魔法少女と穢れを愛する者の学校生活   作:koth3

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第57話

 アースラのクルーたちは全員トラックの荷台へ収容された。そこは薄暗く、火薬のこびりついた香りがかすかに嗅ぎ取れる。暗闇に慣れてきた瞳には、不安げにしているクルーたちの顔と、武装した兵たちの姿が見える。横目で荷台の入り口を見るが、カーテンが閉められ、兵士が立ち番をしている。脱出は無理だろう。後ろ手に拘束されている今、立ち上がることすらも上手く出来ない。

 そもそも、彼らは訓練を積んだ兵士だ。僅かな体の動きから見て取れる。アースラのクルーたちもある程度の訓練をしているけれども、彼らは技術屋が本懐。戦闘専門の兵士と比べられるはずもない。監視している兵士たちの目を盗み逃げることなど不可能だ。

 トラックの荷台で揺すぶられながら、私は考える。

 どうにかしてクルーを、クロノを無事アースラへ帰艦させる方法を。アースラにさえ帰艦できれば、優秀なクルーたちだ。かけた人員を埋め合わせながらでも、ミッドチルダへ帰ることができるだろう。それこそ私がいなくとも。だからなんとしてでも彼らを逃がさなければならない。

 だけど現状を打破する方法として、魔法は使えない。魔法を使おうとすると、どうしても魔法陣が出てしまう。魔法陣は必ず発光する。しかも今は夜。かなり目立つ。

 魔導師が隠密行動がとれないといわれる由縁だ。

 魔法が使えず、逃走手段がないとなると交渉するしかないけれども、それには相手が持つ感情が悪すぎる。金月と名乗った男性が、この部隊の実質的なリーダーだろう。実際に部隊へ命令を下していたもの。

 けれども最悪なのが、彼の子が禍津日さんだということ。彼にとって私たちは誘拐犯でしかない。信頼は最初からマイナスに振り切られ、敵意を抱いていることだろう。感情というのは厄介なもの。どれだけの理を語っても、感情ひとつでそれらの意味を失うことも珍しくないから。

 いや、これはただの弁論でしかないわ。私がさっきから繰り返しているのは言い訳。結局は、私たちが禍津日さんを誘拐したから、こんな事態へ陥った。だというのに、まるで私は禍津日さんが誘拐された原因は管理局上層部にある、と他人に責任転嫁しているにすぎないわ。そんなことをしても、意味がないというのに。だって彼にとって、どんな理由があろうとも私は誘拐犯の一人でしかないのですもの。

 結局トラックが停まるまでいくら考えても、良い案は出てこなかった。トラックが停止し、私たちは降りるように指示される。

 みんな黙々と従っていく。顔を青ざめ、なかには家族へ最後の言葉を告げているクルーもいる。だけれども、彼らは私を責めようとしない。

 

「ごめんなさい……!」

 

 彼らの誇り高い姿に、そして私の愚かさに声を漏らしてしまった。

 

 

 

 海鳴市からもっとも近い陸上自衛隊基地についた私たちは、すぐさまあらかじめ用意しておいた、いくつかの部屋を利用して彼らに対して尋問を開始した。いささか拍子抜けなのは、彼らが比較的大人しく、簡単に口を割ったことだ。どうやら、彼らも今回の作戦に関しては乗り気ではなかったと見える。

 非常に残念だ。もし口をつぐもうとしていたらそれを大義名分に殴ることくらいはできただろうに。たとえどのような理由があろうとも、私は彼らを受け入れない。それだけは、すでに彼らもわかっていることだろうが。

 さて、私は私で報告しなければならないか。尋問は私と同じ部隊の人間がしている。兵士に任せると過激な手段を取りやすい、と作戦本部からのお達しだ。現状に納得していなくとも、命令だ。仕方がない。指示に従っているということも含めて報告しよう。

 

「秘匿回線で、幕僚長へ繋いでくれ」

 

 技師に頼み、特殊な回線を繋いでもらう。一般回線ならば、アメリカにでも盗聴されるだろうが、これは日本の自衛隊が造り上げた確実に盗聴されない仕組みの回線だ。盗み聞きされる心配は現在の技術ではないといえる。それでもあまり魔法については話をしない方がいいだろう。どこで聴かれているか分からない。

 ワンコールもしないうちに繋がった。どうやら幕僚長も心待ちにしていたようだ。

 

「調子はどうだ?」

「好調です。尋ねれば尋ねただけ教えてくれますよ」

 

 私の答えが気に入ったのか、幕僚長の声色が楽しそうなものに変わる。

 

「それは素晴らしい。では、彼らが持つ情報も搾り取れるだけ搾り出せ。もし秘匿しようという動きがあるのならば、拷問だろうが自白剤でもなんでも使え。だが、協力的ならばわざわざ不満を買う必要はない。分かっているな? お前の心情も理解できなくはないが、お前一人よりも、彼らの持つ技術の方が我が国にとって価値が高い」

「分かっております」

「ならよい。……すべてが終わった後、一発だけ殴るのを許可しよう。ただし男にしておけ。どうやらかの世界は、女子供も戦場に出してしまうようだからな。やれやれ。巴御前という前例はあるが、それが中世よりもはるかに前だというのに。戦国時代で少数の事例はあるのだろうが。かの世界は発達したものと、未発達な部分がアンバランスすぎないか?」

 

 どうやら私も監視されているらしい。だがそんなことはどうでもいい。幕僚長のおっしゃった言葉がもらえただけで十分だ。これで一度だけではあるが、復讐できる。

 

「私には分かりません。しかし、予想するに、何かを犠牲にしなければできなかった発展なのでしょう」

「そうかもしれんな。……反吐が出る。女性ならばともかく、子供を使わなければ維持できん文明など」

 

 それを最後に、秘匿回線が切られた。もう話すことはないということだろう。再び幕僚長に会うときは、魔法に関してすべて聞き出し、そして……。

 

「クソッタレ!」

 

 誰もいない家へ帰る時だ。

 仕方がない。それが最初からの契約だ。だがそれでも。

 

「私は本当にお前を娘として見ていたんだ、禍津日」

 

 体を震わせ、私は神でありながらたった一人の、家族である少女を思った。

 

 

 

 

 

 キラキラと輝く星空の下、俺は取り戻した禍津日を抱きしめている。

 温かい。寒空が気にならないほどだ。禍津日の鼓動が聞こえる。

 

「幸。そろそろ放れてくれ。その、恥ずかしい」

「え?」

 

 禍津日の視線をたどると、そこにはフランに雛がいた。フランは頬を染め、雛はなぜかおっかない笑みを浮かべている。

 なるほど。確かにこれは恥ずかしいだろう。でも、

 

「こ、幸?」

「やだ。今日はもう放したくない」

 

 たまの我が儘くらい許されるだろう。ようやく取り戻したんだ。放したくはない。恥ずかしがる禍津日を、抱きかかえながら俺は眼下の海鳴市をずっと眺めていた。

 星に負けない人工の輝き。人々が作ってきた宝石のような街。だけれども、もうそこにはいられない。そう思うと、残念で仕方がなかった。

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