草木も眠る丑三つ頃、つまりは夜中合唱コンクールの練習のためにCDを聞いていて、気の緩みから机に突っ伏して眠ってしまっていたら、突如部屋中に鳴り響いた音にたたき起こされた。部屋の中にいた僕はもちろん驚いたし、お爺様とお婆様に至っては、「敵襲か!」と叫んで部屋に突っ込んでくるし。この平和な時代にそれはあり得ませんよ。お二人とも。一時は混乱のあまり、三人で何が起きているのか分からず部屋中を調べまわったけど、ようやく机の引き出しの奥底に入れておいた通信機が鳴っていることに僕が気が付いた。管理局から一応の協力者という事で渡された連絡用ツールらしいのだが、今まで鳴った事がなかったので無視していた。それなのにいきなり鳴ったので、さっきまで大わらわだったのだ。
机の奥から引っ張り出して、ブルブル震えている通信機のスイッチを見つけ押してみると、確かリンディさん? を映し出した空中投影型のディスプレイが出てきた。それに驚いているお爺様とお婆様は置いておき、話を聞くことにした。とはいえ、少しくらい恨み言を言っても問題はないと思う。こんな夜中にはた迷惑なことをしてきたのだから。
「なんですか、こんな夜遅くに。礼儀っていうものがあるでしょう。そちらは異世界の人だから分からないかもしれませんが」
「申し訳ありません。しかし、あなたの助けがどうしても必要な事がおきまして」
固い顔で言うその言葉に可笑しいという違和感が生まれる。こんなことを管理局が言うか? 学生の僕でも分かる。こういった組織は面子をとにかく大事にする。協力者という形でいる僕だけど、向こう側の正しい認識は、敵対者といったところだろう。それなのになぜ僕を呼ぶ? しかし良く分からない部分が多いが、困っているというのは嘘ではないようだ。
「地球の民間人がロストロギアと思われる事件に巻き込まれました。あなたの助けが必要なのです」
正直手伝いたくもないというのが一番の思いなんだけど、同郷の人間が巻き込まれたといわれたら、助けに行くしかなくなる。それが分かっていて、こういう風に言う大人はずるい。
「分かりましたよ。協力します」
あれからお爺様とお婆様の説得が大変だった。信用できないと初対面の二人に言われるとは。リンディさんどれだけ信頼ないんだよ。いや、まあ僕もそう思うけれど。どうやら二人はリンディさんの対応に不満があったらしい。何より、子供へ軍事行動の参加を要請するとは何事かと。まあ、救助活動みたいなものだと何とかお二人に納得してもらったけど、家へ帰ったらきちんと説明しないと。お爺様とお婆様にあんまり心配をさせたくない。
転移魔法で飛ばされたのはどこかの山奥だった。あんまりにも急な事に、何をすれば良いのか聞いていないのだが、大丈夫なのだろうか。僕に出来る事なんてほとんどないと思うが。
しかしその心配は杞憂だった。ついた先には高町さんと八神さん。二人に隠れるように身を縮ませているテスタロッサさんがいた。まあ、こうなってしまうのは仕方がないだろう。何せ、僕に意識が無かったとはいえ、一回彼女を殺しかけた者が近くにいるんだ。怖がって隠れようとするのは当然だ。
下手に声をかけるとパニックになりそうだと判断し、僕は残った二人に事情を聴くことにした。彼女たちは一度アースラで会っている。
「私たちの友達が行方不明になったんです。それで手がかりになりそうなものを見つけたんですが、その手がかりから得られた情報が、竹見さんの魔法反応とそっくりで。私達には観測する事が出来なくても、魔法体系が近い竹見さんならば、魔法を観測、あるいは解析ができるんじゃないかと思いまして」
困った。どうしよう。魔法反応といわれても僕は魔法なんて使わないし、使えない。建御雷之神に鍛えられ始めたといえ、別になにかすごい力を得られたわけでもない。はっきり言って何も分からない。思いっきり見当違い、畑が違う人間を彼女達は呼び出しただけだ。心苦しいけど、そこらへんは説明しないと。
「それh――『ほう。この山にも神はいるのか』」
「え?」
腰元から声が聞こえた。驚いてみると、古刀が腰に提げられている。僕は今回建御雷之神は置いてきたというのに。その声に飛び上がらんばかりにはねたテスタロッサさんは忘れてくとして、何故こんな所に? それにどうやってここに?
『簡単なことだ。お前の居場所に行くことくらい、造作も無い事。今回我が来たのは、懐かしい力を感知したからだ』
答えではあるのだろうけど、さっぱり分からない。だけど、重要なのは最初に語った言葉だ。
「神がいる?」
『しかり。この山には神がいる。それもかなり高位のな。今のお前では手も足も出まい』
雷を思わせる声で、建御雷之神は笑いながら言う。つまり、高町さんたちの友達は、また神様の力に巻き込まれたという事か。一体この日本に幾らの神がいるんだ。いや、八百万、たくさんいるって言うのは知っているけど。それでも思わず愚痴として出てしまいそうになった。
「どうしよう! どうしよう!」
「お、落ち着いて、なのはちゃん!」
暴走しかけている高町さんをよそに、僕は今から家に帰って合唱コンクールの練習をしようかなと現実逃避を始めた。