魔法少女と穢れを愛する者の学校生活   作:koth3

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第26話

 それはあまりにも異常な光景だった。まさか、あのフェイトが落ちるとは思わなかった。いや、そんなものではない。只単に、僕たちの予想が外れて彼女がその犠牲になってしまっただけ。だからこそ、僕は僕を許せない。あの時、僕は闘えた。だけど、僕は彼女に任せてしまった。彼女なら大丈夫と。それで、なのはが落ちたというのに。

 

「クソ!!」

 

 壁を思いっきり叩いても、これがただの愚かな自傷行為であり、自己満足でしかないことくらい分かる。それでも、止まれない。止められない。胸の奥がむかむかする。あのロストロギアが起動しなければ。そう思わないでもない。だけど、僕と母さんが楽観視していたからこんな事になったんだ。

 

「リハビリをすれば、歩くことはできるかもしれません。しかし、もう二度と戦闘などの激しい運動はできないでしょう」

 

 先ほど、医務官から言われたことを思い出してしまう。もう二度とフェイトは空を飛べない。いや、むしろしばらくの間は歩行すら困難らしい。正直言って、彼を恨んだ。只の八つ当たりで、そんな事を言える権利なんてないというのに。彼はあのロストロギアを止めただけ。余計な事をしたのは僕達だったのだから。しかしもう、あのロストロギアと関わる事はないだろう。既に、他の船員たちが封印作業を始めたころだ。

 

「……落ち着け」

 

 頭の中でいくつもの糸が絡み合っていく。絡み、もつれ、塊になって思考を阻害している。駄目だ。幾ら身内だからとはいっても、動揺していては。何が起きるかは分からない。ロストロギアの封印が完了するまでは、気を緩めてはいけないんだ。

 気を落ち着かせようとしていた時に、慌てたような足音が響き、部屋の外から声が聞こえた。

 

「く、クロノ・ハラオウン執務官!」

「何だ。如何したんだ?」

 

 そして、次の言葉を聞いて僕は、

 

「ろ、ロストロギアの封印が出来ません!!」

 

 机を力いっぱい、そのムカつきに衝き動かされて、叩いた。

 とにかく、僕を呼びに来たクルーに走ってついていく。すぐに、その封印作業の現場へ行き、余りの事に目を疑った。数十人。幾ら魔導師ランクが平均してBランク辺りとはいえ、それでもこれだけ居ればなのはよりも魔力量がある。それなのに、それだけの魔導師が全力で封印魔法をかけても、あのロストロギアは反応すら示さない。変わらず、一定の力を周りに放出するだけで、機能の一部が止まるという事もない。

 ――ギリィ

 歯が軋む。力いっぱい噛みしめた歯から、こぼれた音だ。そんな簡単なことが分かるのに、数秒もの時間をかけてしまった。

 急いで封印魔法をかけながら、何度も自分自身を呪う事しか僕にはできなかった。

 

 

 

 こいつが、こいつがあのロストロギアの持ち主。目の前にいるフェイトと同じくらいの少年を、艦長と一緒にこれから尋問する。ロストロギアの不法所持。それが目の前の少年の現在の罪状だ。管理局法から考えて、少年は拘束されて二度と外に出ることは不可能になるだろう。幾ら管理外世界だとはいえ、少年が犯した罪は重い(・・・・・・・・・・)

 そうだというのに、この少年は何を言っている。先ほどからひと言口を開けば、ロストロギアは渡せない? この場にあるのが正しい? 反吐が出る。フェイトを傷つけたそれを、回収して封印し、二度と使えないようにしなければいけないんだ。

 何度も艦長がロストロギアの受け渡しを要求したが、その要求は通らなかった。無理やり力づくで回収するという方法は取れない。何故だかわからないが、あのロストロギアは封印魔法が効かない。ロストロギア単体を動かそうにも、バリアジャケットを着た魔導師が死にかけるほどの電撃魔法を放つ。危険すぎるロストロギアだ。だから、唯一あのロストロギアを所有できる少年に渡してもらわなければならないというのに。それを、あの少年が断り続けた。

 もちろん、何度も抗議した。だが、結局少年は折れず、艦長はそれを受け入れてしまった。

 

「納得できません! 何故、回収しなかったのですか!」

「クロノ、しなかったじゃないの、出来なかったのよ。私たちの法では、あのロストロギアは今のところ強制回収の法令に引っかからない。ロストロギアの所持自体は違法じゃないわ。それの危険性を理解して、さらに所持するだけの理由があればね。あの子の主張を私たちは崩せない。それでも力づくでしようとしたら」

「すれば良かったんですよ! あれだけ危険なロストロギア。例え法令がなかったとしても回収すべきでした!!」

「そうね。私もそう思ったわ。だけど、それはできなかった。あの子が目を覚ます前に、くぎを刺されたわ。ミール・スクライアに。スクライアだけあって、ロストロギア法に関しては私たち以上の知識があったわ。そして、もしそれでも無理やり私たちがあのロストロギアを回収しようならば、管理局所属、アースラ部隊全てを訴えると言われたわ。そうなってしまっては、もはや、打つ手もなくなるわ。それならば、妥協してでもあの子が間違わないように見なければならないのよ」

 

 納得がいかない。フェイトを傷つけて、それで法で許されると?

 

「クロノ。落ち着きなさない。貴方が何を考えているか、私は分かるわ。でもそれは、貴方の勘違いでしかないわ」

 

 なっ! 母さんは、母さんはフェイトが傷ついて、もう動けないかもしれないと言われてこのまま納得できるのか!?

 激情のまま、口を開き母さんに止められた。

 

「それ以上言わない事です。それを口にしてしまっては、私は貴方に謹慎処分を下さなければならなくなります。貴方は少し頭を冷やしなさない」

 

 その言葉が信じられなかった。何故、そうなってしまうのか? 

 

「フェイトが傷ついたのは、あの子の所為でも、ロストロギアの所為でもないわ。私達の判断ミスよ。感情論に流されるのは止めなさない。上に立つ人間は時には感情をなくす必要もあるわ。あの人のように。今のあなたはそれが分からなくなっているわ。だから、頭を冷やしなさい」

 

 急速に何かが冷えていく。艦長からそう言われた。それだけの事で、裡にあった黒い何かは固まって、ひび割れていく。僕だってわかっていた。これがただの逆恨みでしかないというくらい。彼らに罪をかぶせようとしていただけなのは。それでも、それでも。

 

「心は納得しないんだ!」

 

 艦長が行ってしまった廊下で、独り僕は壁を殴りその拳を頭で押さえつけて涙を流し続けた。




クロノ視点からの話でした。
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