開けられた窓からかすかに響く小鳥のさえずりが聞こえ、私は目を覚ました。
ふかふかとした豪華なベッドの上で、寝ぼけ眼を擦りながら見渡す。
品の良く高価な調度品が並び、私の部屋に違和感なく並べられ、自分ながら中々上手くコーディネートできたと思う。
こんな風に、クラスもまとめられたら。ふとそう思った。
清々しい朝なのに、心の奥で黒いものがとぐろいでせっかくの気分を台無しにしてしまった。
「あ~あ。朝からこんな気分になるなんて」
着替えて早く朝食を摂ろう。そう決めて、制服をクローゼットから取り出して、寝間着を脱ぐ。ぱさりと脱げ落ちる、可愛らしい柄の描かれた服をさっさと畳んで何時もの場所に置いておく。あとでメイドの人が洗いに出してくれるだろう。
クローゼットから取り出して着替えた制服は、何故か少し重かった。
「おはよ、皆」
「おはよーアリサちゃん」
「おはよう」
通学バスの中で後ろの席に座っているすずかとはやてに挨拶を交わして、私も一緒の席に座る。座ったと同時にバスが動き出して体が椅子に押し付けられた。行き成り動き出したせいで、体が押し付けられたことで少しムカッとした。とはいえ、いつまでもそんな事を気にするのも莫迦らしい。気分を切り替えて、皆とのおしゃべりを楽しみ始めた。
「それにしても、合唱コンクールどうなるんだろう」
只、すずかが語った内容に、私たちの空気は固くなり、止まってしまう。私は昨日の練習を思い出して憂鬱になった。
最初の練習以降、須佐は顔を出していない。確かに授業などは出席しているけど、朝は来ないし放課後になるとさっさと一人で帰っていく。その所為で、全員そろっての練習が一度も出来てない。こんなんじゃ、本番の時までに完成する訳が無い。彼奴がこのクラスにいるとわかった時から、いつか彼奴の勝手でこんな風になるのではないかと思っていたけど、何も今この時じゃなくてもいいじゃない。
指揮棒を振りながら、そんな事を考えていたらひどく音程を外した音が耳に障った。さっきからその声を出している奴に何度も注意している。だけど、それでも完全に音程を外している。何でこれだけ注意しているのに治らないのだろうか。確かに音程を取れないという人はいるらしい。脳が音程を理解できないそうだ。もしかしたら、そんな一種の障害を持っていたのかもしれない。それはわかっていた。強く言うだけでは意味が無いかもしれないと、うすうすわかり始めていた。だけど、私の心は理性と違い、納得してくれていなかった。
「幸! また音程が外れているわよ!」
「す、すまん」
口に出てしまってからしまったと思った。彼だって必死になって練習している。それは周りだって理解している。実際私は、教室の隅で何度も彼にカセットテープを聞かせて音程を取らせようとした。私の指示に幸は文句ひとつ言わずに、苦手だというのに一所懸命音を聞いて練習していたのは知っていた。
一度口にしてしまった事は戻せない。私自身がまとめ役なのに上手くまとめられないという焦り。たった一人の所為で大好きな音楽が滅茶苦茶になってしまった苛立ち。この二つを抑えきれず、関係ない幸にあたってしまった。
「あ」
自分のしたことがわかって、声を漏らしてしまった。まさか、私がこんなことをするなんて。
もう二度とあんな醜態は晒さないようにしないと。私のプライドが許さないし、何より相手を傷つけてしまう。そんなこと私は望まない。
私はバスに揺られ、そんな事を考え続けていた。
昨日上から新しい命令が下った。珍しい事に増援を送ってきたのだ。あれ程人材の少なさからか増援要請したところで通らない事が殆どなのに。それが要請すらしていないのに送ってくるとは。何かあるのだろうか。
明日にはこの艦に赴任してくるという相手の資料を読んで、昨夜は頭を抱えてしまった。応援に来たのは過激派としてかなり有名な人物だからだ。確かに有能である。魔導師ランクはAAA。解決した事件はクロノを越えている。私から見ても、かなりの実力を持っていることがわかる。
ただし、魔導師以外を見下す傾向が強く、何回も問題行動を起こしている。資料にはその旨がはっきりと書かれている。こんな人物を今送ってくるなんて、上は何を考えているのかしら。
今この艦には、人格を持ったロストロギアと所有者がいる。しかもロストロギアに至っては、闇の書と同クラスの力を持っていると考えられていて、それをたった一人が所持し続けているという危険な状態。
管理局に回収させてもらいたいというのに、所有者がロストロギアを手放したがらない最悪な状態。一応今は協力者として監視できているけど、いつかは私たちもミッドに帰らなければならなくなる。その時どうするべきかも考えなければならないのに。
「頭が痛くなるわ」
多めに砂糖をお茶に入れて、少しだけ休憩を挟もう。そうじゃないと、頭が使い過ぎで破裂しちゃうわ。
これを飲んで一度リフレッシュしよう。口に残る甘みを楽しみながら、私はそう思った。