魔法少女と穢れを愛する者の学校生活   作:koth3

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第20話

 クソ! クソ! クソ!

 動け! 動いてくれ!

 今動けなくちゃダメなんだよ! 頼む。彼女を、ミールを取り戻すまで動いてくれ!

 だけども、僕の体はピクリとも動いてくれない。

 何で動いてくれないんだ! 僕はこんなにも弱いのか!?

 

 「さて、この場なら十分な広さがある。此処から転移しましょう」

 

 道場の冷たい床に倒れながら、僕は必死に手を伸ばす。彼女を取り戻そうと。

 

 

 

 あの日、あの時の彼女の様子が余りにも可笑しく、僕はそれが気になり続けている。

 

 「……ここらでやめたほうが良いかもしれんの」

 「申し訳ありません」

 

 その結果がこれだ。夜、道場で竹刀をふるっていたけど、自分でもわかるくらい切先がぶれている。

 集中できていない証拠だ。お爺様から指摘もされてしまったし。

 竹刀を片付けながら、ため息を思わずついてしまう。この頃、あの時の彼女の顔が気になって稽古に身が入らない。一体どうしたというのだろうか。

 確かに彼女の顔は気になるが、彼女自身が大丈夫っていったじゃないか。それで良いんだ。……でも、僕の中ではそれがうまく片付かない。

 

 「ぁあ!」

 

 髪の毛をぐしゃぐしゃとかき回してから、息を落ち着かせるために深呼吸をする。

 

 「よし!」

 

 ぱぁん! っと景気良い音が響くほど強く頬を叩いて、決心する。

 このままでいてもどうせ気になるんだ。だったら本人に尋ねたほうがよっぽど気が楽になる。

 汗を流してから、彼女に話を聞きに行こう。

 

 

 

 

 彼女の泊まっている客間に足を運ぶと、何やら声が聞こえた。

 

 「そろそろ、魔力が溜まるわ」

 『では、いつごろ帰るのですか?』

 

 如何やら、ゼウスとの会話らしい。

 話の内容は言葉から推測する限り、魔力がたまって帰れるようになるという事のようだ。

 

 「うん。でもまだ魔力が足りないからあと数日はかかるけど」

 

 ……。

 ふすまの近くの壁を叩いて、ノックの代わりにする。

 その音に中の気配の動きが変わり、ほんのわずかな時間の後、声が返ってくる。

 

 「誰?」

 「和地だけど、入っても?」

 「あ、うん」

 

 入っても良いという事なので、入らせてもらう。

 

 「如何したの一体?」

 「あ、嫌。ちょっと聞きたい事が有ってね」

 

 客間とはいえ、女の子が生活している部屋になんか入ったことはないから良く分からないが、何と言うか甘い香りがする。いや、何を考えているんだ、僕!? 甘い香りなんておかしいだろう! 此処は一応僕の家なんだから僕の家の匂いがしなきゃいけないはずなのに!

 

 「えっと、座らないの?」

 「あ、ああ」

 

 とにかく、一旦落ち着こう。彼女から少し離れた距離に腰を下ろして、彼女に話を始める。

 

 「その、あの」

 「? 少し落ちついたら?」

 

 ダメだ。いざとなって言葉がうまく出てこなくなった。

 

 「ゴホン」

 

 咳払いをして、仕切り直して彼女に聞く。

 

 「少し聞きたい事が有ってね」

 「聞きたい事?」

 「そう。何であんな顔をしたの?」

 

 あの時の、本当にかすかにしか見えなかったけど、恐怖に歪んだあの顔がどうしても気になった。

 その事を尋ねたら、見る間に彼女は体を強張らせて、必死になって否定し始めた。

 

 「何の事? あんな顔って?」

 「あの日、あの時、君の顔は確かに恐怖に歪んでいたよ。僕だって剣道をやっているんだ。初心者の子に教えると、竹刀が怖いって話はよくある。それでも隠そうとするんだけど、大概失敗して顔が強張るんだよ。その時の顔とあの時の君の顔はそっくりだった。ううん。そっくりどころか、まるで違わない。恐怖を押し殺そうとして、失敗した顔だった」

 

 彼女の体が震えだす。

 

 「けど、何よりも僕が気になったのは、恐怖になった理由だよ。あの時、僕達が話していたのは好きなことが怖くなったらだった。君はもしかしたら、遺跡が、考古学が怖くなったんじゃないかな?」

 

 彼女の歯はカチカチと音を鳴らす。

 

 「それはたぶん、いきなり墓荒らしに襲われたことが原因なんだろうね。推測だから外れているかもしれないけど」

 

 彼女の瞳は凝縮する。

 

 「僕と変わらない、十五歳で命を奪われそうになった経験は、十分トラウマになると思う。もしかしたら、一生そのトラウマを君は抱えないかもしれない」

 

 彼女の口が動く。

 

 「だから、ううん、違う。良ければで良い。話してくれないかな? 何の役にも立たないかもしれないけど、僕も、お爺様もお婆様も君に協力するから」

 「や……て」

 「駄目……かな?」

 「止めて!!」

 

 !!?

 いきなりの大声に驚いて、そして僕は、後悔した。

 

 「それ以上、話さないで! 私だってわかっている! 今の私が恐怖に縛られていることくらい! でも、それでも私にはこの道しかない! 貴方と違う。親の加護受けて悠々暮らせる訳じゃない。私は一族の為にも働かないといけないの!」

 

 彼女はそう叫びながら、ボロボロと大粒の涙をこぼしていた。

 それを見て、僕は後悔して、自分自身を軽蔑した。

 彼女はこの世界の、この平和な日本の住人じゃない。違う世界の中で、一人の大人として現実の中を必死に生きてきたんだ。同じ年齢だったとしても、その人生の密度は違う。

 そんな彼女に、僕のような人間が叫んでも、それは通じないのだろう。

 

 「私は常に遺跡を潜った! それは私自身の為でもあり、一族の為だった! そうしないと、私たちは生きていけない! スクライアの一族なんて名乗っているけど、実態は、唯世界に置いて行かれ、喘ぎながら暮らしている弱小民族でしかない。そんな中、私だけ逃げるわけにはいかないの!」

 

 思わず息をのまざるを得なかった。僕の予想より、現実は重かった。

 

 「もう、出てって」

 「……分かった」

 

 なにももう言えなかった。言えるはずがない。

 静かに立ち上がって、部屋を出る。

 自分の部屋に帰って、布団に倒れ込む事しかできなかった。

 

 「僕はバカだ」

 

 彼女の事を想えば、分かっても当然だったはずじゃないか。結局、僕は僕のエゴを押し付けようとしていただけ。優しさなんかじゃない。優しさって言うのは誰かが救われる事だ。むしろ、僕が今したことは、彼女を傷つけただけ。いやそれも違う。傷口に塩を塗ったようなものだ。

 

 「ゴメン。ゴメン」

 

 唯うわごとのように、呟き続けるしか僕にはできなかった。

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