ついでと言ってはなんですが、こちらお時間はかかりませんので、名前を書くだけで幸せになれる不思議な紙へのサインもご一緒に……いえいえ、入信書だなんてとんでも……。
五条家本邸。稽古場。
「おい五条。お前にしては思い切ったな」
禪院家当主、禪院直毘人は瓢箪酒を逆さにして、隣に座る細身の男を横目で見た。
「俺と憲利の野郎の顔色ばかり窺って、ビクビクしてたお前がよ! ぶははは!!」
「……天皇陛下の御前だ、禪院。貴様がそのような態度では、我々の品位まで疑われる」
「お前に指図される筋合いはねぇな!!」
五条家、禪院家、加茂家。
呪術界御三家とされるこの三勢力のパワーバランスは完全に拮抗しているわけではない。
強力な生得術式を多数有し、御三家の中でも最も影響力の強い禪院家。呪術界総監部を牛耳る保守派との繋がりが深い加茂家。そして、平時は常に弱い立場に晒される五条家。
五条家の当主に求められるのは強さではない。禪院家、加茂家と出来るだけことを荒立たせないように仲を取り持つ政治力だ。
仲裁役と言えば聞こえはいいが、その実態は“両家の奴隷”と揶揄されるほどに一方的な関係だった。
その原因は、五条家相伝の術式“無下限呪術”が特殊条件下以外では機能しないことに最大の原因がある。
「術式を持たぬ家」「非術師の烏合」……五条家は常に軽んじられ、そしてその立場に甘んじなければいけない。
“六眼”が生まれるまでは。
「これからは我らの時代だぞ、禪院」
「……ほう?」
「この御前試合で知らしめるのだ」
五条家当主……五条勝は、強く拳を握りしめた。
「我々五条家が、烏合の衆などではないということを」
◆
「ねぇ、私まだ食べてる途中なんですけど」
両手に骨付きチキンを握ってる状態で、何故か広場みたいな場所に通されたんですけど。
あと、私と同じくらいの子供達がたくさん並んでるわ。もしかして運動会でも始まるのかしら。だったら私、大玉転がしがやりたいんですけど。
「呪術界の未来を担う若き術師たちよ、初めまして。私は五条家の当主、五条勝という」
そうして集められた私たちの前に、白髪細マッチョの渋めのおじさんが出てきたわ。さっき壇上でスピーチしていた人ね。横にサトル君もいるみたい。顔は似てないけど、親子かしら。
「今日は皆に事前に通達している通り、私の息子である悟との御前試合を行ってもらいたい」
えっ、私聞いてないんですけど。
御前試合ってなに? 戦うってことかしら??
……た、確かに私は強く気高い女神なんですけど、ゴッドブローにも限界があるっていうか……。
ほら、私プリーストだし? その、前衛はダクネスみたいな叩かれるのが好きな子の方が適してると思うんですけど……。
「さらに光栄な事に、本日の催しは天皇陛下をご招待して行う特別なものである。皆の活躍は、そのまま今後の呪術師としての進退に関わるものだ。心して望んでもらいたい」
あっ、もうあんまり後戻りできなさそう。
……こっそりここから逃げましょう。
「当主様!」
「あだっ」
私がこっそりとゴッドステルスで逃げようとしたら、見計らったように前に出てきた子に押されて押し戻されたんですけど。
わざとでしょ? わざとやってるんでしょう?
「そうは言いますが、五条悟は無下限呪術を制限なく使用できると伺いました!あまりに不公平なのでは!」
「君は確か禪院の……。ふむ、確かに言わんとすることは尤もだ」
……よし、あの子に注目が集まっている内に逃げましょう。
「君たちを軽んじているわけではないが、もしこの場の全員で徒党を組んで悟に挑んだとしても、無下限を突破する術を持たん限り悟には敵わないだろう」
「ならば……!」
「故に、悟にはこの試合中、一切の“術式の使用”を禁止している」
「なっ……!?」
「……本気ですか?」
あっ、待って。そこの間通りたいから詰め寄るのはやめてちょうだい。いくら私が細身だからって、猫ちゃんみたいにどんな隙間も通れるわけじゃないの。
「マジに決まってんだろ」
「……五条悟」
「お前ら相手なら、それで充分だって言ってんだよ。結果は変わんねぇだろ」
「……加えて、悟には皆で一斉にかかってくれて構わない。大丈夫だ。悟は決して怪我をしないし……君たちにも大きな怪我はさせないようにと、強く言い聞かせてある」
ざわざわざわ……!
……あれ? なんで私真ん中に戻ってきちゃってるの?
「……随分舐められたものですね」
「いいでしょう。そういうことならお受けしますよ」
「ありがとう。では……早速、始めようか」
あら?
皆がまばらになっていくわ。良かった、これでようやく外に……。
「……ではこれより、天皇陛下立ち会いの元での御前試合を始める!各員、死力を尽くすように!」
「「「オオオオォォォォ!!」」」
えっ。
……
…………。
拝啓、カズマ様、めぐみん様、ダクネス様へ。
空を鳥型のシキガミが舞い、地面にはまだらに血が積もる季節となりました。
お三方におかれましては、まだまだご健勝のことと思われますが、私は今、この世界に生まれてきて最大の命の危機に瀕しています。女神アクアです。
“死ぬなんて言っても、生き返れるんだから怖くないでしょ?笑”と言ったら、結構本気のマジギレをされて泣かされた時のカズマ様のお気持ちが、今ならよくわかります。
私事ではありますが、もし可能であれば今すぐお迎えに来ていただきたいと、強く願う次第でございます。
女神アクアです。
女神アクアです……。
「た゛ずげでガズマ゛さ゛ぁ゛〜ん゛!!」
死んじゃう!死んじゃうぅぅ!!
ボゴっ
「いやああぁぁ!?」
何!?このおっきい芋虫!?
「ちょっと、待っ──!ふぎゅっ」
……あぁ。
なんか、こんな風に食べられること。
前にもあった気がするわ……。
私の冒険はここまでみたい。
「また転生したら、あっちの世界に帰りたいなぁ……」
「残念だけど、君はまだ死んでいないよ」
「……うえっ?」
全てを諦めた私が神に祈っていると、頭の上から声がかけられたわ。
「ここは私の呪霊の口の中。一応は安全地帯だからね」
「……」
目を開けると、そこにいたのは耳たぶが分厚くて、優しげな細い目と垂れ下がった一房の髪が特徴的な男の子。
「……そう。あなたが仏様なのね」
「えっ、違うけど」
私、部門が違うから仏様って初めて見たわ。
サイン貰ってもいいかしら。
◆
「夏油傑。一応、呪術師だ。君もかい?」
「私?私は水の女神アクアよ」
「女神……?」
どうやらこの人、仏様じゃなくて普通の人間みたいね。
あまりにもそれっぽい見た目してるから勘違いしちゃったわ。
「……この度は、命をお助けいただいて、誠にありがとうございます」
「あー、いいよいいよ。君も巻き込まれたクチだろう?困っちゃうよね」
助けてもらったらお礼は言わなきゃいけないってカズマさんに言われたの。特に、命を助けてもらった時は頭を深く下げなきゃダメなのよね。
……あれ、でも思えば私カズマさんを生き返らせてあげた時にこんな風にお礼言われたことないんですけど。
「君は危なくなさそうだから、味方に引き込めないかって思ったんだ」
「味方? パーティに入れて欲しいってことかしら?」
「うーん、まぁ似たようなものかな。対五条悟共同戦線と言ったところだ」
「ふぅん。サトル君に勝ちたいの?」
「生き残りたい、が本音かな。彼、外で無茶苦茶してるだろう?術式なしなのにさ」
そう言って、傑君はちょっとだけ顔を曇らせた。
「正直、敵わないと思ってる。だから逃げてるのさ」
「……」
……よくわからないけど。
「そんなことないと思うわよ?」
「……え?」
「だってカズマさんみたいに、あんなに弱くてもとっても強い魔王軍幹部をどんどん倒しちゃうような人もいるんだもの」
私は、カズマさんが誰も思いつかないような方法で活躍してきた光景を思い浮かべた。
「逃げたっていいじゃない」
「……」
私に縋ってくる人達は、みんな辛そうだもの。
お家に帰って、美味しいものとシュワシュワで乾杯して、嫌なことは忘れちゃうのが一番だわ。
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