作中に出てきている天羽々斬についてです。感想コーナーで、天之尾羽張の間違いではないかという声が多数上がり、私自身調べて一度決着ついたことなのですが、ちょっと納得がいかなくて調べなおしたところ、天羽々斬と天之尾羽張を同一視する説もありました。ですので、作者としましては、ここまで話数があると治すのも一苦労でありますし、絶対の間違いという訳でもなさそうなので、天羽々斬=天之尾羽張とさせていただきます。たびたび設定の変更をしてしまい、読者の方々を混乱させてしまい申し訳ありません。
力が足りない。子供程度の体格しかないこの体では、本来の力を十分発揮できない。とはいえ、それでもかなりの力はあるはずだというのに。山の神との交戦に、ここまで行った連戦の影響か、霊力が底に穴が抜けた器の水みたく抜けていってしまう。空を飛ぶ速度もだんだんと遅くなっていく。
だが、弱音を吐いている場合ではない。もともとこの体は俺が望んだもの。禍津日に日常生活を知ってほしくしたことだ。それに文句を言うわけにいかない。態々俺の我が儘をかなえようとしてくれた友人を裏切ることに他ならない。
胸中に沸いてきた弱音をつぶす。今考えなければならないのは、禍津日を救い出すこと。そしてその後のことだ。
だが、それも後回しにしなければならないようだ。月光を逆光に、二人の影が見える。一回の瞬きで、無理やりその光に慣れさせる。
影の片方が、横に手を伸ばして通せんぼをしている。
「止まれ!」
そういったのは通せんぼをしている、肩に装飾が施された黒い服を着た少年だった。見覚えがない少年だ。高町達のように見知った相手でないというのが、僅かな救いか。だが敵意を向けてきているのは同じだが、わずかにといえその眼から憎悪が読み取れる。なぜだろうか。一切俺はこの少年と関係がないが。
そして、なによりも。
「まさか、貴方までもいるとは」
「…………」
竹見和地先輩が、雷を纏う古刀を手に、行く道を遮っている。一目見て気が付いた。あれは、俺の持つ天之尾羽張と同じ神を宿した剣、いやそれ以上の関係性を持つ剣だと。そして神話の記述から考えるに、あれは
「建御雷之命か。軍神であり、雷神である刀の神。恐ろしいものを持ち出したものだ」
人には本来過ぎたもの。どうやって力を認めさせたのか。敵とはいえあっぱれというべきか。
だがいまするべきことは違う。のど元まで出かかった称賛の声を飲み込み、刃を抜く。
今までの敵と違う。いくら伊弉諾物質で出来ている鞘といえども、二柱の神々の衝突に耐えきれるはずがない。
『ほう! 我が父を扱うとは。ふん。今の世もそう捨てたものではないということか。あれほどの人嫌いの偏屈屋の父がな』
古刀から聞こえた声で、はっきりとわかった。やはり相手の持つ古刀は建御雷のようだ。空間を稲妻のごとく轟音で震わせたが、快活に語る。天羽々斬よりも饒舌なのか。天羽々斬はあまり話すことがないからな。
「さて、こんな事態になるとは思わなかった。だが、それでも邪魔をするというのなら相手になろう。竹見和地」
「いや、そうはならないよ」
疑問を口にする暇もなく、建御雷が振るわれた。そしてその切っ先が向けられたのは、
「どういうつもりだ」
黒い少年だ。
「どういうつもり? それこそこちらが聞きたいね。君たちが次元世界とやらの警察組織だっていうのは、聞いたけどもうそんなこと信じられないだけだよ。少なくとも、自分の後輩を連れ去ろうとしている組織に協力しようと思えるほど、僕は人を捨ててない」
『それでいい。お前はっ我を振るう際、誇りを持たねばならぬ。人さらいなどはすべきものに力を貸すなど言語道断! 良い修行場所になるとは思っていが、貴様たちは予想以上に腐っておった。雷とは、稲妻。稲妻とは、新たな命を宿す力。腐りきったそれらを焼き払い、新たな理を作ろうぞ!』
天羽々斬を納刀する。もう、ここにいる必要はないだろう。
『…………お前が望む道を行け』
『それくらい百も承知だ。父上』
背後の気配が動いていく。どうやら行ったみたいだね。それにしても、僕以外にもこんな摩訶不思議な力を扱える人がいるなんて。想像もできなかったよ。
そうしている間に、敵意を向けてくる黒髪が忌々しそうに語りかけてきた。
「なにを考えている?」
「それはこちらのせりふだよ。さっきも言ったけどさ、僕の後輩になにしてくれてんの? これでも学校一温厚だと言われているけど、我慢の限界っていうのはあるんだよ」
僕の怒りに呼応して、建御雷の神が雷を生み出す。ああ、なるほど。昔の人が、神鳴りと呼んだことがよく分かる。雷はまさしく、神の怒りそのものだ。僕は神ではない。それでも、その怒りを汲んで建御雷の神が力を貸してくださる。
「覚悟しろよ。今のお前たちは正義の味方でもない。ただ、排除される、排斥されなければならない悪そのものだ。全力で、僕たちはお前らを拒絶する。どうせ、お前たちも僕たちをそんな目で見ていたんだ。お相子だろう」
ずっと、ずっとそうだった。こいつは、僕を睨みつけていた。誤魔化そうとすらせずに。
「そうか、邪魔をするのか。だったら、君も倒す! フェイトを傷つけたんだ。初めからそうするべきだったよ!」
打ち出された氷を切り裂き、雷を投擲する。威力はそれほどないが、速さはあいつの攻撃と比べ物にならないほどだ。あいつら特有のへんな障壁を張る余地はない。
「くそ! 相変わらず非常識な存在だ!」
そう思っていたのはどうやら間違いだったようだ。僕対策は練りに練られているらしい。建御雷というよりも僕の心が生み出した雷では、あいつの張ったバリアを破るのに威力が足りなかったようだ。
いつの間に張ったのか分からないが、障壁が雷を防いでしまった。
ならば、取るのはひとつだ。
青眼に構え、切っ先を突きつける。
「切り捨てる!」
「やってみろ!」
相手の光弾を切り払いながら僕は突き進む。