私は高機動の、高速戦闘を得意とする魔導師。この道場内のような狭い空間は余りにも分が悪すぎる。一歩で開いていた扉から出て空へ飛行して、私自身に有利な状況に戦場を固定する。すぐさま、蒼い雷は私を追い、扉を粉砕しながら外に出てきた。
「バルディッシュ」
『イエス』
すぐさま、魔力を魔導式に乗せて、発動させる。雷の魔力を相手は纏っているのだから、何時もより私の攻撃は効果が薄いだろう。それでも私の魔法なら、目の前のロストロギアをある程度は疲弊させて、封印することもできるはず。
術式に沿って魔力が流れ込む。あとは魔法を相手に当てるだけ。
――愚か者が! 我に雷を降らそうなどとは!! 貴様ら人間程度が、
っ!! 発動したはずの魔法が、発動されない!? 確かに魔力が消費されて、魔法として発動された感覚はあるのに。失敗したわけでもない。なのに、失敗した!?
「何が……」
『フェイトちゃん!』
「エイミィ?」
『気を付けて! あのロストロギアから、今まで観測したこともないような反応が返ってるの。それも特に電波や電機関連のサーチに返る反応が顕著なの。おそらく、あのロストロギアは電気に関連した力があるみたい』
そんな! 最悪、電撃を無力化してしまうのだとしたら、私の攻撃のほとんどが意味をなさなくなる。魔力変換資質は、無意識に魔力を変換してしまう。雷になってしまった魔力を、一度元の状態に変換しながら戦うしかない。でも、そうなるとロスが酷い。
普段使わない技術をいきなり実践で使う事になるなんて。だけど、そう言っている場合じゃない。ここでこのロストロギアを止めなければ、何が起きるかわからない。これだけの力を持っている物を放置した場合、何が起きるかは考えたくもない。
――小娘、これは我の神託だ。貴様は、焼き尽くされろ。
ゾクリ。
身を襲う悪寒に全てを振り払ってとっさに前に飛び出した。もしあの場所に居たら、私は死んでいただろう。
「うそ?」
『観測不能。警戒を最大限に!』
私が今いた場所には、夥しい刀が突き刺さっている。もしあそこに居たら間違いなく死んでいた。違う! 目の前のロストロギアは焼き尽くすって言った! これは串刺し!
――さらばだ、愚かな人の身を模したまがい物。
え?
飛び出した二人を追いかけて道場から飛び出たけど、そこに広がっている光景は余りにも悲惨だった。雷に打たれたのだろう。体中を焦がしたテスタロッサは地面に叩きつけられ、その上で一振りの刀で串刺しにされてしまっている。あまりにひどい光景に、僕は動けなかった。
「あ、あ」
体を掻き毟り、震えを止めようとする。もうダメだ。耐えられない。地面に胃の中身をすべて吐き出してそれでもえづきながら、何とか呼吸をしようと必死になる。
血の臭いが鼻に届く。あまりに酷いその臭いに、また吐き気がこみ上げてしまう。
「っつ! ゼウス!!」
『イエス、マスター! 結界魔法、ヒーリングフィールド展開』
テスタロッサを覆う何か。だけど、その何かではテスタロッサを救う事が出来ないだろう。あれ程の火傷に、傷。どうあがいても治療して助かる見込みはない。もし、管理局とやらが僕の知っている治療以上の行為を行えるのなら別だけど。
「何故。何故ここまでしたのです!? 建御雷之神よ!」
――決まっている。我を侮辱したのだ。我が身は神。人が侮辱して良い存在ではない。それに不自然な生物を駆逐するのは当然だろう。作られた命などに、何故自然の神でもある我が考慮してやらねばならない?
駄目だ。建御雷之神は怒りのままに、確実にテスタロッサを殺すつもりだ。確実に、生存できないように。如何にかして怒りを鎮めなければならない。方法は……一つだけある。
はっきり言って本当に、これがそれであるかは分からない。だけど、それしか方法がない。
「ミール! 手伝ってくれ!」
「えっ?」
「早く!!」
「わ、分かった」
建御雷之神の怒りを鎮める方法はあるが、その手段を行うためには建御雷之神に近寄らなければならない。空を飛んでいる建御雷之神に近づくには空を飛ぶ必要がある。
「僕を運んでくれ。上手くいけば、怒りを鎮められるかもしれない」
「そんな馬鹿な! あんな無茶苦茶な存在相手にそんな事」
「それでも、それでもするしかないんだ!!」
「……分かった。だけどいざとなったら無理やりにでも止めるからね」
ミールに抱えられて、僕は空を飛ぶ。まさか空を飛ぶ日が来るとは思わなかった。
子供の頃に抱いた空想が実現化したのは良かったが、それでも今は目の前の事に集中しなければ。
チャンスは一度。建御雷之神が青白い光を放ち始める。おそらくは最大の一撃でテスタロッサを吹き飛ばすつもりなのだろう。だけど、それは同時に僕たちの事を認識していないという事だ。そもそも、僕と建御雷之神では力の差がありすぎる。何をしたって勝つことはできない。だから、無視されてもいる。
認識されていないのなら、認識されていないで利用する。
「今だ! 投げろ!」
「投げ、え、ええ!?」
「早くしろ!!!!」
勢いよく僕は投げ飛ばされる。建御雷之神へ向かって。只投げられた程度では、建御雷之神に焼き殺されて終わりだ。だけど、僕はもっている。おそらく神の怒りもすべてを鎮める究極の物質、
建御雷之神が振り返りもせず放った青白い光の束は、僕が前に掲げた鞘に吸収されてかき消されていく。神を収めてきた刀身の鞘だ。それ自体かなりの霊格が無ければ、耐えれるはずがない。そして、僕の考えは当たっていた。
建御雷之神は青白い光を収めて、刀が縮んでいく。只の一振りの刀、いや神剣へ戻っていく。落ちながらも、僕はその刀を掴み、鞘に収める。
ああ、上手くいった。
僕が収めた刀を見て、安心してしまい、そして……。
フェイトの魔法が発動しなかったのは、建御雷が『雷を司る程度の能力』を所有していたために、全ての魔法をかき消していました。
一応、建御雷って、神様の中でもかなりの強さなんですよね。建御名方の神を負かしていますし。