早朝、セットしておいた目覚まし時計が鳴り響く音に目が覚める。
眠気と戦いながら着替えをして、僕は母屋とつながる道場へ足を向けていく。板張りの床がぎしぎしと鳴るのを聞き終え、道場に入った僕は目の前の家宝である一振りの古刀に礼をする。
我が家の家宝であり、そして祭ってきたといわれる神器、建御雷之神。とはいえ、恐らくはそう伝えられただけの古刀だろう。
何せ建御雷、つまり僕の名前の由来でもある雷と剣の神は、春日大社などに祭られている神。幾ら我が家が過去を辿れない程に古いとはいえ、建御雷のご神体がこんな場所に有ったら神社本庁が黙っていないだろうに。
「精が出るの、和地」
「お爺様、おはようございます」
そうして礼を終えた時に、今年齢80丁度のお爺様が道場に足を運ばれた。
仙人のようなひげを蓄えて、好々爺のように何時も笑っているお爺様。しかし、一度剣を取るとその顔は笑いはそぎ落とされて、何処までも鋭い顔になる。実際剣の腕前も凄まじく、10年前には高町さんの道場との親善試合で士郎さんを下したほどの猛者だ。その時の試合を見た僕は剣の道にあこがれたほどにお爺様も、士郎さんもかっこよかったのだ。
「ふぉふぉふぉ、そうかそうか。では儂は此処で見ているとするかの」
「はい」
唯、幾らお爺様でも、寄る年波には勝てなかった。流石に今年からお爺様は剣を持たなくなった。お爺様に見られながら僕は朝稽古を始める。
「フッ! フッ!」
一振りごとに気持ちを込めて振るう。心のこもっていない剣には意味が無い。それがお爺様の教えだ。僕が振るう木刀をお爺様はニコニコと見ていてくださる。
「和地よ、少々気がせりすぎているぞ? もう少し落ち着いて振るうと良い」
「分かりました」
そうやってお爺様と稽古をしていた時だった、何と言えば良いのだろうか? あたりの空気が変わった。それはお爺様も同じだったようで、近くに有った木刀を手に掴み、あたりを警戒している。
そうやって僕とお爺様が警戒していた時、唐突にカタカタと古刀が揺れる音が聞こえたと思うと、二人の中間の、そう丁度道場の中央に見たこともない何かが浮かび上がってきた。
黒雲のような光を発しながらその何かは形を作っていく。それはまるで黒魔術か何かに使われるような魔法陣を形成していく。
「面妖な!」
お爺様が発した言葉通りだと思う。僕ならまだしも、御年80のお爺様でもこんな現象は見たことが無いのだろう。
「うわっ!」
「和地!」
急に魔法陣が輝きを増して閃光と見間違えるほどに当たりを照らした為、僕は目をやられてしまった。
「っく!」
霞む視界のなかに、何かを見たような気がする。それは輪郭がぼやけているから詳しくは分からないが、大きさは人位。そして、
「人間?」
お爺様の言葉を信じるとするのなら、そこには人が立っているのだろう。そして、
「あっ」
「へ?」
何か、柔らかいものが口に触れた。それを認識する前に、何かに押し倒される。
「うわ!」
とっさに頭を庇い、受け身を取る。一体何が!? 霞んでいた視界がようやく戻ってきた。
下手人を見るとそこには一人の女の子がいた。金というにはいささか薄すぎる色合いの髪の毛。まつ毛は長く、閉じられた瞳は大きい。そして鼻はすっとしており、多くの人が美少女と呼ぶような子が僕を押し倒していた。
「えっ。え、ちょっ、一寸、一体何が!?」
そして思い出してしまった。先ほど口に触れた何か柔らかい感触を。
「え、もしかして」
そこまで認識したら、一気に顔が赤くなってしまい、混乱を助長してしまう。
「!!!!?????」
そんな状態の中、お爺様が何かをぽつりとつぶやいていた。
「青春って言うべきなのかのう?」
母屋の一室にてお爺様とお婆様、そして僕が集まって一人の少女を見つめている。
「それで貴方」
「なんじゃ?」
「いったい彼女は?」
そう言ってお婆様が指さした少女は、布団の中ですやすやと眠っている。
あの場の混乱の後に気が付いたことだが、彼女には幾つもの傷がついており、それが原因で気絶してしまったようなのだ。本当なら警察や病院に連絡したほうが良いのだろうけど、あの奇妙な現象を考えるとそういう訳にもいかない。
「さっぱり分からん」
「そうですか。では、彼女が気づくまでは何もわかりそうにありませんねぇ」
「うむ。まぁ、気が付いたら彼女に少しだけ話を聞かせてもらうとしよう」
よっこらせと呟きながらお爺様は和室から出ていく。それを見ながらお婆様も立ち上がってこの部屋から出ていく。
一体、彼女の身に何が起きたのだろうか? 僕と変わらないくらいの少女がここまで傷ついている事態を想像して、やめた。彼女の常識が僕たちの常識と重なるかもわからないのに、そういった事を想像するのは無駄というものだ。
「ハァ。せっかくの夏休みなのにいきなり何が起きているのやら」
愚痴をこぼしながら、僕もこの部屋を後にする。
さて、今日は剣道部での活動があるからもう行かなくては。
部屋で準備を済ましてから、玄関の引き戸に手をかけて開く。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
っう! 此処は?
痛む体を無視して辺りを見ると、見たこともない家の中にいた。コンクリートではなく、はたまたテントなどの移動用の家ではない。主な素材は木材を使っているのか木の匂いがする。それに、私が寝かせられていたのもベッドではないようだ。
「私は確か」
何があったのかを思い出していく。靄のように頭が霞みよく思えだせないが、それでも思い出そうとしていると。
「あら、起きたのかしら?」
しわがくっきりと浮かんでいるが、元気そうな品の良さそうな老婆が私の事を見ていた。
「貴方は?」
「あら、私の事? 私は竹見
「……私はミール。ミール・スクライアです」
私は老婆に名前を告げた。
スクライア一族登場です。