宇宙空間に滞在しているアースラのブリッジで、クル-の人と一緒に整列した私は新しく本局から配属されるようになった一人の局員の挨拶を聞いている。どうやら話を聞く限り、新しく来た人はクロノ君より上の権限を本局から与えられているらしい。とはいえ、私はまだそこまで時空管理局について詳しいといえない。さすがに階位程度は覚えたけど。それでもいろいろややこしいものが多く、指示系統とかそういったものは覚え切れていないのには変わらない。
その配属された人の思いもしない立場に、近くにいたフェイトちゃんに念話で話しの最中だけどつい聞いちゃった。フェイトちゃんは試験でいっぱい勉強していたから、きっと私より詳しいはず。
『フェイトちゃん。あの人って、そんなに偉い人なの?』
『うん、なのは。資料を見る限り、かなりすごい人みたい。特に対テロ対策に優れた成績があってその功績を認められて、出世したんだって。只、結構有名な魔道主義らしいから、魔導師じゃない人を見下す傾向があるから気を付けたほうが良い。って母さんが言っていたからなのはも気を付けて』
『うん、ありがとう』
フェイトちゃんから聞いた話は、今私たちの前で穏やかな表情を浮かべて、聖書を読み上げるように話す男の人と印象が全く違った。
マルチタスクを使いながら、私は話を聞きながらその事を考えている。見下す傾向って、オブラートに包んでいるけど、ようは差別主義ということだよね。差別。今の日本では見かけない。ううん、多分少しはあるんだと思う。良い考え方とは到底言えない。今でもアメリカでは黒人差別などの問題があって、大変らしい。昔はもっと酷く、一緒のトイレすら使えないほどで、バスでは必ず席を譲らなければならないなどの差別が平然と行われていた。
この人は、そんな差別を平然とするような人なのだろうか?
「私がこのアースラに来たのは、皆様のサポートをするためです。最近この地球には管理局が把握しきれていない魔法の
愛想と耳触りのいい言葉で終わった話は、アースラクルーの人達には受け入れられたらしく、盛大な拍手が行われた。
これからしばらくとはいえ一緒に過ごす人を、今から悪く考えても仕方がないよね?
私は少しの戸惑いを胸に潜めたまま、周りと同じように拍手をした。
それを聞き届けたリンディさんは、手を一回叩いて拍手を終わらせてみんなの前に立つと、穏やかな声で解散を告げた。
「それじゃ皆、業務に戻って頂戴」
「「「「「ハイ!」」」」」
ミッドチルダにある時空管理局のとある暗い部屋の中に、三つのポッドがある。そこには人間の脳が薬品に浸されて存在している。
ホルマリン漬けの標本なのではないかと思う人もいるだろう。何せ、ここは時空管理局。管理世界の様々な物品が集まる場所であり、世界で最も多くの研究もしている。この脳みそは何らかの、人間工学などの資料で用意されたサンプルだと考えるのは特段可笑しくはない。
だが、この三つの脳は驚くことにまだ生きている。肉体を失っても、脳だけになってでも生き続けている。さまざまな薬品と機械により管理されながらも、未だたった一つの目的の為だけに。
「それで、一体どうなったのだ」
一つのポッドの中にある脳が、合成された音声で彼らにかしづいている管理局員に尋ねた。名刺も代名詞も言われていないが、局員はそれで何を指しているのか気が付いたらしく、手元の資料をめくりながらすらすらと回答していく。
「はい。Y-1943728に関する案件ですが、今のところ順調です。A-53429から発生した案件でしたが、今の所私たちの痕跡には気が付かれていないようです。彼らの周囲にはサーチャーを常時貼り付けておりますが、顕著な反応を示した事が有りません。ですが、かなり用心深いのかサーチャーが追尾できなくなる時があり、その場合かなり長時間追尾することが不可能になっています」
その答えに脳たちは暫く押し黙っていた。しかし、また同じ合成された音声が重々しく言葉を返した。
「分かった。下がっていい」
「はっ」
局員が去っていった後、静寂な部屋を乱すように彼らは密談を始めた。
「ふん。中々足を捕ません。だが、その身に隠したものは、我らが手に入れる」
一つの音声が告げた言葉に、他の音声で作られた二人分の声が賛同を挙げる。そして、異口同音に口を開いた。
『すべてはこの世界を守るため』
誰にも知られてはならない会話は、外に漏れることなくこの狭い世界で消えていった。