魔法少女と穢れを愛する者の学校生活   作:koth3

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第55話

 傾いた俺の体を抱えた、子供の姿ではなく正しく厄を司る神としての体でそこにいる禍津日。

 その神々しさに、俺は喜びとともに残念に思った。彼女に幸せな思い出をあげたかったが、もうそれは願わないようだ。一度神の姿を取り戻したら、もう子供の姿にはなれない。永琳の薬があれば別だが、彼女は一度だけしか作らないと明言している。

 ああ、もっと彼女に普通の、(こう)(ふく)を知ってもらいたかったというのに。

 こうして考えている僅かな時間でも、まるで世界そのものが彼女に屈服するように、跪坐するように、力が彼女へ集まっていく。黒く淀み、濁り、腐り果てた世界の穢れが。

 厄神。古事記において、黄泉の国の穢れを伊弉諾が清めた際に生まれた二柱の神、大禍津日と八十禍津日。その二柱の神の正体こそが、禍津日だ。どんな不幸をも生み出し、すべての生命を奪い去りつつも、人の願いを聞き入れ、厄を払う神。悪神と言われながらも、明確な悪を象徴することで、善性を生み出す善の神でもあるその御霊。

 そして今もなお、彼女は傷つけられている。その力を狙う愚かな愚者達によって。

 そんな苦しい思いをしているはずの彼女が、元々が人間の俺を支えてくれている。それだけで心がいっぱいになる。救われた気持ちがあふれかえり、涙として出ていく。本当は、彼女にそれを与えなければならないのは俺だというのに。

 

「禍津日」

「ただいま、我が使い、幸」

 

 だが、それでもいい。そう思えてしまう。

 これで終わりだ。禍津日がここにいる。ならばこれ以上戦う必要はないだろう。天羽々斬が、ひとりでに納刀される。

 

「まったくここまで無茶をして。本来の体ではないのだぞ。無理をし過ぎだ」

 

 傷口を見つめ悲しそうに顔を歪めてそう言いながら、禍津日はその手を俺の額へかざす。空を埋め尽くさんとしていた穢れが、その手を通じて俺の体の中に入っていく。生命を吸い、力を奪いつくす穢れといえ、俺にとって問題ない。なにせ俺は、穢れで作った器に入れられている魂なのだから。この身は、禍津日の手で生み出された。ゆえに、製作者たる禍津日ならば、完全に外の器を直すことができる。

 修復されていく視界、埋められる腹の傷。なくした血は、穢れが代わりに流れていく。

 

「すまなかった」

 

 自分の口から飛び出るここ最近聞きなれていた声よりはるかに低い声。視界が変わったことから背もだいぶ変わったのだろう。それに伴い体つきも筋肉質にすべてが変わる。本来の、そう神使としての体に。

 人間でいえば、二十歳ほどの外見まで成長した俺の体は、傷がなくなっただけではない。禍津日の力をたっぷり注ぎ込まれた影響で、むしろ常よりも調子が良くなっている。ここ最近続いた連戦の影響がなくなるほどに。

 だが、なによりも心が軽い。ようやく禍津日を取り戻せた。それが一番だ、結局俺にとっては。

 禍津日の後ろに、夜空が見える。その光が、彼女をより尊く見せる。

 

「綺麗な星空だ」

「そのようだな」

 

 どちらともなく、俺達は笑い続けた。

 

 

 

 

 アースラのブリッジは、大混乱になっていた。当たり前だ。私ですら、なにが起きているのか分からない。この艦にいるはずの、禍津日さんに似た女性が、先ほどまで戦っていた幸さんのそばにいた。いや、似たどころか、そのまま成長したかのような姿だ。そして彼に手をかざしたと思うと、彼の傷が塞がれ、その体は大きく、服装もまったく別のものに変わった。聖祥学園の制服でなく、なのはさんたちが住む、日本の神官が着るような服装に。

 あまりに異常。魔法文化がある世界でも、こんな光景は見られないだろう。そもそも、あの女性はいったい誰なのか。禍津日さんだとは思われるけど、それ以外かもしれない。けど、判断したくともなにを材料にすればいいのか分からない。

 

「なにが、起きているの?」

 

 私のつぶやきは、誰も答えることなくすぐにアラームでかき消された。

 

「ひ、非常事態発生! アースラのメイン動力及び、補助動力が何者かによって破壊されました!」

 

 エイミィの切羽詰まった声が響く。同時に、アースラのメインモニターが切り替わり、彼らの姿ではなく、ダメージを負った箇所を映し出していく。すぐさま私は長い乗艦経験から対処方法を詮索、指示していく。

 

「エイミィ! 被害状況をより詳しく! 技術班は、急いで修復に!」

 

 だけど、

 

「おっと、困ります。貴方に指揮権限は既にないことを忘れたのですか?」

 

 執務官が口を挟んできた。指示をするためにつきだした腕をつかみ、嘲笑いを浮かべている。

 

「そんなことを言っている場合!!」

 

 私の腕をつかむその男を睨みつける。だが嘲笑は変わらない。もう我慢の限界だ。

 

「その腐った笑みを止めて黙りなさい」

「……これはどういうつもりですかな、リンディ()艦長」

「黙りなさいと言ったのよ。それもわからないほど、貴方は愚図なの?」

 

 バインドで縛りつけた、目の前の執務官へそう答えてやる。

 

「やれやれ。貴方は一応、優秀だと思っていたのですがね」

「貴方の言う優秀さならいらないわ。くだらない、犯罪まがいのことをするために、私はクライドの遺志を継いだんじゃないわ」

 

 魔法陣が、私の背後で輝く。例え、軍法会議にかけられようとも、もう構わない。そもそも、今回の事件は、管理局が引き起こしたもの。いまさら、償いなどできない。だけど、それでも私には義務がある。勝手なことであるのは分かっている。それでも、アースラクルーの命を守るという義務がある、私には。

 

「クルーはそれぞれ非常事態における緊急対処を!」

「勝手なことをするんじゃない!」

「勝手なこと? ならば教えてあげるわ。この艦は、貴方の物じゃないわ。私たちが長い間かけて作り上げた()よ」

 

 それでもまだ聞き入れず、喚く馬鹿に、私は魔法を発動する。これで私は良くて左遷。悪ければくびになるだろうけど、それは仕方がない。

 

――あなたが手を下す必要はないわ。だって、貴方もそれと同じ罪人(つみびと)ですもの――

 

 魔法を発動する寸前、そんな声が聞こえた。そして気が付くと、私たちの目の前には質量兵器のひとつである、銃器で武装した集団が囲んでいた。

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