魔法少女と穢れを愛する者の学校生活   作:koth3

49 / 58
第49話

 目の間にいる女に、いやな予感がする。強いわけではないだろう。立ち方からして、それは分かる。だが、そうだとしたらおかしい。相対しているだけで冷や汗が流れるのはなぜだ?

 風で赤いドレスの裾が舞う、くるりと。

 

「っつ!」

 

 とっさに、前に出る。盾の守護獣であるこの身に、怖気が奔った。なにかされる。潰さなければならない。

 その判断は正しかった。くるりと、女は身をひるがえすと、ドレスの裾から黒い液体が辺り一帯にばらまかれる。

 

「盾の守護獣をなめるな!」

 

 とっさに張ったシールドは、強度は低いものの、シグナム達をも覆い守れるものだ。目の前の液体がなんであるかはわからないが、魔力をまとっていないことからこれで守れるだろう。

 

「あら、じゃあ、その盾の隙間から蜂のように突き刺しましょう」

「なに?」

 

 微笑む女に不信を抱くと同時に、ヴィータの叫び声が聞こえた。

 

「ザフィーラ、防ぎきれてねぇ!!」

「なっ!」

 

 ヴィータの方を見ると、シールドをすり抜けるように、液体が中に入ってきた。いや、まるで最初から防ぐ事が出来ていない。液体がシールドを最初から内容にすり抜けている。

 このままシールドを張り続けると、回避の邪魔になるだろう。魔法を解除して、回避行動のための空間を確保する。すぐさま、ヴィータは後ろへ避け、怪しい液体をかぶることなく避けきった。

 だが、これで一つはっきりしたことがある。眼前で笑みを浮かべている女は、訳が分からないが、管理局の把握していない、ここ最近確認された魔法の担い手である可能性が高い。となると、危険だ。

 テスタロッサが、感電死しかけるほどの電気使い。そして、あのシグナムの火を切り裂いた少年の技量。この女にもそれらに匹敵する力があるやもしれん。

 全力を出さねば、こちらがやられる。だが、戦えるか? 我らは皆、この任務に不信を抱いている。このしこりを抱いて、全力を出せるほど人でなしではない。

 

「くそ‼」

 

 ヴィータが凍りついたグラーフアイゼンを手に、憤りをあらわにしているが、その気持ちもわからないでない。やはり皆、動きに精悍さを欠いている。

 

「さあ、落ちなさい!」

 

 先ほどの液体が、球状に丸まり放射される。面積が小さくなったためか、先ほどと比べようがないほど速い。だが、ただ撃たれた弾丸を避けられないほど、我らは弱くない。各々攻撃を喰らわぬよう動き、反撃をしている。デバイスの使えないシグナムとヴィータをサポートしなければならないか。いや、シャマルがすでにサポートを行っている。ならば、すべきことはひとつ。私が前に出る。

 

「させるか‼」

 

 左腕を顔の横まで持ってきた彼女目掛けて、私は狼としての速度に、人を超えるパワーで殴り掛かった。これでも、拳を使う間合いの接近戦ならばわれらの中でも最も強い。そう簡単によけられる一撃ではない。

 

「キャ!」

 

 その証拠に、女は私の拳をまともに受けて吹き飛んだ。

 しかしその割には、手ごたえが鈍すぎる。いや、確かに鳩尾を打ったはず。しかし、途中から衝撃そのものがなくなったような。

 っつ!!?

 腕のガントレットが‼

 感触が気になり、腕を見るとガントレットが黒く染め上げられていた。構成魔力の一つ一つがあの液体と同じ色合いに黒ずみ、それが広がっている。

 すぐさま、ガントレットを構成する魔力を破棄する。虚空へとそれは掻き消えた。

 もしあのままならば、私自身にもなんらかの影響を受けていたことだろう。

 

「あら、気が付かれちゃった」

「姑息な真似を」

 

 恐らくであるが自動防御の類か、あるいはカウンターとしての機能をあの黒い水は持つようだ。だとすると、接近戦は少々手厳しい。だが、遠距離での攻撃は今、ほとんど使えない。デバイスを失ったシグナムでは、剣の間合いならばまだしも、遠距離戦はできん。ヴィータの凍りついたデバイスでは、魔法の発動させることすらできんだろう。あの二人はデバイスを使う。逆を言えば、デバイスを失うと、力が弱まる。

 残るは私とシャマルだが、シャマルでは威力が低すぎる。補助を専門とするあいつでは、私の一撃をも弱めた女の守りを貫くことはできん。

 不利だとしても、このまま私が接近戦を仕掛け続けるか、それとも苦手であるが遠距離魔法を使って距離を取るか。

 ……距離を取るか。相手の力が不明なのだ。不用意に近づいてこれ以上、あの液体に触れるのはまずい。

 魔力弾を放ち、牽制しながら皆のところまで下がる。

 

「逃がさないわ」

 

 再び放たれる黒い弾丸。しかしこれだけ動きを見れば、避けるには十分だ。

 おそらく、敵はそう戦いの経験があるわけではない。むしろ、経験事態そうないだろう。ひとつひとつの動作が遅く、大ざっぱだ。おそらくあれだけの力、それ単体で十分だったのだろう。その力をもってすれば、敵対した存在など簡単に倒せたはず。

 だが、それは相手が雑魚にしか通用しない力だ。いくら強くとも、経験がないのならばなんとでもできる。握りしめた拳に力がこもる。

 

「鋼の軛!!」

 

 魔法陣から出現させたそれを持って、まずは相手の機動力をそぐ。

 唐突なそれに、相手は逃げることもできず確かに縛られる。しかしそう長くは続かないようだ。鋼の軛が段々黒く染まっていく。早めに決着を付けねば。

 

「テオラーッ!!」

 

 魔力を右腕に集約する。高町のようにこれを放出することはできないが、相手へ直接ぶつけることはできる。同時に、鋼の軛を開放させた。剣となって貫いていた魔力は、ひとつひとつの魔力弾へ変わり、一定範囲を旋回し蹂躙する。

 鋼の軛が消え去ると同時に、私の拳が襲いかかる。彼女では防ぎようがない。

 

「行け、ザフィーラ!」

「オオオッ!」

 

 白い魔力光が消え去り、女の姿が見えた。その顔は笑っている。

 

「あなた、運がなかったわね」

 

 黒い魔力弾が私を襲った。

 

「カハッ!!」

 

 バカ、な。返し、技……だと?

 

 

 

 意識を失った人狼が、堕ちそうになり、どこかへ消えていったわね。淡い光の魔方陣で。まるであの妖怪の賢者がする移動みたいに。まあ、あれよりかは見た目が優しかったけれど。

 それにしても、危なかったわ。鋼の軛だったかしら? 運悪く(・・・)私の体には突き刺さらず、魔力弾になった後も、全部外れたおかげで助かったわ。

 まあ、私に一度近づいた時点で、不運になるのだから仕方がないわね。例え厄に触れずとも。

 

「もう、大丈夫かしら」

 

 戦闘能力のある最後の相手も落としたし、後は膠着状態にすればいいわね。正直慣れないことをして疲れ切ったわ。あとは、彼女に任せましょう。禍津日様の救出は。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。