この呪術界に駄女神を!   作:ぷに凝

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3.この才能に怨恨を!

「くっ……」

 

禪院夜伽(よとぎ)は、口の中の砂利を吐き出してその光景を見上げた。

 

死屍累々。そのような表現が合う光景だった。

 

「化け物め……!」

 

積み重なった、大人と見紛うほどに大きな体格の者達の中で、僅か5歳のその少年は周囲の全てを見下すようにそこに立っていた。

 

「なんだ、もう終わりかよ。大したことなかったな」

 

五条悟。

 

最強の呪術(無下限)、最強の才能(六眼)、最強の(フィジカル)を持って生まれた、最強になるべくして成った呪術師。

天才と呼ばれるような人間は、ただそこに立っているだけで他を圧倒するほどの存在感を放つと言う。

 

それは間違いだ。

 

五条悟は他を圧倒するどころの話ではない。そこに五条悟以外の全ての人間は存在していないのではないかと錯覚させるほどの、度を超えた威容。

 

もはや現世に舞い降りた現人神と言われたほうがしっくりくる程だ。

 

……禪院夜枷は、禪院家生まれきっての才女と言われて育ってきた。

 

一族相伝の術式“十種影法術(とくさのかげほうじゅつ)”を継いで生まれた夜枷は、僅か3歳にして呪力を知覚し、最初の式神“玉犬”を召喚。“鵺”と“蝦蟇”を調伏して見せた。

 

成果を出せば、周囲の大人たちは夜枷をこれでもかという程に褒め称え、夜枷もその期待に応えるようにめきめきと才覚を発揮していく。

 

私は、これからの時代を担う術師になるのだ──。

 

そう信じて疑わなかった矢先に。

 

五条悟が生まれ、全てが変わった。

 

まず、周囲の大人たちがしきりに深刻な顔で“五条家”の名前を口にするようになり、夜枷が新たに調伏を済ませても前ほど褒められることがなくなった。

それだけならまだしも、調伏を済ませてもすぐに次の目標へと駆り出されるのみで、夜枷は周囲のストレスから逃れるために家を出て呪術界から離れた。

 

それがいけなかった。

 

遊び呆けて禪院家に戻ってきた時、夜枷に向けられる視線は落ちこぼれを見るもののソレと化していた。

 

そして、呪術界の頂点には自分より幼い五条悟が居座っていた。

 

自分は呪術界を担う存在になるどころか、その権利を手に入れる前に競争から脱落したのだ。

 

長い人生の、ほんのスタートライン。

 

そこで少しだけ躓いた結果、夜枷は人生を失ったのだ。

 

またあの頃に戻るには、五条悟を自分自身が倒す他ない。

 

だからこそ今回の機会は夜枷にとってまたとない好機であり、ここで結果を出すことが絶対条件だった。それなのに。

 

既に調伏した式神の全てが破壊された。

 

「このまま……終われるものか……!」

 

夜枷は拳を握りしめ、呪力を身体中に漲らせる。

 

「布瑠──」

 

───。

 

「……え?」

 

どこからか、強大な呪力が近づいてくる。

 

それに、この振動と音……。

 

この音は……?

 

「……水?」

 

───ドドドドドドドド!!!!

 

「ぶじゅぶばぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「……は?」

 

突如として、広場に溢れ出たのは。

 

途轍もない量の水の奔流。

 

そして……。

 

「い゛や゛あ゛あ゛あああ!!!」

 

その激流と共に流れてきた、水色の髪の少女だった。

 

 

数分前。

 

「……ん。外が静かになったね」

「あら、もう終わったのかしら」

 

私がスグルさん(初対面の人は普通さん付けよね。えっ? サトル君? アーアーキコエナーイ)と話してると、周りから聞こえてた怒号や悲鳴なんかが聞こえなくなったわ。

 

「思ったより早く片付けてしまったみたいだ。これじゃあ格好付かないな。あはは」

「……あっ、そうだ!」

 

スグルさんが立ち上がって、外に出ようとしたその時。

 

ふふん、私に天才的なひらめきが浮かんでしまったわ。

 

「スグルさんスグルさん」

「ん? なんだい?……あくあ、だったっけ」

「あ、名前は美水矢って言うんだけど」

「えっ」

「私、天才的な策を思いついちゃったわ!」

 

私は両手を広げて、魔力……じゃなかった。ジュリョクを集めるわ。

 

「格好付かないんだったら……格好良く登場すればいいのよ!」

「? どういう意味だい? それは」

 

確かに、こっそり出ていっちゃったらいかにも隠れてたみたいで格好悪いけど……逆に言えば、派手に外に出ればかっこいいじゃない?

 

それにこの方法なら、身体中のヌメヌメも取れて一石二鳥だわ!

 

「“石鹸掃術”!!」

 

さぁ、水の女神の本気を見せてあげるわ!!

 

……

 

……そして。

 

「い゛や゛あ゛あ゛あああ!!!」

 

現在(いま)に至る。

 

「だずげでぇ!! 私、この体だと泳げなっぼぼぼぼぼぼぼぼっっっ!!」

「美水矢ー!!」

 

水を飲み、思い切り溺れている少女と、魚の呪霊に跨ってなんとかその少女を救出しようとしている少年。

 

「……なんだあいつら」

 

五条悟は、その光景を冷めた目で見つめていた。

 

さらに激流は、五条悟の眼前にまで押し寄せ、全てを洗い流そうと迫る──。

 

「ほっ」

「ぶっ」

 

それを、五条悟は倒れていた術師を足場にすることで難なく回避した。

 

「ぎざまっ、五条……! ぼぼぼぼぼっ!?」

「何言ってるか聞こえねーよ」

 

一人の犠牲により事なきを得た五条は、激流の中から現れた二人の術師をその眼で見つめた。

 

「ぐぇっほ!!げっほげっぼ!!……あ、あ゛り゛がどね゛ぇ゛……!!」

「まったく……ほら、泣くな美水矢……」

 

激しく咽せる水色の髪の女を、前髪の長い男が介抱している。

 

「あいつ……さっきのふざけた奴か」

 

水色髪の方。

 

あの女とはさっきのパーティ会場で会った。加茂家の“赤血操術”……に似ているが、それとは異なる珍しい術式を持っていたので気になっていたのだ。

 

「けどダメだな、ありゃ」

 

だが、自分自身の力を制御し切れていない上に知力も高くなさそうだ。あれじゃ生来のポテンシャルは発揮されない。

 

「……なにが“水の女神”だよ」

 

おまけに妄想癖持ちと来ている。

 

(……神なんてこの世にいるわけねぇだろ)

 

もし、本当に神がいるとしたらそいつはきっとクソ野郎に違いない。

“六眼”なんて趣味の悪いものを生み出すような奴は。

 

五条悟は微かな苛立ちと共に、水の引いた地面を歩いて水色髪の少女へと近づいていく。

 

「……待て」

 

その前に立ちはだかったのは、彼女を介抱していた前髪の術師だった。

 

「彼女に何をする気だ」

「あ? ここにいんだからボコすに決まってんだろ。最初からそういう話だったよな?」

 

この御前試合は、五条悟とそれ以外。どちらかが倒れるまで続くデスマッチだ。

他の連中はすでに倒したが、まだ残ってる連中がいたのだからそちらも倒すのが道理だ。

 

「……彼女に、君を害する意図はないんだぞ」

「はぁ〜……」

 

五条悟の道理に対して、一体どういう道理を持ち出してくるのかと思えば前髪術師の回答は興醒めだった。

 

「ナイフ持っててもこっちには向けないから殴んなって話? 甘ぇだろ、それ」

「そのナイフをすでに手放していたとしてもか?」

「近づいたら拾って振り下ろしてくるかもしれねぇだろ」

 

押し問答。

 

五条悟と夏油傑。二人の意見の決定的な決裂。

 

「そうか。なら……ここを通すわけにいかないな」

「あっそ。じゃあお前からボコす」

 

衝突は避けられなかった。

 

「“河童”」

 

夏油傑の足元から這い出てきたのは、緑色の肌、頭頂部の皿。嘴と亀の甲羅を背負った呪霊。

 

「へぇ、水場の近くにいるとそいつに引き込まれるんだ。さっきの水流でそこら中水浸しだからな。んじゃ近づかなきゃいいってわけね」

(……六眼か)

 

脳内で展開した作戦を即座に見破られ、夏油は作戦変更を余儀なくされる。

 

(呪力の伴う行動は全て読まれると考えるべきか。やはりここは、純粋な体術のみで決着を付けるのが望ましいが……)

 

夏油は五条悟の一挙手一投足を観察する。

 

「ふっ」

 

距離の詰め方。体重のかけ方。

 

笑ってしまうほどに隙がない。

 

(天は二物も三物も与えるらしい)

 

“最強”を相手取った、絶望的な戦いが幕を開けた。




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