またもやというべきか、俺たち、いや正直に言うと俺が周りをつまずかせてしまっている。連休前の練習では須佐の所為で、場の雰囲気が悪くなって上手くいかなかったが、今回は違った。合唱コンクールの練習が終わった放課後、俺はその事で落ち込んでいた。というのも、練習中一人いつものように音程を外し続けていたからだ。他の人たちは練習の甲斐があってかどんどんうまくなっているというのに、俺だけ皆から置いてきぼりにされている。二十年も生きてない子供に追い抜かされる老人て。実年齢を考えるとさらに凹んでくる。
音痴を治したいとは思うのだがなかなか治らず、周りに迷惑ばかりかけてしまっている。何とかしないとなぁ。一応インターネットや本でも調べてはいるし、バニングス達のように音楽を習っている子に話を聞いたり、練習を見てもらったりはしている。正直、ここが私立の中学校で、言い方は悪いかもしれないけど金持ちばかりが入る学校だというのも助かった。教養として様々な事をしている者たちが多く、そして金持ちケンカせずの言葉通りというか、俺の助けに快く協力してくれる。この学校に入って一番良い点かも知れない。
まあ、それだけ練習しても結局音痴は治らなかったが。それでも、それでも何とか少し歌を歌うのが下手レベルになったんだ。これは大きな進歩だった。禍津日なんて目を丸くして、「奇跡が起きるとは」なんて言っていたし。
そしてもうひとつは、あの三人だ。あの三人は俺たちを警戒している。朝から観察し続けたから分かるが、俺たちの一挙手一投足をなめるように見ている。年齢を考えれば隠すのは上手いのだろうが、俺からすればバレバレで、他のクラスメイトには何とかばれていない程度だ。違和感を持っていた奴もいた。それに警戒されているということは、どうしてもこちらも警戒してしまう。目に見えない、それでいて確かに存在している不信がバニングスがまとめようとしているのを傍から崩していく。
俺の所為だが、俺ではどうにもできないって言うのも面倒だ。
……うん、苦しいと思ったら負けなんだ八雲幸。こういったときこそ無理にでも明るくならないと。
「どうした、幸。空元気をしおって」
「禍津日。そう言うのは分かっていても口にしないでくれよ」
普段は特に言わないが、今日ばかりは言わせてくれ禍津日。
「ぬ、すまん。そういえば、フランが昨日買ってきてほしいものがあると言っておらんかったか?」
「ああ、そういえばそうだな。確か昨日のCMでやっていた菓子が欲しいとか。まあ、幻想郷の外の菓子何てそうそう食えるものじゃないからな。興味を持つのも当然か。禍津日、さきに帰っていてくれ。俺はスーパーで適当に菓子を買ってくる」
「分かった。それではな」
俺と禍津日は帰路の途中で別れ、スーパーへと向かった。
それにしても、驚いた。私はスーパーへ向かうために分かれた幸の背中を見ながら、内心の驚愕を噛み砕こうとしていた。あれほど歌うことが下手だった幸が、まさか多少とはいえ上手くなるとは。まあ、それでもいまだ下手なのだがな。まあ、私の使いだ。あれくらいできてもらわねばな。他の神々の使いよりも優秀なのだ。今度の神無月、他の神がどう反応するのか、楽しみだ。
夕焼けで背に影が出来ながら機嫌よく歩いていたというのに、私の目の前に暗い影を纏ったあ奴が現れおった。せっかくの気分が台無しだ。一旦は違う道から帰ろうかとも思ったが、わざわざこの程度の人間相手にそんな面倒なことをする必要もないかと思い直し、そのまま道を進んでいく。
「待てよ、禍津日」
「貴様なんぞに名前を呼ばれる筋合いなんぞない」
そのまま横を通り過ぎようとしたのだが、すれ違おうとしたとき私の腕をつかもうとしてきおったので、その腕を避けて蹴り飛ばしてやる。
「痛ッ!! テメエ、大人しくていたら図に乗りやがって!!」
「貴様にはそちらの粗野な態度の方がお似合いだ。馬鹿馬鹿しく気取ろうとするよりも、醜い本性を晒し続けているがまだマシというものだろうに」
吐き捨てた言葉に反応し、奴の顔が赤く染まる。
「良いぜ、おまえがそういう態度をとるならこちらにも考えがある」
「ふん。どうせ低俗な考えだろう」
私のせせら笑いに、歪んだ笑みを浮かべたこ奴は鼻で笑ってきた。
「ふん、低俗な考えじゃなく高尚な罠って言うのさ」
地面が色鮮やかに光る。私の知識にも無い何か。しかし恐れるものではない。私の身に何か干渉をするほど強力な力ではない。
「ふむ、どうしたものか」
「お前は俺のもんなんだ、あの男にはそれを分からせてやる」
やれやれ。この程度の奴が幸に敵う訳はないというのに。そろそろ分からせなければならんか。まあ、今回の事で幸も限界を迎えるだろう。我が使いの怒り、侮る出ないぞ人の子よ。
近所のスーパーの自動扉が開き、入ろうと足を上げた瞬間体が引きつったかのように違和感を覚えた。思わず足が止まり、地面に根付いた。耳鳴りとめまいが酷い。体の不調ではなく、心の変貌に体がついていけていない。心が熱くなり、怒りが心を染め上げる。カッと体中が熱くなり、歯が鳴る。
俺が感じ取ったのは禍津日からの命令だ。言ってしまえば、救難信号に近い。とはいえ、神である禍津日が本当に危険なことなどない。言ってしまえば、禍津日に対して悪意を向ける輩がいるという程度にしか使われていない。だとしても、許せる事ではない。敵意を、悪意を禍津日に向けた。それだけで、俺にとっては最大の侮辱と同義だ。
ポケットから携帯電話を取り出して、金月さんへ留守電を入れる。機械音が空しく返ってくる。用が済んだ携帯電話はそのまま粉々になった。掌から滴り落ちる血が、自動扉の溝にたまっていく。周りの人間も扉で止まっている俺が気になるのか見てくる。そして掌から零れ落ちる血に驚き、慌てている。
怒りのまま動き出したいが、そういう訳にもいかない。筋は通す。だけど、通したらあとは