綺麗。
そこにあるのはただそれだけやった。
満天の空を埋め尽くす光は、恐ろしくも美しい。苦悩と挫折。怨念と憎悪。それらをすべて抱えながらも前へ行こうとする躍動感。言葉にすればそういったものが込められておる。だけどそれが綺麗で仕方がない。醜さが美しさを引き立てておった。
そこには思いが込めれられておる。負だけではなく、正の思いが。すべてを乗り越えて、突き進もうとする感情だ。
ああ、そうか。私たちが負けるのは当然やったんや。上からの命令だからそこで諦め、ただ指示に従った。抵抗する事もせず、友達を売った。前に進むことを諦めてしゃがみ込んだ。そんな阿呆がこれだけの思いに勝てるわけないやん。
「ああ、あほくさ」
ほんと、阿呆臭い。大事なこと、見失って。それで管理局を変えるなんて、嘯いてすらできておらへんやないか。ただの嘘や。ああ、まったく。自分が嫌になった。力がぬけていく。
『はやてちゃん! 回避行動をとって!!』
通信越しに聞こえるエイミィさんの声にも、私は従う気力がない。だって、これは私にとっての天罰なんやもん。
煌びやかな光が私を囲んで……。
「はやて!!」
落ちていくはやて。最後に目を瞑っていたのは、諦めから? ううん。どんな理由でもいい。今問題なのは、彼女が攻撃をしてきてはやてが落ちたということ。彼女の言葉の方が正しいのは私だって分かる。だけど、それでもはやてを落としたことは許せない。
幸いにも、バリアジャケットとアースラからの迅速な転移魔法のお蔭ではやては大丈夫だったと通信が入った。でももしかしたら、なのはのようになったかもしれない。そう思うと血の気が引く。
今も震えているなのはに私は告げる。
「フェイトちゃん……?」
「なのは、戦えないなら戦わないでいい。私が戦う。迷っているなのはじゃ、落ちる」
間違っていても良い。私は戦う。なのはを戦わせないために。
「今度はあなた?」
「そうだよ」
「ふうん。まあ誰が来ても私は構わないわ。じゃ、やりましょう」
最高速度で私はあの子に切りかかった。真正面ではあの弾幕にやられる。だから横から切りかかる。
振り下ろしたバルディッシュの刃は、しかし振り向きすらしていないあの子が、曲がった金属の棒で防いだ。重い。片手なのに全力の切りかかりを防がれるなんて!
「軽いね」
「ッ!!?」
信じられない膂力で吹き飛ばされた! 数十メートルを後ろへ滑らされ、それを止めるために結構な量の魔力を使わされてしまった。パワーは明らかにあちらが上。下手をすれば闇の書よりも強いかもしれない。
『サンダーバレット』
溜めは必要ない。本来のサンダーバレット程の威力はないけど、連射で押しつぶす。雷を纏った弾丸は、あの子へ殺到していく。
「このていど?」
すべて避けられた。だけどそれでいい。目線を一瞬でも逸らしてくれれば十分だった。私の最大の武器はスピード。すでに後ろはとった。
『サイズスラッシュ』
バリア破壊の効果もあるこれならば、ある程度のダメージが伝わるはず。
「そこね!」
手ごたえが伝わる。ダメージはないみたいだけどさっきの二の舞にはならないために、すぐさま離れて反撃を避けた。近接戦闘のパワー型。遠距離もすごいけど、どちらかというと近距離の方が厄介だ。あれだけのパワー、一撃でも喰らえば落ちる。
「へえ、ふうん。やるじゃん。だったら、私ももう少し本気を出そうかしら。『禁忌 フォーオブカインド』」
背後に魔法陣が現れ四人に分身した!! 幻術!? 幻術魔法を使いこなせるなんて。四人が電撃を帯びた弾を始めとした色とりどりの弾幕を放つ。
「きゃ!!」
まき散らされる弾が掠め、バリアジャケットが削れた。かなりの威力。一発一発が恐ろしく重いくせに、数が多すぎる。
「ねえ、ひとつ聞かせて」
弾幕が止まる。その間に息を整えていく。
「……なに?」
「貴方にとって禍津日はどういう存在だったの?」
「私にとって? 友達だよ」
「そう。……どうしようもないね、貴方は。そこにいる子や、はやてよりも酷い」
提げずんだ目が私を見つめる。
「まあ、いいや。貴方は恐怖で潰れちゃえばいい」
「恐怖で?」
「そうだよ。だって、貴方は恐怖している。私に、そして雷に。さっき私が撃った弾幕、電気を帯びた魔法だけ必要以上に大きく避けていた。その所為で次の弾幕にあたっていたからね」
『マスター?』
怖い? 私は怖がっている?
「なんだ。それも理解していないんだ。簡単なことだよ。貴方は誰よりも私たちの恐怖を知っているから、理由を付けて排除しようとしているだけ。友達がどうとか関係ない。っていうか、友達の為ならそもそもこんな場所にいないだろうし。ああ、もういいよ。幸じゃないだけましだったと思ってね。『キュッとして、ドッカーン』」
あの子が掌を握りしめた瞬間、バルディッシュが爆破された。
「え?」
あ、飛行魔法が……。
だいぶ冷たくなってきた。風でかじかみ、肌が痛くなってきたが、この程度で止まる訳がない。速度はさらに上がる。薬によって封じていた霊力までもが内側から噴き出てきていた。少しずつ加速をし続ける。今でもかなり速いが、完全に封印がなくなれば動き続ける禍津日にも追いつけるだろう。こんな事だったら、解毒剤も用意しておくべきだった。その必要がないと思っていた俺のミスだ。
「止まれ」
目の前にいたのは西洋甲冑に似た、しかし甲冑というにはいささか以上に露出のある鎧を着こんだ女性だ。赤いポニーテールをしている。そして他にハンマーを持った幼女、何も持たない女性、犬の耳を付けた褐色の肌をしている男。
しかし俺にはそいつの言葉に従う通りはない。
「くっ! やむをえんか。恨むなよ 紫電一閃!!」
そいつが抜き放った剣が炎を纏い、斬撃が襲う。
「愚か者が!!」
だがそれは悪手だ。最悪の手と言っても良い。少なくとも俺たちには。鞘から剣を引き抜く。
「な……に?」
打ち合う前から炎は掻き飛んだ。それに気が付いても、そいつは勢いついて止まれないようだ。
「この剣は炎の神、火之迦具土を斬り殺した剣! この剣の前に火は存在する事すら許されない!!」
天羽々斬の能力は『神を斬り殺す程度の能力』『炎を殺す程度の能力』だ。どれだけ強大な力を誇っていても、火である限りけして天羽々斬に勝てない。敵の剣を拮抗すら許さず天羽々斬は斬り落とす。
そしてそいつも切ろうとしたが、残った柄で俺の腕を流して避けられてしまった。
交差し、そいつは自身の剣を見ている。
「レヴァンティンが斬られただと……?」
とどめを刺せなかったか。純粋な剣技ならば互角かも知れないが、体格差がここで出てしまい、止めを刺せなかった。いや、単純にこいつは強い。それでいい。強かろうが何だろうが報いは受けさせるだけ。
警戒している四人に煌めく天羽々斬を突きつける。
「邪魔をするならば斬る」