。どうして悟はあんなブスと話してるのかしら。嫌ならさっさと殴るでもなんでもしてこの場から追いだしてしまえばいいのに。だってあなたは私に並ぶ呪術界の頂点。そうする資格があるのに。

 

あんなゴミクズのような女と関わる必要なんてないのに。

 

「あっ! また! このっ……二度も盗まれてたまるものですか!」

「あっ!おい……」

 

あっ。

 

加茂美水矢が、悟の箸に、口を。

 

「……なーにやってんだよ。気持ち悪ぃな」

「ふぇもふぉれふひふおいひい」

「飲み込んでから喋れっての」

「あぶっ」

 

……汚い、汚い。汚い。

 

汚い汚い汚い汚い!!!!

 

───ガシャンッ!!

 

「あん?」

「?」

「……早見寧?」

 

気づけば。

 

私は机を叩いて、立ち上がっていた。

 

「……?」

 

あ、あ。彼が。私を……見てる。

 

初めて……。

 

「す、すみません……少し、体調が……」

 

私は顔を伏せて、走るようにその場を立ち去った。

 

視界がグルグルと回っている。自分が今どこに向かっているのかもわからない。

 

だが、あるいは本能的な行動だったのか……私は自然と、お手洗いに向かっていた。

 

そして……。

 

「お、おぅええぇぇぇ……」

 

吐いた。

 

胃の中に詰め込んだ、味のしなかった料理を、そのまま消化することもなく。

 

脳裏に蘇る、あの光景。

 

彼に絡む加茂美水矢と、それを受け入れる五条悟。

 

そして、初めて正面から直視した彼の眼。

 

「うぇえぇぇぇ……」

 

初めて……初めて彼に、見てもらえた。

 

だけど彼はすでに、他の女を見ていた。

 

頭の中に築いていた甘い妄想の花園が、ガラガラと音を立てて崩れていく。

“現実”が……早見寧の心をズタボロに切り刻んでいく。

 

彼に見せるために、何時間もかけてセットした髪が乱れて、汗ばんだ肌に張り付く。

 

傍から見れば、早見寧は初めてこの時五条悟と知り合い、これから関係を築いていく──まだ名も名乗っていない以上は、そのスタートラインにすら立っていない、お互いに“0”の関係性。

 

だが、早見寧は家の者から入手した五条悟の伝聞で、彼の為人を想像し、膨らませていた。そうして出来上がった空想上の五条悟と、現実の五条悟とは当たり前に別物だ。

 

自分があれほど熱心に注いだ愛情を……相手は知る由もない、という一方通行ゆえの苦痛。

 

自分がそうして空想に浸っている間に……自分より下だと見下していた、加茂美水矢は確実に五条悟との関係を構築し……すでに彼に心を許されるような関係に至っていた。

 

なぜもっと早く、彼と会おうと思わなかったのか。話そうと思わなかったのか。

 

後悔先に立たず。

 

今まで時間を無為に過ごしたツケが、気づいて初めて押し寄せてくる。

 

「……」

 

鏡に映っていた自分の顔は酷く憔悴し、まるで死人のようになっていた。

 

事実、この時点でついさっきまでこの場に立っていた加茂早見寧という、年相応に夢見がちで、自信家で、それゆえの子供らしい傲慢さを持ち合わせていた早見寧という少女は死んだ。

 

そしてその亡骸を突き破って生まれたのは、追い詰められたが故に至った悲壮な覚悟を抱いた少女。

 

早見寧は、フラフラとその場を後にした。

 

 

ご飯を食べるっていうからどこに行くかと思ったら、まさか“かに享楽”に連れて行ってもらえるなんて思わなかったわ。

 

カズマさんたちともカニは食べたけど、今の私は子供だから甲羅にお酒を注いで飲むようなことが出来ないのよね。

しかもここは日本だから、あっちの世界より食事のマナーとか厳しいの。多分そういうことしたら怒られちゃうんじゃないかしら。

 

でも、流石食べ物が美味しいことで有名な日本ね。出てくるお料理がどれもこれも美味しくて思わず頬が緩んじゃうわ。

 

まぁ、どっかのサトル君が後で食べようと思って取っておいたカニのお刺身を持ってっちゃうなんてこともあったけど。今だけは全てを許してあげるわ。

 

だって私は女神アクア。女神アクアなんだもの──。

 

「あーっ!? サトル君、それ私が育ててた蟹鍋よ!?」

「ん? なんだ、食わねぇからいらないのかと思った」

「やってくれたわねこのクソ白髪!!」

「お前に言われたくねぇよ!?」

 

私のこの神聖な水色の髪を愚弄する気!?

 

「美水矢、はしたないぞ。悟君を離してあげなさい」

「五条。お前も人の食いもん取るなんてみっともねぇ。男のやることじゃねぇぞ」

「「だってこいつが──!!」」

 

ガララ……。

 

「あら?」

「ん?」

 

私とサトル君が取っ組み合っていると、さっき部屋を出た子が帰ってきたわ。

 

確か私のお家にいた子よね? 名前、なんだったかしら。

 

「美水矢」

「……え? 私?」

 

と思ったら、いきなり名前呼ばれちゃったんですけど。

 

「あ、あら? 話したことあったかしら……?」

 

「私と、決闘しなさい」

「……ふぇ?」

「は?」

 

……何を言ってるのかしら、この子。

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