予想外の事件で予定より早くキャンプから俺たちは帰った。バニングスと月村は、特に珍しくバニングスは萎れていた。まあ、別に彼女が悪いわけではない。一応フォローしてみたが、余り上手くはいかなかった。まあ、おそらく高町たちが後できちんとなぐさめてくれることだろう。
それよりも俺としては、あの山にあった神域での戦いで魂の大部分が傷つき、意識が少し朦朧としていたからボロを出す前に帰れてよかった。あのままだったら何か失態を演じてしまった事だろう。それほどに余裕がなかった。まあ、その所為でバニングスを励ますのもうまくいかなかったが。
家に帰ったらそのままぶっ倒れて、魂の回復に丸一日費やした。完全にとは言えなくともある程度傷を癒したが、それでもまだ魂の喪失した影響で体中が痛い。全身が酷い筋肉痛になったようだ。まあ痛みはその比ではないのだが。
石を担いでいるかのように全身がだるい中、珍しくバスを利用した。さすがに帰りは歩きだが、今は歩くのもきつい。
教室にたどり着いてすぐに、何となくではあるが教室の空気が先日とは違った事に気がついた。何と言うか、形容しがたいがそれでも無理に例えるなら拒絶というべきか。そんな嫌な空気が辺りを漂っている。
原因は、あの三人か。教室の前の席に集まっている高町にテスタロッサに八神。彼女たちが教室に入ってきた俺と禍津日を見る目にはどこか薄いとはいえ濁りがある。他のクラスメイトには特にそういった点は見当たらない。
俺は長い間生きてきたからこそ、目というものがどれだけ重要かが良く分かる。目の光というものはその人間の考えていることをよく伝える。昔柔和な笑みで言葉巧みに俺たちを騙そうとした人間もいたが、そのときもやはり目の色がほかの人間と違った。彼女たちの目にはそこまでいかなくとも、俺たちに対する負の感情がある。それが一体何なのかは正直言って分からないが。
「禍津日、高町たちがああなった原因は分かるか」
「ああ? 一体何の話だ?」
そうだった。禍津日はいまでこそ人間のように振る舞っているがその実は日本神話における神。しかも天照大御神の父である伊弉諾様の子供。しかも説によっては天照大御神の
これは俺の失態だな。でも、禍津日に関して知らない事を知れた。それだけで心の中が熱くなる。そう思えてしまう。何と言うか、本当に骨抜きにされているなあ、俺。のろけて暑くなり始めた顔を一度振って頭の中をすっきりさせる。
「禍津日、これから少しだけ高町たちを気を付けてくれ。それと」
「分かっている。あいつのことだろう」
そういってちらりと禍津日は後ろをいやそうに見る。そこには須佐が軽薄な笑みを浮かべて偉そうに机に足をかけて座っていた。その目は今までの憎悪や好色といった色合いと違い、嘲りが含まれている。警戒するだけの価値はないかもしれないが、嫌な予感がする事には変わりない。それに悪意のような感情には俺よりも禍津日の方が敏感だ。その禍津日が警戒しているのなら、警戒しすぎるということはないはずだ。
それにしても前の席の子が迷惑そうにしているのに気がついていないのか? あ、禍津日が近くに有った広辞林を投げつけた。何と言うか、転校してきた初日でも同じような事をしていたな。本で攻撃することが禍津日のお気に入りの攻撃方法になっていないか?
前頭部に重い広辞林の角が激突して、須佐は偉ぶった態度のまま後ろに倒れ、後頭部を後ろの机の角にぶつけて気を失った。だけど、だれも須佐を保健室へ連れて行こうとはしない。これが人望のなさというものか。すこし恐ろしいものを見た気がする。
無人管理世界の一つに建てられた極秘の建造物のの中にある、時空管理局の局員のほとんどが存在自体知らない会議室で、私は大げさな手振りでモニターに移された映像を観察している人物たちに強調して伝える。
「見てください! 彼女、フェイト・ハラオウン・テスタロッサは優秀な魔導師です。またその母は、彼のプレシア・テスタロッサ。彼女フェイト・ハラオウン・テスタロッサは管理局所属の魔導師でも上から数えられるほどの魔導師です。それも雷の魔力変換資質を含めれば、おそらくはこれ以上はないといえる逸材でしょう。それだけの資質はあります。しかしその雷で彼女は圧倒された。リンカーコアを持たない現地の人間に!」
会議室に用意された幾つものモニターからは、それぞれ息を呑む音が聞こえる。モニターに映し出されている人物たちは皆、かなりの地位だ。そう簡単に集まれる存在ではないために、モニターからこうして会議に参加している。
彼らはその地位に至るまでの経験によって驚愕している。ざわめきが場を満たしていく。良いぞ、これでインパクトは強く植え付けられた。もはやこの件を忘れることなど出来ないだろう。
「そんなオカルトみたいな事を信じろと?」
そのうち一つのモニターから、確かあそこは海の高官だったか。くだらないことを聞くものだ。顔にその思いが出ないように気を付けながら私は心底馬鹿にする。
「オカルト? だとしたら貴方の目は節穴です。オカルトとは存在しないもの。現実に行われたのならばそれはただの現象です。ならばその現象を詳しく調べれば科学的な再現も可能になることでしょう」
これだけの力が管理局に加われば、より多くの犯罪者を捕まえられる。だがそれすらもこの男には分からないらしい。
「だとしても非殺傷ではないだろう!! この映像を見る限り、彼女はダメージを負っている」
「だから何だというのです?」
「なっ!?」
言ってやる。その男に。こいつはただ単に魔法という絶対的なアドバンテージを崩されるのが嫌なだけだ。今までの会議でも、魔法技術に関しては全て賛成をして、他の技術で魔法を凌駕しそうになると必ず反対する、魔法に寄生するクズだ。
「普通の管理局員は従来通り魔法を使えば良いでしょう。ただ管理局員だけでは対処できない犯罪者には、この技術を使えば良い」
場が静まり返る。彼らもようやく理解できたようだ。この技術はあくまでも一部の凶悪な犯罪者にしか使われないということを。死んでも別にかまわないような者に使うということに。
しばらく誰もが押し黙ったことにより静寂が訪れる。ああ、手に取るようにわかる。先ほどの海の高官は別として、ほとんどの陸の高官は人材不足に悩まされている。それこそ質量兵器導入を本気で考えるほどに。だからこそ、この技術は彼らに衝撃を与え心を放さない。
モニターの一つに映る体格の良い男が身を乗り出した。
「私から一つ質問だが、
私に質問をしたこの男はやはり只者ではない。レジアス・ゲイズ。ミッドチルダで長い間陸を守り続けた猛者。魔法だろうが何だろうが使えるものは使う。非人道的な手段を例え取ったとしても。そういった点で見ると、この男は柔軟性があり先見の明がある。凝り固まった理想主義ばかりで現実を見ない局員が多い中、こういった視点を持てる人物がいるのは有りがたい。
「ええ、もちろんですともレジアス・ゲイズ様。この映像のうち、現地の人間である竹見和地がいきなりこの力を行使できたのは彼が持つこの古めかしい剣の効果だそうです。つまりこの剣を手に入れて調査すれば威力は低くなろうとも量産できる可能性は高いでしょう。何せ、この剣は意志を持っています。何らかの形で取引をする事も期待できます。それが失敗しても交渉で解析する時間は稼げるでしょう。かの闇の書ですらある程度ならば解析が出来た管理局の技術をもってすれば、雷を生み出す能力限定でありますが、劣化コピーをするくらいはたやすいでしょう」
そう。あの力を何も完全に再現できるなどあり得ない。一からロストロギアを作る無謀と同じだ。しかしそれの劣化した能力ならばまだ見込みはある。そしてそれができるとしたら、時空管理局の治安維持能力はより強くなるだろう。
そして何よりも、
「そしてこの男と娘。いったい何者だ?」
「おそらくは、この世界の
本来ならば、もっと時間をかけて彼らを確保したかったのだが、あの八神という犯罪者が余計な報告をしたために、こうして今彼らに対する会議が行われている。本来ならば今回はまだ竹見和地のこととその剣についてだけだったというのに。彼らの力は竹見和地より高度なように見える。詳しいところは分からないが。その力はぜひとも欲しい。上手くいけば局員にもその技術が使えるかもしれない。そうなったら最高だ。
しかし問題はあのバカだ。個人で最高評議会に掛け合って何かしようとしている。わざわざ私があいつと時空管理局を結ぶ懸け橋になった理由を分かっていない。あのバカはただ力をふるえば良い。その力をふるう場所は私たちが決める。
まあ、その力もすぐにふるってもらうが。