魔法少女と穢れを愛する者の学校生活   作:koth3

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第53話

 めちゃくちゃに振るわれた一撃を天羽々斬で受け流す。鉄がかみ合う音と火花が幾度も散って、夜空に消える。須佐が持つ赤い剣は、風を切って唸りを上げていた。

 

「おらおら! どうした! さっきから防戦一方じゃねぇか!」

 

 耳元を大振りで振るわれた剣が通り過ぎる。風圧で髪が暴れ回るが、被害は逆にそれだけだ。肌が剣圧で切れることもない。確かに単純なパワーはかなりのものだろう。それこそこの成長しきっていない幼い体で喰らうのが危険なほど。ただ、付随している技量はそれほどではない。

 しかしその技量のなさが余計で、厄介になっている。

 

「そうら! 次は首だ!」

 

 達人になればなるほど、初心者という存在が厄介に見えてくる。その言葉の意味を今本格的に理解できた。少しでも道理を知っていれば、決してしない手段も初心者は平気で取ってくる。空中で一回転しながら切りかかってきたり、蹴りながら剣を振り下ろしたり。そんなこと普通はしない。

 無駄な動作や自分の体を傷つけるという意識が全くない須佐の動きは、トリッキーという言葉と全く違い、無秩序すぎる。我流の動きでもないこの動きに適応するのは骨が折れる。

 

「ちっ! うざってぇな。おら、アックスモードだ!」

 

 俺が受け流していることにしびれをきたしたらしく、そう叫ぶ。すると剣が斧に変形した。どうやら、こいつの持っている獲物は、機械で制御されているらしい。ある種の懐かしさを思い出す。とはいえ、神機とは比べ物にならない鈍さと実力だが。

 蒸気を上げて変形した獲物の姿が見えてきた。所謂、バトルアックスといわれる形状をしている。鈍く重さで叩っ切る大剣から、さらに鈍く重い斧に変えたらしい。どうやらさらにパワーで押してくるようだ。片手で振り回される大重量の斧を、切っ先を滑らすようにして、天羽々斬で流すことによって腕にかかる負荷をまったく別の方向へ流す。

 本来の体なら受け止めて、そのうえで獲物を切るということもできるが、この体ではそれが出来ない。ある程度の霊力で強化しているといえ、薬の副作用で本来と比べ、ほとんど霊力はない。受け止めきるだけの力を生み出す余地はない。もしつばぜり合いになったら負けるだろう。

 

「しっ!」

 

 だが、技量まで完全に衰えたわけではない。確かに間合いが変わり、筋量が少なくなってしまったせいで多少は衰えたが、それでも鍛えた技はきちんと使える。ある世界でドラゴンを狩り続けて鍛えた技を。すべてを喰らう神を喰らうための技を。あいつらと比べれば、須佐など強くはない。ただすばしっこくやりづらい相手なだけだ。

 受け流した天羽々斬を、そのまま突きへ持っていく。音を立てて、天羽々斬は世界を貫いていく。

 

「てめぇ! よくも俺の髪を!」

 

 速度が足りなかったか。本来ならば、顔面を貫いていたはずの剣は、須佐によけられ邪魔くさい髪を切っただけで終わってしまった。だが、もう様子見は終わりでいいだろう。

 めちゃくちゃだろうが、理論整然としていようが、どんな人間にもくせというものはある。間合いの取り方、呼吸の仕方。さらには攻撃のタイミング。何度も繰り返されれば、十分把握し切れる。そしてそれらが分かれば、もう負けることはない。よっぽどのことがない限り。

 ここからは俺の番だ。

 先ほどまで俺の眼前で火花が散っていたというのに、こちらが一度攻勢に出ると一転、火花が散ることはなくなった。こちらが繰り出す剣を、須佐がただその身体能力でなんとか躱しているに過ぎない。

 それも、完全には避けきれておらず、肌に幾筋も赤い線が付いている。俺の技量ならば、ただ避けた程度ならば、剣圧で追い打ちをして、ダメージを与えられる。このまま攻撃するだけで圧倒することは可能だろう。

 だがその気はない。さっさととどめを刺す。俺にとってこいつはただ邪魔な障害なだけだ。憎しみなどはあるが、目標でもなんでもない。

 

「っ! うっざてんだよっ!!」

「ぐぅっ!?」

 

 これで仕舞いと懐に潜り込み、一閃しようとした瞬間、勢いよく吹き飛ばされた。なにか堅い壁が須佐を中心として広がったような感じだったが。その壁に押し飛ばされたらしい。

 

「くそ! まさかこの技を使うはめになるなんてよ!」

 

 技、か。なにやらしたようだが、あの衝撃のことか? だとしたら、なんの問題、も。

 

「あ?」

 

 生暖かい感覚が腹からする。この感覚は。腹を見ると、赤い血が噴き出している。背後を覗き見ると、あいつの手だけが背後にあり、そこに血がこびりついていた小刀を握っていた。

 

「してやられた、な」

 

 のど元から血の塊が込み上げた。

 

「は! てめぇがさっさと落ちねえからだ!」

「ペッ! ああ、そうか」

 

 喚くその声を無視して、俺は天羽々斬を構える。別に恨みなどない。不意打ちなど当然考えてしかるべきものだ。さすがに腕だけを転移させて攻撃してくると思わなかったために攻撃を喰らったが、それだけだ。

 

「っ! ふざけんな、なんで、なんでその澄ました顔でいられるんだよ!」

 

 激昂して再び斧で切りかかってくる須佐。今度は受け流すこともなく、後ろ脚を反対側へ持っていき、体制を横にずらす。そして眼前を振り下ろされた斧を、天羽々斬で抑え込む。

 

「なっ!」

「歯食いしばれ、餓鬼」

 

 そして、斧を抑え込まれてバランスを崩し、たたらを踏んでいる須佐の頭を、拳で思いっきり殴りつける。

 素肌を見せているが、兜でもかぶっているかのように感じたが、それでもそれを砕いたので、十分だ。

 そう思った瞬間、膝が崩れた。

 

「っち!」

 

 とっさに抑え込むと、須佐は後ろに跳んで逃げていた。

 

「殴りやがったな。この俺を。ふざけんじゃねぇ。ふざけんな!」

 

 腹の傷から血を流し過ぎたか。いや、ダメージの限界が来ただけだな。ただでさえ弱っていた体だ。簡単に限界を迎えたのか。気付いていなかったが、手足が震え、脂汗がしたたり落ちている。だというのに、痛みはない。

 ああ、そうか。この感覚は。

 

「死ぬ一歩手前ということか」

「死ね、死ね死ね死ね!」

 

 思わず笑い、そして天羽々斬を握り込む。最後の一撃だ。それまでは持ってくれよ、俺の体。

 

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