建御雷之神を御霊として納める古刀を青眼で構えたまま、僕は再び雷を生み出す。空間に耳を抑えたくなるほど大きな放電音が迸る。ただし生み出した雷は、射出するのではなく、球体状に丸めていく。感覚で分かる。少しいびつなところはあるが、どうやらうまくいったらしい。
あいつらの良く使う、球体状の弾丸の方が、雷を生み出して相手にぶつけるよりも速度はともかくとして、使い勝手がよさそうだった。だから真似をしたが、思った通り速すぎてコントロールできなかった今までと違い、弾丸は僕の周りをイメージ通り円周状に回っている。
これで攻撃するのも防御をするのも楽になった。攻撃はそのまま雷を放てばいい。接近戦ならば、周回している雷で相手に近寄るだけでダメージを与えられ、体勢を崩せる。遠距離からの攻撃ならば、すでに出ている雷を射出して相殺することで、簡単に迎撃できる。
だが、その僕の考えはどうやら気に入らなかったようだ。あいつは、歯ぎしりが聞こえそうなほどに、歯を食いしばり叫んだ。
「そんな浅知恵と猿真似で、僕をどうにかできると思うな!」
その言葉とともに放たれる氷。それは今までの数と桁違いの量であり、質だった。
「スティンガーブレイドエクスキューションシフト!」
それは氷の剣だ。視界いっぱいにある氷の数は、呼び出しておいた雷の数を優に超えている。威力はこちらが上だが、量は負けている。競えばこちらが圧倒的に不利だ。数の暴力でやられてしまう。
だからとっさに僕は選んだ。
「ぐゎ!!」
建御雷之神を天空に向け、その切っ先に雷を降らせる。雷が刀身を伝い、僕の体をも焼く。激しく視界が明滅し、意識が持って行かれそうになる。体が痙攣を繰り返す。
激痛に耐えきり、鼻を焦げ臭い臭いが漂う。だが、成功だ。僕を中心に、雷は四方八方へ放電されていった。迫ってきていた氷の剣はその雷が呑み込み、破壊し尽くしている。ダメージこそ負ったけど、それでもあのまま氷の剣が刺さるよりかはましだろう。
だから、
「しっ!」
「くそ‼」
その氷にまぎれて接近していたあいつに、痺れて震えながらも建御雷之神を振り下ろす。水蒸気のせいで視界が悪いが、気配はよく分かる。建御雷之神が持つお力なのか、この古刀を鞘から抜くと感覚が異常に強化される。だから、水蒸気で視界が遮られても、僕には視界に制限がかかるというはない。
だがそれは向こうも同じようだ。僕と違い、おそらくはあの魔法とやらでなんとかしているのだろうけど、条件は五分だ。
「そこだ!」
刀身に雷を込めて薙ぎ払う。一点に集約するのではなく、一線にすることで攻撃範囲を拡大する。だけど、それはまたもや空間の途中で防がれてしまう。
「無駄だ! それの対策は十分とった!」
対策を取ったという言葉は本当らしい。
僕の雷が通用しないのは変わらないようだ。建御雷之神が生み出した雷ならば話は別なのだろう。しかし僕の力では不足しているらしい。だけれども、そこに勝機があるはず。あいつは僕をどこかで見下している。ならばそのおごりを貫くだけ。
空中を蹴り、僕はあいつめがけて飛ぶ。いくつもの弾が襲いかかってくるが、それらすべてを回避するか切り捨てていく。どうしても無理な場合だけ、最初に用意しておいた雷を撃つ。それ以外は、雷をため込む。それだけに集中する。一撃で駄目ならば、数回分の雷を一回で放つ。一発の威力を上げれば、あいつが作り出すバリアを抜けるだろう。たとえ抜けられなくても、足を止めさせることはできるはずだ。その間に、他の手段を探す。
ただし、ここまで雷が大きくなると制御なんてまともにできない。ただまっすぐにしか飛ばないはずだ。そして外したら、多分二度と成功しない。真正面から突っ込んでいると言え、相手の虚を突いたこの作戦。一発勝負だ。
「射よ! 雷上動!」
突く。空間を一直線に、溜まり切った雷が放たれる。雷光。それは最も速い攻撃。人のみである限り避けられるはずがない。
直撃した。煙が広がり、良く見えないが、あいつは後ろに吹き飛んでいる。速度を上げる。ここで追撃が出来なければ、こちらが一気に不利となる。
「甘い!」
「なっ!?」
避けられた!!? いや、違う!
腹部にめり込んだ青い光に、痛みを覚えつつ、僕は体をひねって光球を後ろへ流す。口の中で鉄の味がする。
「なぜ反撃が?」
「簡単なことさ。あれだけのエネルギーが込められたもの、たしかに僕には受け止めきれない。なのはならできただろうけど。だけど、受け止められないならば、その力を受け流せばいい。僕のシールドを打ち破るのに、あの雷はわずかな時間がかかった。その間に、バリアジャケットの絶縁性を極限まで上げて、自分から後ろに跳んで威力を流したんだ」
糞! 僕の策を利用して距離を取られたのか。
口の血が苦く感じられる。建御雷之神を強く握りしめる。
だけど引くわけにはいかない。小手先の技がだめなら、後はひとつだけだ。
「ぉおおお!!」
痛む腹を無視して、加速する。もうこれしかない。純粋な戦闘は向こうの方が上。だったら、玉砕覚悟で道連れにするしかない。
「それくらい読めている!」
だろうな。あの時と同じ、初めて魔法を使う相手と戦った時と同じように、魔力の帯が体を包み込んでいく。あの犯罪者が使ったバインドが。だから、僕は。
体にまとわりつく帯を、なにもしないで切断していく。
「馬鹿な!! なんだ、その体は!?」
その問いに答えず、僕は突進を続ける。
『剣域 剣樹刀山!!』
相手の守りごと、鋭い切っ先は貫いた。滴り落ちる血に、確かな手ごたえを感じる。もう、戦うだけの力は相手にないはずだ。急所こそ刺していないが、アイアンメイデンにタックルされたようなものだ。ダメージは大きすぎる。それこそ動けないくらいには。
そう思っていたら、ささやき声であるが、訴える声が聞こえた。
「なぜ、あの子は守るのに、フェイトは守らなかったんだ」
ああ、そうか。こいつが僕を敵視していたのはそこか。
「ただ、巡り合わせが悪かっただけだよ。もし、テスタロッサさんが、助けを求めてきたら助けたさ。だって、それが人を守るということじゃないのかい? 困っていたり助けてほしい人の手助けをする。それが人を守ることだと僕は思うよ」
「…………そうだな。そうだったな。人を守るというのはそういうことだったな。忘れていたよ」
雲の上。星々の輝きと月に照らされた、この誰にも邪魔をされない場所。ここがこの長い一夜の終点らしい。
いままでいた様々な敵。それらを相手にしてくれた、部長、雛、フラン。そしてこの先にいる、禍津日。俺が負けるわけにはいかない。
天羽々斬の刀身を眼前に掲げる。刀身に、銀色のマントと黒い西洋鎧を付け兜のない敵が映し出される。こいつのことだ。どうせ自分をボスとでも思っているはずだ。強いものは最後に出てくるとでも。だからこいつ以外のやつが最後の敵となるはずがない。
「終わらせよう、須佐。俺は、お前を許さない」
「はっ! ほざけ! 勝つのは俺だ」
愉快そうに笑う須佐に、俺は殺意を込めた刀身を突きつける。