剣道部の活動を終えて、家に帰るとお婆様からあの少女が起きたと伝えられた。
そのため、今私達と彼女は、客間で向かい合って彼女の話を聞いている。
「私は、スクライアと呼ばれる一族の者です。スクライアは、次元世界にて遺跡発掘を生業としている一族の事です」
彼女が言うには、この世界は一つではないそうだ。幾つにもわかれた次元の陸。それが次元世界であり、その周りは、普通の方法では移動できないような海のような状態らしい。
その海を渡る手段であり、彼女たちが日常的に使うのが魔法。科学によって制御されたプログラム。それらによって世界を歪めて、自身の望む事象を引き起こすらしい。
「じゃあ、おぬしはその次元世界からこの世界へと来たと? それにしてはおぬしの体には怪我が多すぎたようじゃが?」
「それについては」
『マスター、私が説明します』
何だ? いきなり声が!?
「ゼウス、いきなり声を出さないで。まだ、デバイスの説明をしてないんだから」
「ゼウス?」
「これの事です」
そう言って彼女は、懐から紫色に光る小さい水晶玉を取り出した。キラキラ光を反射しながら輝くそれの表面に、いきなり文字が浮かんできた。
『初めまして、そして感謝を。我が主を救ってくださり、ありがとうございます』
そして声がまた聞こえる。いや、正しくは水晶玉から聞こえる。
「これがデバイスです。魔法の制御の手助けなどをしてくれるんです。いろいろな種類がありますが、この子は自立成長AIを組んだ、インテリジェントデバイスです」
話を聞いて、一つだけ分かった事が有る。それは、
「なぁ、お前」
「何ですか?」
「AIやら何ちゃらって分かるか?」
「分かる訳ないでしょう」
うちの家とは相性が悪すぎるという事だ。
「えっと、僕も良く分かりませんが、あの水晶玉には魂が宿っていると考えればよろしいのでは? お爺様」
「ふむ。そうじゃな。そう考えるとしよう」
如何やら納得してくれたようだ。
「えっと、魂?」
「気にしないで。それより、何でうちの道場なんかに?」
『それはマスターが襲われたからです』
「……それは、何故?」
『マスターが発掘したロストロギアを狙ってでしょう。発掘したロストロギアはA級の魔力を秘めています。それ一つで計り知れない価値があります。ですから、主は襲撃されたのです。管理局への連絡を、誰かが盗聴していたようで。私の不注意です』
なんていうか、それ可笑しくはないか?
「いや、それって可笑しくないか? その話を聞くと、発掘して連絡をした後に襲撃されたようだけど、そうすると襲撃までの時間が短すぎる」
『それは私の推測ですが、墓荒らしだったのでしょう。しかもかなりの高位の魔導師。墓荒らしのターゲットを私たちが発掘していた遺跡にしており、私達の動向もマークされていたようです』
なるほど。だから発掘が完了してすぐに襲われたのか。
『そして襲撃されたマスターは、気を失う前に転移魔法を使ってここに来たのです』
「つまり、襲われて必死になって逃げたという事じゃな?」
「はい、そうです」
そう言った彼女は恐怖に怯え、震えていた。
「……お爺様」
「分かっておる」
お爺様は立ち上がり、彼女の頭に手を置いた。
「ふぇ!?」
「怖かったじゃろうに。いきなり悪意を向けられて、怖がらないのは異常なだけじゃ。おぬしは今転移魔法でスクライアの集落に帰れるかの?」
「い、いえ。今はできないです。魔力濃度の違いで魔力が足りなくて」
「そうかそうか」
笑いながらお爺様は、彼女の頭から手を放して彼女に言う。
「ならばその魔力とやらが集まるまで、この家にいると良い。その間にけがもゆっくり治せばなお良いじゃろう」
「な! そう言いう訳にはいきません! 私を狙っているのは犯罪者ですよ!? しかも、管理局との連絡を盗聴できたという事は、それだけ確かな力を持っている犯罪者です! 私をまだ狙っているかもしれません! 貴方達を巻き込められないです!」
彼女が叫んだのを聞きながら、お爺様は微笑みを絶やさぬまま、彼女の間違いを告げる。
「そうかのう。確かにその犯罪者はおぬしの言うとおり力があるようじゃろう。そもそもわしにはその違いが分からない。じゃがの、元来力とは暴力と違う。誰かを守ろうとした力こそ力という。おぬしはそれを間違っている。それに、わしらは自分たちを力はあると思っておる。見ず知らずの子供を助けるくらいにはの」
「そ、そんなの詭弁です!」
「詭弁の何が悪いのかのう? 亀の甲より年の功。孫ほど年の離れた子供を助けるためなら、いくらでも詭弁を吐こう。何、怪我が治って魔法でどこかに移動するまでの期間だけじゃ。それに儂らは巻き込まれるわけじゃない。唯、渦に乗るだけじゃ」
お爺様はそこまで言うと、もうそれを決定事項として動き始める。
「さて、準備を始めんと。けがは病院に行くわけにはいかなだろうから、わしらができる範囲で治療しよう。寝室は客間があるし」
「だからまって――っつ!」
興奮した彼女は立ち上がったのだが、その急激な動作に体が追い付かず、けがをしたか所を手で押さえている。
「まあ、不信はあるかもしれないが、せめてその怪我が癒えるまではここに居るべきじゃ」
「そういう事じゃ!」
「そういう事じゃよ。それにお主、ここをでていくあてがある訳じゃないだろう?」
「そ、それは」
「何、しばらく孫娘にでもなってくれ」
反論を告げさせる前に、私たちは行動する。
「さあさあ、歓迎のごちそうを作らなくっちゃ」
「ええ、私が何時もの商店で材料を買ってきます」
立ち上がってごちそうの材料を買い込む。こういった事は拙速を好む。混乱しているうちに、一気に押し込むべきなのだ。
私は今だ騒いでいる居候予定の少女、ミールの為に玄関を出て商店へと向かう。
「何、お婆様の手にかかればすぐに丸め込められるだろう」
何せ、あの人はうちの家で一番押しが強いのだから。彼女もきっと、僕が家に帰るころには急ろう決定だ。けがの治療の為にも、栄養のある物を用意しないと。
財布を握り、僕は夕焼けの中を小走りで走っていく。