この呪術界に駄女神を!   作:ぷに凝

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7.このありふれた日常を!1

「ふんふんふ〜ん」

 

……あら?

 

「あ! キュウリ3本で98円! 安いじゃない」

 

確か塩昆布もまだ1パック残ってたわよね。今日はお漬物にしようかしら。

 

「……美水矢?」

 

ウキウキしながらきゅうりを買い物カゴの中に入れると、聞いたことのある声が聞こえてきたわ。

 

「あら、スグルさんじゃない。あなたもお買い物?」

「あぁ。お使いだ。美水矢、君もか?」

 

そこに立っていたのはスグルさん。今日も前髪がいい感じに靡いてるわね。

 

「いいえ? これは私が食べるの」

「え?」

「せっかく安いんだもの。別におかしくないでしょ?」

「まぁ、確かにおかしくはない、が……」

 

スグル君が、何やら神妙そうな顔をして言ったわ。

 

「まさか、美水矢が料理を作れるとは思わなくて。意外だったものだから」

「何言ってるのよ、スグル君」

「いや、すまない。愚弄しているわけじゃないんだ。単純にイメージの話で……」

「出来ないに決まってるでしょう」

「えっ」

 

私の前世……というか今でもそうだけど、私は水の女神。女神なのよ?

 

そして今の私は名家のご令嬢。

 

家事なんて碌にしたこと無いに決まってるじゃない。

 

「じゃあ、誰が作るんだい?」

「あやめさんって人が色々とお世話を焼いてくれるから、その人に頼むわ」

「……」

 

スグルさんがなんだか微妙な顔をした。

 

この世界にも“料理スキル”があれば便利なんだけどねー。カズマさんみたいに私も取っておけば良かったわ。

 

あっ、でもこの世界じゃスキルは使えないんだっけ。

思えば不思議よね。料理が上手くなることはあっても、下手になるのってあんまり想像つかないんですけど。あの世界のスキルってなんなのかしら。

 

「まぁ、君らしいとも言えるか……ん、それは“洗剤”かい?」

「あぁ、これ? そうよ。これが一番使いやすいの」

 

次にスグルさんは、私のカゴの中にたっくさん入ってた緑色のボトルを指していった。

 

「だからってそんなにたくさん……あぁ、もしかして呪術用かい?」

「ふふん、鋭いわね。そう、入念な準備ってやつよ」

 

私は優雅に笑ってスグルさんの鋭い質問に答えたわ。

 

私の“石鹸掃術”はたくさん洗剤を使うから、こういう日々の準備が大事ってワケ。抜け目のない私。流石だわ。

 

「なるほどね。それは素直に関心……いや、待て」

「うん?」

「君、呪術を使う際に洗剤なんて取り出してなかったよな? “赤血操術”のように体内に洗剤を取り込むなんて真似も出来ないはずだ。それはいつ使うんだ?」

「え? 決まってるじゃない」

 

なに当たり前のこと言ってるのかしら。

 

「食器を洗う時に使うのよ」

「……呪術は?」

「“石鹸掃術”で洗うの」

「……」

 

スグルさんが天を仰いじゃったわ。

 

「……前代未聞だな。君のような呪術師は。悪い意味で」

「ふふ、そうでしょう? こんなに麗しい呪術師なんて日本にいるわけ……最後なんて言ったの?」

 

私がスグルさんに詰め寄ると、彼は口笛を吹いてレジの方へとスタスタ歩いて行っちゃったわ。

 

……なんなのよー!!

 

 

「それにしても、美水矢」

「うん?」

「会うのは二年ぶりだね」

 

スグルさんが私の分のレジ袋も持ってくれて、身軽になった私が車止めブロックの上でバランスを取って遊んでたらそんなことを言われたわ。

 

「そう? もうそんなに経ってたかしら?」

「あぁ。正直、ここで会えると思ってなかったよ。てっきり美水矢は忙しいものだと思ってたから」

「失礼ねー。私はずっと忙しかったんですけど?」

 

だってノリトシさん……あ、私の叔父さんなんだけど。あの人ったら色んなパーティに私を出席させるんだもの。

 

政治家の偉い人とか、警察の偉い人とか、大企業の社長さんとか。そういう人が参加してるパーティに私も参加させられて、次から次にお話相手が来るからすごく疲れるの。

 

「僕にも噂だけなら聞こえてくるよ。やれパーティ会場が水浸しになっただの、やれ用意されたご馳走が洗剤まみれになっただの、やれパーティの招待客が君とダンスを踊ろうとして全治3ヶ月の怪我を負っただの」

「私のせいじゃないわよ!? ……多分」

「ふふっ、災難だったね。でもしょうがないと思うよ。あれだけの活躍をしたんだから。今じゃ君は呪術界中から注目の的だろう」

「でもでも、お話だってすっごくつまらないのよ? お金とか、結婚とか、遺産の相続とか……そんなのばっかり。難しくてよくわからないもの」

「……そうか。大変だな、美水矢は」

 

スグルさんがそう言って笑う。

 

「けど、君は言ってただろう。“辛いことからは逃げてもいい”って。君もそうすればいいんじゃないのか?」

「逃げたわよ? 何回も。でもそうしたらね?」

「ふむ」

「サトル君に捕まっちゃうのよ」

「……五条悟に?」

 

スグルさんが振り向いて、目を見開いたわ。

 

「えぇ。なんでかいっつも私の呼ばれてるパーティにいるのよ? ねぇスグルさん、これってストーカーってやつじゃないかしら」

「……」

「スグルさん?」

「ん? あ、あぁ。いや……」

 

スグルさんは顎に手を添えて何か深刻そうな顔をしたと思ったら、私がスグルさんの顔を覗き込むと首を振って変な笑顔を作ったわ。

 

「……そうか。五条悟とは何度も合ってるんだね」

「そうなのよ〜。美男美女は三日で飽きるって言うけど、私はもう二日目で飽きちゃったわ」

「酷いな……」

 

まぁ、サトル君と私が話してると周囲の人たちは皆話しかけてこないのは便利なんだけどね。

サトル君ってばバリアみたいなの張ってたし、きっとあれで人払いとかしてるんだわ。あれで結構人嫌いなのかしら。

 

「……なぁ、美水矢」

「うん? なぁに?」

「君は彼を……五条悟を、どう思ってるんだい?」

 

スグルさんにそんなことを聞かれて、私は首を傾げた。

 

「どうって……生意気なお子ちゃまだけど?」

「……そうか。お子ちゃま、か」

 

そう言うと、スグル君は息を吐いて笑った。

 

「あの五条悟をお子ちゃま扱いできる人間なんて、きっと君くらいだよ。美水矢」

「え〜? だってそうじゃない。まだ7歳なんだから。立派なお子ちゃまよ?」

「そう言う君も同年代だけどね」

「私は……ホラ、強く麗しい大人のレディだから?」

 

私がそう言うと、スグルさんが目を細めた。

 

「大人、か。確かに……君たちは大人だよ」

「わぁっ!?」

 

バランスを崩した私がブロックから足を踏み外す。

 

「よっ、と」

 

そんな私を、スグル君が支えた。

 

「私は羨ましいよ。君たちが」

 

スグル君は、私に振り返ることもせず。

 

そんなことを言ったわ。

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