動くことすらできない。あの灰色の光の球が直撃して、力ががくりと抜けてしまった。
その虚脱感に思わず、手に持っていた古刀を落としてしまう。緩んだ掌と同じように、意識も霞んでいってしまう。
「死んでいない? ……まあ、良いでしょう。一番重要なのはスクライアである貴方だけだ」
男の言葉に彼女はびくり、と身を震わせて後ずさる。怯えきった顔で。
そんな顔しないでほしい。なんでだか、そんな事が頭に浮かんだ。
倒れ伏した和地を助けたかった。でも、体は動かない。動かせない。怯えきり、目の前の男から逃げようとしてしまう。
だけど、それすら許さず、男は私を掴みあげて無慈悲に告げる。
「……いや、このまま貴方を連れて行くとしましょう。上手く調教すれば、新しい仕事の種になるかもしれない。スクライアの技術なら、未発掘の遺跡を発掘できるかもしれません」
伸びる腕に掴まれて、私は抵抗する事すらできずに引きずられていく。
「は、放して!」
「さて、管理局の目を免れるためには管理外世界をいくつか経由しないと」
暴れまわる私の言葉も聞かずに、男は呟きながら魔法を発動させる為の場所を探し始めた。
薄れていく意識の中、ミールが連れて行かれそうになっているのを見て、心が燃え上がった。怒りでぼんやりした思考が元に戻る。だけど、体が動いてくれない!
クソ! クソ! クソ!
動け! 動いてくれ!
今動けなくちゃダメなんだよ! 頼む。彼女を、ミールを取り戻すまで動いてくれ!
だけども、僕の体はピクリとも動いてくれない。
何で動いてくれないんだ! 僕はこんなにも弱いのか!?
「この場なら十分な広さがある。此処から転移しましょう」
道場の冷たい床に倒れながら、僕は必死に手を伸ばす。彼女を取り戻そうと。
――貴様は何故、力を求める?
どこからか、そんな声が聞こえた。人である限り、その声を聞けば触れ伏してしまいそうになるほどの威厳を、力を含んだ声。
何でだろうか。その声を聞いた時、僕の何かが変わったような気がする。
――答えよ、人の子よ。
『僕は、僕は弱い。あの男より弱い。だから力が欲しい』
――……。
『あの子を守るための力を!』
――良く言った!!
その大きな声を聞いた瞬間、体が急に軽くなる。体の中を何かが駆け廻り、不思議な力を与えてくれる。何をすれば良いか。何となくだが分かった。
直感に従い、近くに落ちていた古刀を掴み
何の抵抗もなく、するりと刀は抜き放たれた。不思議な蒼い刀身は、同じ色の雷を辺りに放出していく。その光は、この場を満たし始めていた灰色の光を押しのけて、道場の中を力強く照らしてく。
ああ、今分かった。僕の一族が、この刀を神として祭ってきた理由が。
「な、に?」
「天羽々斬の刀身の内、半ばから流れ落ちた血は一柱の神を生み出した。その神は雷を司ると同時に、刀の神でもあった」
「莫迦な! あんな青銅の刀にロストロギアクラスの力だと!?」
「そして、その神のご神体を僕の一族は守り続けてきた。ならば、今こそ抜き放つ時だ」
いまだに莫大な雷を辺りに放出し続ける刀を手に、僕は走る。
蒼い雷が僕の体を包み、筋肉の動きを強化していく。神経を流れる電気信号は有り得ない速度で加速していき、言葉通り世界が変わっていくのがはっきり見える。
男の唇が動く。おそらくは、先ほどの魔法を使うつもりだろう。だけど、そんなことさせない。
先ほどとは違い、雷のようにジグザグと動くことで、的を絞らせない。
「はあああああ!」
しかしこれだけでは意味が無い。さっきのように、男の近くに縄を用意しているかもしれない。ならば、その縄も避けるか、斬るかのどちらかだ。
「あ、ありえない!! 何故魔法が斬られている!!? 実体無き魔力を斬る事が出来る!!?」
狼狽している男を峰で袈裟に切る。その斬撃に、道場内を眩く照らす蒼い光が現れて男を襲う。
「がああああああああああああ!!!!」
雷に身を襲われて、男は悲鳴を上げ続けた。
ドサリと焦げ臭いにおいをさせながら、男は倒れ伏して、動かなくなった。倒したことを確認して、ミールの方へ振り向き、無事だったかを聞く。
「大丈夫だった?」
「あ、うん」
「何かさせられなかった?」
「う、ううん。そんな事なかった」
「そっか。なら良かった」
顔を見ることはできないけど、それでも今の自分の顔はすぐにわかった。僕の顔は笑っているだろう。
それで終わったのなら、良かったのだ。しかし、物事は人の思い通りにはならない。
「時空管理局です!」
突然、道場の扉が開けられて、一人の少女が現れた。その子は僕が良く知っている子だった。しかし、その子が言った言葉の意味は理解できなかった。
時空管理局? 確かミールの言っていた治安維持組織だったか?
訳の分からない事が沢山ある中、しかし、事態はどんどんと変わっていく。彼女にそれらを尋ねるよりも早く、彼女は僕の事を恐らく勘違いしてしまったのだろう。
「ロストロギアの不法所持で逮捕させていただきます」
「ちょ、一寸待ってくれ! そもそも行き成り来て何を言っているんだ!?」
「貴方が持っているその剣は、管理局の規定によってロストロギアとして扱われます。ですので、封印しなければなりません。貴方が抵抗しなければ、それは未必の行為となり、罪はなくなります。いきなりこのようなことを言われて混乱しているかもしれませんが、協力してください」
そう、あまりに一方的に彼女は告げた。聖祥五大美少女と呼ばれる一人、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンは。でも、いきなり現れて、家宝を渡せって言われてハイ、そうですかと納得できる訳が無い。だから、その言葉に対して腹が立った。そして、彼女が言ったその言葉は僕だけではなく、
カタカタと刀が震える。蒼い雷は収まりかけていたのだが、それがぶり返す。いや、ぶり返すどころかさらにひどくなっていく。
――我を、神剣たる存在と火の神の血で生まれた我を、高々人間風情が傲慢にも封印するだと?
拙い!! 咄嗟に刀を鞘に収めようとしたが、それは間に合わず、刀が僕の手を雷で焼き、余りの痛みに柄を放してしまう。
「なっ!? 意識を持っている! 自立行動型ロストロギア!?」
――そのようなくだらない言葉で我を縛ろうとするな! 小娘が
神が怒った。只言葉にすればそれだけなのに、それがどれだけ恐ろしいかは魂が分かった。彼女と、ミールは理解していないようだけど、僕はそれがどれだけ危険なのかはすぐに理解して、恐れた。
このままでは下手をしなくとも、