この呪術界に駄女神を!   作:ぷに凝

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16.この呪詛師と逃亡を!

「ふぁ〜あ……」

「悟様」

 

歴史の深みがまるで目に見えるように、その一室は格調高い装飾品や内装が一つの芸術作品として成立していた。

 

部屋自体が一つの芸術作品とも言える室内の雰囲気を、持ち込んだソファとテレビゲーム機で台無しにする一人の少年。

 

「あ? んだよ」

 

五条悟。

 

視線は画面に固定されたままで、こちらを見ようともしない。

 

五条悟のお付きの者は、その傲岸不遜の態度を見て口や顔には出さずとも不安に駆られた。

いくら呪術の才があるとはいえ、この子に五条家の次期当主が務まるのかと。

 

「勝様が今すぐ出頭なさるように、と」

「パス」

「……」

 

今度は顔に出ざるを得なかった。

 

「悟様。お言葉ですがいくら実の父といえど、当主様にそう表立って逆らわれては……」

「いや、いいのだ。どうせこうなると思っていた」

 

そんな侍女の背後から言葉を遮って現れたのは、痩身長躯の男。

 

「勝様……!?」

「悟。どうせお前は来ないだろうから、こうして父自ら来てやったぞ……お前はもう下がってよい」

「……わかりました」

 

恭しく頭を垂れて侍女が下がると、五条家当主、五条勝は重いため息を吐いた。

 

「悟。家の者にはもっと親身に接しろ。後々お前が当主となった時、困るのはお前自身だぞ」

「いーんだよ。俺一人で五条家は盛り立てるから」

「……人間一人の力などそう大そうなものではない。周囲の人物が従わぬ長など、愚物と変わらんぞ」

「愚物? そりゃアンタのことだろ親父」

 

ここで初めて悟は父……とすら思っていない男に剣呑な眼差しを向けた。

 

「最強の術式と最強の血筋があんのに、才能がなかったってだけで禪院と加茂には舐められるわ、まだガキの俺に早く跡を継がせろって散々なじられるわ……それでヘラヘラしてんのが信じらんねぇよ」

「……」

 

五条悟の怒り、それは父に向けられているものではなかった。

 

父を取り巻く環境、ひいては呪術界。それに対する強い反発がすでに彼の才能の瞳には渦巻いていた。

 

「安心しろよ親父。俺が当主になったら、今立場が弱い五条家の人間は全員要職に就かせる。ハッ、そうすりゃ家の奴らだって俺に従うだろ」

「悟……人心というのは、そう単純ではないぞ」

「結果が出りゃいいんだよ。俺が……まぁ、あと美水矢の奴がいれば呪術界は変わる。あと数年で革命は起きる」

「……」

 

五条悟にとっては、今の呪術界に息づく全ての人間が気に入らない。保守的な考えが蔓延り、先の短い老人が権利だけを手にしている現状はまさに腐ったミカンの肥溜め。

 

五条悟が唯一認めているのは、同じく淀んだ呪術界に激流を流し込む加茂家の風雲児、加茂美水矢くらいのものだ。

 

「その美水矢のことでお前に話しておくべきことがある」

「はっ、またなんか偉そうに指図でも受けたのか? これだから権力者と繋がってる連中ってのは……」

 

 

「加茂美水矢が呪霊幇助の罪で呪詛師に認定された」

 

 

……

 

…………。

 

「は?」

 

バキ、とコントローラーが真っ二つに割れた。

 

 

「加茂家の異端児か。やはり汚れた血よ」

 

「むしろあれが今まで大人しくしていたことが奇跡だな。憲利を責めるより誉めてやるべきだ」

 

「くくっ、違いない。分不相応の血筋から呪術師を擁立しようとした咎はこの際、忘れてやるとしよう」

 

「言ってやるな。教養なき者に説法を説いても時の無駄よ」

 

「まこと愚かなり。仮にも呪術師が呪霊に誑かされるなど……知性の程が近いんでしょうなぁ」

 

「加茂美水矢が受ける女神の寵愛も流石に尽きたらしい」

 

……

 

…………。

 

呪術界は閉ざされた世界。

 

風評は一瞬にして広まり、一度でも呪術師としての出世街道を逸れたものは途端に村八分となる。

ましてや一度でも“呪詛師”と認定された者が、呪術師として再起できた例は存在しない。

 

加茂家は呪術界上層部への筋を通すため、この時点で加茂美水矢に絶縁状を叩きつけた。

 

加茂美水矢は呪術界で、事実上死人として扱われるようになった。

 

「……なんですの? これは」

 

呪術界に激震走る。

 

「──あの女を下すのは、私の命題だ」

 

加茂美水矢、呪詛師に堕つ。

 

「美水矢……!? どうしてこんなことを……!」

 

彼女を知る者、彼女に狂わされた者。

 

全員に大きな衝撃が走る中で。

 

当の本人は──。

 

「あっ、ペイペイでお願いします」

 

コンビニで洗剤を購入していた。

 

「あの……アクアさん」

「カードは持ってないです」

「アクアさん?」

 

「ありぁとあしたー」

 

コンビニを出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。

 

「スマホ持ってきておいて正解だったわ。これないと今の日本じゃ生きていけないわね」

「アクアさん。それはいいんですが……いえ、よくないんですが」

 

少し後ろから心配そう目で見つめてくる偽ウィズ……もとい転生ウィズ(仮)。

 

「いいんでしょうか。こんなことをしていて」

「? なぁに?別にいいじゃない。私はどこ行っても問題起こすからコンビニにも行くなーなんて、どっかの保護マさんみたいなこと言うつもり?」

 

確かにさっきも売ってたコーラ真水に変えちゃったけど。おかげでただの水を割高で買うことになっちゃったんだから。

 

「それもそうですが。逃げなくていいのかな……と」

「なんで逃げなきゃいけないのよ」

「えっ」

 

そう返すと転生ウィズ……あぁもうややこしいわね。転生したウィズだから“ティズ”でいいわね。

 

「なによその目は。言いたいことでもあるの?」

「いえ、あの……? アクアさん。確認なのですが」

「?」

 

なによ改まっちゃって。

 

「あなたは今、呪術師にとって裏切り者となった。それは……ご理解いただけてますよね?」

「……?」

 

??????????

 

「なにもわかってなさそうな顔」

「当たり前じゃない。私は誰も裏切ってなんかないわよ」

「眩暈がしてきました」

「ねぇねぇ、呪霊なのに眩暈がしてきたって、それ呪いジョークかしら。80点くらいね」

 

ティズは崩れ落ちるようにしてその場に倒れる。

 

「……一応、助けていただいた私が言うのもなんですが。アクアさんは呪術師にとって敵である私を伴って逃げ出しました。アクアさんのご実家にとって、その行いがどれほど重いのかは……」

「当然、わかっているはずですわよね」

「……え?」

 

いきなり声が聞こえたと思ったら。

 

『酒・たばこ・ATM』と書かれたコンビニロゴが光る置き看板の上に、一人の女の子が立っていた。

 

「見つけましたわ……加茂美水矢!」

 

その意志の強そうな目、私を睨んでくる敵意剥き出しの視線は……!!

 

「誰?」

 

初めて見る人だわ。

 

「ッ! 加茂早見寧ですわ!! あなたのライバルの!」

「……ねぇ、ティズ。あの人どうしちゃったのかしら。RPGでことあるごとに主人公の邪魔してくるキャラみたいな子がいるんですけど。なんか高いところにいるし」

「えっ、アクアさんのお知り合いでは……っていうかティズって誰ですか!?」

「なるほど。それが貴方の連れ出したという特級呪霊。確かに高い知性を有しているようですけれど」

「ねぇ、アクアさん!? ティズってなんですか!? なんで私、勝手に名前付けられちゃってるんですか!」

「同時に別の話するのやめてくれない!?」

 

頭がこんがらがって来たわ!

 

「“赤血操術”」

「ひぃっ!?」

 

取っ組み合う私とウィズの間を貫く紅線。

 

「猿芝居ね。呪霊と呪術師の喧嘩なんて」

 

──き、来たぁ!?

 

「“鵺”」

「……え?」

 

私に向かって放たれた赤い槍は。

 

大きな鳥が防いでくれた。

 

「お探ししていました」

「あ、あなたは……?」

 

驚く私たちの前に現れたのは、黒髪の女の子。

 

「禪院夜伽と申します。以後お見知り置きを」

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