毎年キャンプをしに来ている高町家の人々曰く、このキャンプ場の裏手には、深々ととした木々が生い茂る山道があり、夜は常に暗くなり肝試しをするには最適だそうだ。さらにはこの山道は神社につながっているそうで、聞く限りには雰囲気も確かに丁度良いだろう。
実際スタート地点に皆で集まった時に少しだけ見たが、林の間を縫うように作られている山道は狭く、生い茂る樹木で影が出来て、薄暗くなっている。肝試しをするというのにはこれ以上はなかなか望めないだろう。
俺たちは早速組み分けをする事にした。皆の話し合いに積極的に俺は入っていく。上手く立ち回れれば、禍津日と一緒になれるかもしれないのだから。俺たちが話している間にも、大人たちは驚かすために山道へと進んでいった。
いろいろとあったが、最終的には、高町とテスタロッサ組。バニングスと月村組。俺と禍津日組。フランと八神組に分かれた。
しかしもう終わってしまったとはいえ、少し不安になる組み分けになってしまった。俺たちを含めた三つの組は大丈夫なのだろうが、最後の組についてはいささか不安が募る。だって、この二人だ。よく教室内で暴走気味になることの多い八神に、少ないとはいえ本当に暴走するフラン。安全弁のないボイラーを最大出力で稼働させ続ける様なものだ。
正直なところ、月村かテスタロッサに預かってもらいたかったのだが。つい八神に耳打ちして、フランについて聞いてしまった。
「なあ、八神。フランの事なんだが大丈夫か?」
「ああ、心配せんでもええよ。子供の扱いなら慣れてるから。怪我なんてさせへんよ。それにフランちゃん、良い子やで。さっきも料理の手伝いを一生懸命してくれたし」
「……そうか。じゃあ、フランの事を頼むな」
まだ不安はあるけど、あそこまで言うんだ。八神とフランを信頼して、任せるとしよう。あとはルールの確認か。
月の場所から考えるに、今は大体十二時少し前。正確な時間まではわからないけど、時計が無くとも、月さえあれば十分時間はわかる。
「テスタロッサ、前回はどういった道順で進んだんだ?」
「えっ? 去年? えっと、確かここから一度山腹にある神社に行くんだけど、そこには他の山道がつながっているから、来た道とは違う道で帰ったよ。今年も同じ道順だと思う。ほとんど一本道だから迷う事もないよ」
「そうか。ありがとう」
山道手前に建てられた経路を示した地図を見るに、大体ゴールまで一キロくらいの道か。そうすると、十分くらい時間を置いて出発すれば大丈夫かな?
俺の考えを皆に話したら、全員賛同してくれた。これで、ルールも決まった。あとは実行する時間を待つだけだ。高町の携帯に、大人たちの誰かが電話をするのが合図だ。それまで待つとしよう。
大分飽きたけど、そろそろ私とこのお姉ちゃんの番だ。幸と禍津日が山道に足を踏み入れたのが七分前。そろそろ準備をした方が良いかな。渡された懐中電灯の明かりをつけると、真っ白な光の筋が暗い夜の山道を照らしだす。なんていうか、あんまりにも明るすぎて、ちょっとこの光は嫌い。そんなこんなで足踏みしながら待っていると、ピピピっていう音がして、時間が来たのを教えてくれた。
「じゃあ、行こうか。フランちゃん」
「うん」
他の人と発音が少し違った変わったお姉ちゃん。そのお姉ちゃんに手を引かれて、私も暗い森の中に入った。さっきまでいた場所はまだ星明りや月の明かりで暗いとまでは言い切れなかったけど、今この場所は凄く暗い。懐中電灯の光が照らしだしているけど、それも足元から一メートル程度で、十分な明るさとは到底言えない。その所為か、私にはすごく良く世界が見える。夜行性の吸血鬼にとっては、光が多い場所よりも、こんな風に暗いところの方が過ごし易い。
でもせっかくの肝試しが少しつまらなくなっちゃう。けど、それでも楽しい事なのは変わらない。人間が脅かすなんて、昔は考えられなかった。いつも私たち
だからたとえ脅かそうとしている人間が丸見えで、バレバレのものであっても、とても楽しい。それに、意外とこのお姉ちゃんは怖がりで反応が面白い。
「ひゃあ!? な、なんや今の音!? ふ、フランちゃん、大丈夫やからね。お姉ちゃんがついてるから」
今にも走って逃げだしそうなほど、怖がっているのに私を守ろうとしている様は滑稽だ。でも、胸が少しポカポカする。何となくその温かさがお姉さまと似ている。だから、なんとなく、
「えい!」
「わっ! 脅かさんといて、フランちゃん」
「えへへへ」
抱き着いた。その後も、糸で下げられ、私たちの方に来たこんにゃくを避けたり(お姉ちゃんはその時ひぃやああ!! って悲鳴を上げていた)、突然上空から落ちてきた白い布を被った人から逃げて(お姉ちゃんは気絶しかけて、白い眼をしたままぶつぶつつぶやいていた)、ようやく中間地点の神社までついた。
二つの山道につながっている小さな広場に、その神社はあった。七つの鳥居の奥に、小さな祠が置かれている。広くもなく寂れている神社だけど、ちょっと困ったことになった。
「どうしたん、フランちゃん?」
「ん、ちょっとね。ねえ、お姉ちゃん。私の分まで参拝してきて」
肝試しのルールでは、この神社で参拝をして帰る。それがルール。だけど、少しそれはできそうにないや。
少しの間私の顔を見たお姉ちゃんは、すぐにその胸をたたいて、
「ほな、一寸待っとてな。フランちゃんの分もきちんとお参りするから」
お参りをしたお姉ちゃんと一緒に今度は下山だ。さっき来たのとは別の道から降りるんだけど、お姉ちゃん。大丈夫かな? ものすごく顔が青いし、冷や汗でダラダラなんだけど。
「ほ、ほな行こうか」
「うん」
これで最後の組のフランたちが帰ってきた。最初に高町の組、次にバニングスの組。そして俺たちにフランの組が順番に出発した。だというのに、帰ってきた組は高町、俺、フラン。バニングスと月村が帰ってきていない。
「フラン。バニングス達は途中で見なかったか?」
「え? 私たち以外にはあっていないよ」
嫌な予想ではあったが、当たってしまったようだ。道に迷っている訳はないだろう。ここまではほとんど一本道だったのだ。精々分かれ道は神社の分かれた山道だけ。迷うはずがない。でも実際にバニングスと月村たちはこの場にいない。
それぞれが慌てており、特に高町とテスタロッサを抑えるのに苦労した。今にも飛び出して探しに行きそうな二人を俺と禍津日で羽交い絞めにしていた。今は少し冷静になったのか、高町が自身の父親に携帯で連絡している。
「っち!」
舌打ちがつい漏れてしまった。落ち着け。今慌てても何かできるわけではない。ようやく高町の電話も終わったらしく、暗い顔をした高町が大人たちの伝言を伝えた。
「テントの中で休んでいなさいって。今お父さんたちが探しているからって」
「……そうやな。今私たちが何かしようにも、暗くて何もできへん。二次遭難してしまうんが、関の山や」
何だ今の感覚。八神の方から何か来た? それに、彼女たちの間で魔力が行き交った。ふつうそんな現象は起きるはずがない。そう考えていると、
「ねえ、幸」
袖をくいっと引っ張ったフランが、耳を寄せるように合図してきた。一体何を知らせたいのかは分からないけど、フランとて今の事態を理解しているはず。何か知らせたい事が有るのだろう。
「これって、
「そうだ。
「じゃあ、あのお姉ちゃんたちには解決できないよ。今も何かしているみたいだけど」
「何かしている? どういう意味だ? それに解決できないって言うのは?」
フランの発した言葉が俺には分からなかった。
「あれ、気が付いていないの幸? あのお姉ちゃんたち、魔法が使えるよ?」
「それは知っているが」
「そっか。幸は魔力を使わないからわからないのか。あのお姉ちゃんたちの魔力はね、私たちが使う魔法に使えないんだよ。かつての錬金術師たちがしたことと同じ。金属を作るって言って金をせびるわけではないけど、科学を魔法って偽っているの。だから、あのお姉ちゃんたちが何かしようとも、解決する事はないよ。いまも良く分からないけど、いろいろしているみたいだけど」