何でこんな事になっているんだろう。
私だけじゃなく、フェイトちゃんもはやてちゃんもそうだし、ほとんどのアースラクルーは浮かない顔をしている。
今私たちは須佐君が転移魔法で
それでも事態は変わらない。担当局員を名乗る人はこの任務の撤回を許さないらしく、リンディ艦長がどれほど叫んでも、任務の中止を宣言することはない。それどころか、先ほど時空管理局の高官から、リンディさんを職務放棄などで、一時的にそのすべての権限をはく奪するという達しもきた。私たちが時空管理局で働いているのは、困っている人や助けを求める人を救うためなのに。何で
今もリンディさんは通信を開いて叫んでいる。
『やれやれ分からない人ですね。貴方は既にこの艦の艦長ではありません。先の時刻
「ですから!」
「――これ以上は黙って貰おうハラオウン氏。現在貴方はアースラクルーではない。すでに一般人として扱われる立場だ。本来は公務執行妨害や反逆罪で拘束されるに値するのを、今までの功績で拘束していないということを自覚してください」
以前アースラに来た、執務官が冷め切った視線でリンディさんを見ていた。慌てて私はその執務官の前に飛び出した。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「黙るように、高町二等空士。君に発言を求めていない」
「でも」
「もう一度言う。君に発言権はない。これは時空管理局が決めた事。拘束した彼女、八十禍津日は危険な魔法を使える可能性がある。そのままにしておいてはこの世界が危険になる可能性がある。それとも君は故郷が滅ぶ可能性があるというのに、管理局の決定を覆そうとしているのかね? もしそうだというのならば、君のインテリジェンスデバイスを没収し、君を二度と私たち管理世界との関係を断ち切らせてもらおう」
「なっ!!」
なんで、なんで
「当り前の話だが、管理局は治安維持組織だ。そこに所属するものが私心で暴走し、治安を壊そうとするのなら、私はそれを止める義務がある。さあ、高町二等空士。デバイスを渡すか、渡さないかさっさと決めろ」
悔しい。友達が大変だというのに、デバイスを渡す事が出来ない。私はもう魔法から離れることはできない。ごめん。ごめんね。
「ふん。分かったのなら管理局の局員として相応しい行動をするように。『アースラクルー全員に次ぐ。これよりこの艦は私の指示下に入る事が決定した。これは時空管理局の決定である。諸君は私が言うとおりに働いてもらう』」
私はその光景をただ眺めるしかできなかった。
誰かに促されて、私はフェイトちゃんにはやてちゃんと一室に集められた。そこはほとんど何もなく、あるものといえば椅子と机だけ。私たちはその椅子に座って待つしかできない。
スカートの布地を握りしめた。何でだろう。こんな任務したくはない。したくはないけれど、やらなければならない。
私たちはもし幸君が何かしようとしたのならば、それを止める役目を言い渡された。執務官が言うには、幸君たちは、私たちが理解していない魔法を使える可能性があるから、って。
「なのは……」
「なのはちゃん……」
今の所、ううん。当り前の話だけど、幸君が何かをしている様子はない。だって、幸君は魔力を持っていない。リンカーコアなんてない。だから私たちが何かをする必要はない。けれど放送された声に、私は耳をふさぎたくなった。
『高町二等空士に、テスタロッサ二等空士、八神三等空士。海鳴上空へ転移魔法で出動せよ。八雲幸が違法な魔法を行使しているのが確認された』
空を飛ぶ。空気の壁を突き抜ける勢いで、俺は魂の繋がりの先を目指して飛び続けている。確かにこの先、空を越えた果て、宇宙に禍津日はいる。
今の所危害は加えられていないようだ。当り前だ。もし危害を加えていたのならば、俺は彼らを絶対に許しはしない。三千世界の果てまで追いかけて、無間地獄に叩き落としてくれる。いまこうしているのはただ俺が怒っているだけにすぎない。俺の勝手な怒りだ。禍津日自体はそこまで怒っている訳ではない。こういった事態に慣れているから。それでも、いやだからこそ俺は許さない。禍津日を攫おうとした奴。攫った奴。そいつらは許さない。
「止まって、幸君」
そこに居たのは、キャンプで見たのと同じ格好の三人だった。残念だ。まさかこんな結果になるなんて。
「……予想外だったよ。まさか須佐の奴ではなく、お前たちだったとは」
「っつ、違う! 私たちは!」
「悪いが、聞く耳持たん」
天羽々斬を呼び出す。握りしめたその重さは普段と桁違いに重い。天羽々斬自体も、長い間を過ごし禍津日を気に入っていた。それゆえ、こらえきれぬ怒りをため込んでいる。
「今まで禍津日の友としていてくれていた功績を認めてやる。唯一の慈悲だ。鞘から刃は抜かないでおいてやる。それいがいは諦めろ」
「待って!」
「さっきも言ったが聞く耳待たん!!」
高町の懐に潜り込む。身体強化した今、俺の体の動きは武術の心得を持たない高町では見抜く事は出来ない。唯一俺の動きを見て取れたのは、眼球がわずかに俺の後を追ってきたテスタロッサだけだ。
「え?」
「潰れろ。『剣術 ――』」
刀を高町の脚目掛けて横薙ぎに振るう。体の中で荒れ狂う怒りは、たとえ鞘越しでも高町の両足を寸断するだろう。
「おっと、幸。ちょっとストップ」
それだけの威力で振るわれた天羽々斬を、見覚えのある捻じれた金属が防いだ。黒いその棒は、衝撃を吸収しきれず、曲がっている。その曲がり切った棒を空中に浮かぶ右手が掴んでいる。
「フランドール?」
「やっぱり頭に血上ってる。なんか莫迦みたいな力がいきなり放出されるから気になって来たけれど、正解だったみたい。いつもの幸らしくないよ」
先ほどまでいなかったはずのフランが現れる。
なにもいないはずの空に、幾つものコウモリが集まりフランの体を作り上げていく。俺の一撃を防いだ右腕からだんだんと。
「嘘やろ。なんでフランちゃんが。いや、それよりもなんや、それ」
震えたまま八神はフランの体を作り上げているコウモリを指さしている。
「ううん? ああ、
「……そうか。そうだな。少し頭に血が上っていた。ここは任せた」
フランの言う事ももっともだ。禍津日の事になるとどうにも頭に血が上ってしまう。今優先するべきは禍津日を助ける事。そしてその次に罰を与える事。神に、天に唾を吐く事をしたのだ。それなりの報いは与えてやらなければ。手元で震える天羽々斬を握りしめる。上へ飛ぶ。追いつくために。
後を追おうとした三人は、フランが止めた。背中越しではあるが気配で分かる。どうやら俺とあいつらの間にフランが割って入ったようだ。
「おっと。行かせないよ。これでも私も怒っているんだ。禍津日を攫った事を。じゃあ、やろうかお姉ちゃん達。ああ、日が沈む。今夜は良い月夜になりそうだ」
後ろで妖力と魔力が膨れ上がる。それに後押しされるように俺はその場を離れて行った。