理解できなかった。なにが起きているのか。なぜ私たちは質量兵器を持った人々に囲まれているのか。そしてなぜ危険な質量兵器を持っている兵士が、圧倒的な優位に立ちながらここまで私たちを警戒しているのか。
疑問が次々と浮かんでは消えていく。
「さて、どういうべきか。いや、この場合は違うのか。まあ、いいでしょう。礼儀を払う相手というのはいても、礼儀を払う必要が今回はありませんからね」
一人、集団の中から出てくる。男だ。重火器やアーマーで武装した兵士たちと違い、彼だけは軍服のようなものを着ている。胸章を見る限り、どうやら正規の兵士らしい。この国の兵士というと、自衛隊だったかしら。
「あなたたちは?」
「さて、第一部隊は
「「「「「はっ!」」」」」」
「なっ!」
すぐさま私たちは組み伏せられ、拘束されてしまった。しかも、エイミィ達に銃口が付きつけられ、抵抗することができない。デバイスもなぜか手元にない。私以外の魔導師も、苦い顔をしている。きっと同じようにデバイスがないのだろう。
デバイスがなければ多くの魔導師は魔法が使えない。すくなくとも拘束されている現状を打開するための魔法などは。そしてたとえ使えたとしても、人質であるクルーたちを救える魔法などない。魔法は万能に見えるけど、決して万能ではない。すべての状況を突破できるほど優秀なツールではない。
「なにをするのですか!!」
「どうだ、解析結果は。僅かな現象でも詳細に記録しろ」
声を張り上げても、相手にされない。それどころか、私の頭にも銃口が付きつけられてしまった。
この場にいる彼らは口元を覆うマスクで分かりづらいが、僅かに垣間見える表情はひとつも変わりない。まるで私たちが物であるかのように。
こちらの立場があまりにも弱すぎる。これでは交渉することもできやしない。
「隊長! 高町なのはさんに八神はやてさんを無事救出いたしました」
敬礼して報告する兵士の言葉に、私は慌ててなのはさんを捜そうとした。けれども押さえつけていた兵士に銃口で後頭部をつつかれて、それ以上はできなかった。引き金に指がかかっていたからだ。
彼らは私たちに対して、発砲するつもりだ。彼らに従わなければだろうが。
「そうか。では第四班! 高町なのはさんを親御さんの元へ帰し、
なにを言って!
「わ、私たちはテロリストではありません! それにグレアム氏も! 時空管理局の――」
「黙りなさい。あなた方に発言権はありません。あなた方は人間でなくただの物でしかないのですから」
「……は?」
突きつけられた言葉に、頭が追いつかなかった。この男はいったいなにを言っているの?
「日本国において、いえこの地球という星に住む人間とは、過去にこの星の生命体から進化をし、脈々と命を受け継いできた人類を指します。そしてそれ以外の生物は、物として法が扱います。分かりますか? あなた方は人間ではない。その証拠にあの娘をみなさい。瞳が赤色? そんなものは人間としてあり得ない。人が持つ染色体で、瞳を紅くする者など存在しない。あるとしたら、それはキメラですよ。キメラは人間でない。あなた方の遺伝子は、いったいどれだけ人間とは違うのですかね? そして人間でないのならば、国際法で禁止されている拷問だろうが、なんだろうが私たちは行えるのですよ。なにせ、行っているのは非人道的な行為ではなく、ただ物を傷つけているだけなのですから」
体の震えが止まらない。枷のない人間がどれだけ残酷になれるか私は知っている。かつて捕まえた犯罪者集団がしていた行いがありありとよみがえる。だからこそ怖い。言葉通りなにをされるか分からない。
「まあ、別にあなた方の体が欲しいという訳じゃないんで、そこだけは安心しなさい」
そう言って、男はさらに兵士たちにこまごまとした指示を与える。
指示された兵士たちは、私たちを立たせ、近くにあったトラックの荷台へ入らせた。今まで回りが暗くてよく分からなかったけど、どうやらここは海鳴の外れにある森にできた広場のようだ。山道には軍用なのか、かなり大型のトラックが何台も用意されている。
「放せ! くそ! 魔法も使えない奴らが!」
どうやら現状に耐えきれなかったらしく、あの執務官が騒ぎを起こしたようだ。かなり離れた場所にいる私にも、喚き声が聞こえる。
この現状で暴れたら、どうなるか分かるはずなのに。
くぐもった音が響く。おそらくはサイレンサーという道具を使ったのだろう。昔、執務官時代に犯罪者が使っていたのを見た。質量兵器が漏らす音を減らす道具だ。それが使われたということは。
「ヒッ!?」
クルーの押し殺した悲鳴が伝わる。
おそらくは、反抗したことによって見せしめに殺されたのだろう。
「抵抗しなければ、なにもしません。なにせこちらも無駄玉を使いたくはありませんからね。いちいち偽装した理由をかくのも面倒。少し黙って従っていてくれればいいんですよ。ですがまあ、私個人としては面倒をかけられてもいいんですよ。この手で殺せますから。なにせ、はらわた煮えくり返っているんでね。娘をさらわれたのだから」
男の発す怒気は凄まじく、私ですら冷や汗をかいてしまう。ああ、そうか。彼は……
「ええ、貴方の推測どおりです。私は八十金月。禍津日の義理の父ですよ」
そう言い、笑みを向けてきた。だけどそれを友好としてとらえることなど不可能だ。獣が浮かべる、攻撃的な笑みだから。
これでは戦闘職ではないクルー達は耐えられないだろう。
予想通りクルー達はそれから怯えた子ウサギのように押し黙り、彼らの指示に従うだけだった。