授業が終わった放課後、私たちはいつものように練習を開始する。だけど、みんなの動きは機敏とはとても言えない。だらだらとしたものだ。もっときびきび動けるはずなのに。
もともとばらばらだったというのもあるのかもしれない。でもやっぱり教室の中にいるべきクラスメイトがいないことが、一番の問題だと思う。
なのはちゃんにフェイトちゃん。はやてちゃん、禍津日ちゃん。それに幸君。あ、そうそう須佐君も。数日前からみんな来ない。練習をさぼっているわけじゃなく、学校にすら。
いったいどうしたんだろう。お家へ連絡しても、なのはちゃんのお母さんが出て、悲しそうな声で留守だというばかりだし、幸君のところとはやてちゃんは電話しても誰も出ない。一度、みんなの家へ行ったけれど、扉が開くことはなかったし、中に気配がひとつもなかった。どうしたんだろう。
「すずか。準備はできたわよ」
「あ。うん。ありがとうアリサちゃん」
ぼうっとし過ぎていたみたい。アリサちゃんが言った通り、みんな決められた場所で私の伴奏を待っている。私だけが準備をしていなかった。急いで譜面を開く。音符が紙面に重く連なっている。
「ほら! みんななにだらけきっているのよ! なのはたちが来たとき驚かそうっていう気概くらい見せなさいよ!」
そう言ってアリサちゃんが、指揮棒を楽譜立てに置き、手をたたく。みんなその言葉に驚いたような顔をし、恥ずかしそうに頭をかいたり、頬をかいている。私も頬が熱くなっちゃった。
「そうだよな。ごめん、アリサ」
「おう。俺たちも頑張らなくちゃ。練習していないと、幸に音痴といわれる羽目になるかもしれないからな」
「それはいやね。勘弁してほしいわ」
「はいはい。元気を出したのはいいけれど、練習するわよ?」
「「「おー!」」」
やっぱりアリサちゃんはすごい。皆の心をひとまとめにすることができるなんて。あんなに堂々となんて、私にはできない。
アリサちゃんへ、羨望のまなざしを送っていた私は、だから気が付けた。くるりと振り向いてみんなから見えなくなったアリサちゃんが悲しそうにしているのに。
そうか。やっぱりアリサちゃんも寂しいよね。みんながいないと。
「アリサちゃん。指揮お願いね」
「えっ? あ、うん。任せなさい。完璧に指揮してあげるわ」
「うん。お願い。じゃあ、頑張ろうね」
「……うん。頑張ろうね」
儚げに、それでいて力強くアリサちゃんは笑った。私も、ああ笑えることができればいいのに。
合唱コンクール当日。私たちは歯が欠けた櫛のような状態で、舞台に立っていた。いたる所に開いた空白のスペースがあり、物悲しい。なんで、みんないないのだろう。
アリサちゃんが、固い笑顔で指揮台に立った。いつも浮かべる笑いと違う。自信満々で、見ている人を引っ張るような笑みじゃない。他の人は気づかないかもしれないけれど、私には分かる。
だからこそ心配だ。ここ数日アリサちゃんは、情緒不安定だった。なのはちゃんたちが全く学校に来なかったからだ。怒りっぽくなったり、泣きそうになったり。
――ねぇ、なのはちゃん? 今どこにいるの?
あれ? おかしいな。楽譜がにじんで読めないや。ううん。楽譜だけじゃない。目に映るものすべてがにじんでいる。
「あっ。そうか。私が泣いているんだ」
目元をぬぐう。少しは視界が良くなった。
アリサちゃんの指揮棒があげられていくのが見える。それが振り下ろされた。
ねぇ、なのは。アンタ、今どこにいるのよ? なんでみんなと同じく、このスポットライトに照らされて歌っていないの? フェイトもはやても禍津日も幸も。可笑しいじゃない。だってあんなに練習していたのよ? 特に幸なんて下手くそって笑われてもくじけないで練習していたじゃない。
「……馬鹿」
指揮を振る手が段々疲れていく。それが無性に腹が立つ。力いっぱい叫びたい気分だ。だけどそれもできない。こんな時、すずかみたいに落ち着けたらと思う。誰かのためを思って、心を鎮めたい。私にはそれができない。
だからこそ、今こうしてクラスのみんなが歌っているというのに、指揮棒を力いっぱい地面にたたきつけたい気持ちが湧いてくる。きっとすずかならば、こんな醜い感情、生まれないんだろう。すずかのようになりたい。そうすれば、きっとみんないつも仲良く笑っていられただろうから。
ねぇ、なのは。どこにいるのよ。
私たちの合唱は終わった。でもあまり良くなかったと思う。その証拠に、観客からの拍手はまばらだし、心がこもっていない投げ遣りなものだ。当たり前だと思う。だって、なのはちゃんたちがいなくて、それでみんなショックを受けていたんだもの。歌う人は少なく、かといって一人一人がその分頑張るわけじゃない。それで拍手されるような、感動されるような合唱ができるわけない。今拍手している人たちは、ほとんどお世辞でしているに過ぎないはず。
みんなが一礼する。もう一度拍手がされる。けれどどこか熱がない。
「なんでこうなっちゃったの?」
須佐君と幸君の対立。そこから続いた不穏な空気。そしてみんないなくなっていく。現状に耐えきれず、思わず声が漏れた。小さなそれは誰にも聞かれず消えていく。
だというのに、ひときわ大きな拍手が私の声をかき消すようにされる。
「「え?」」
思わず顔を上げると、そこにはまるで幸君と禍津日ちゃんを大人にしたような人が笑顔で拍手をしていた。回りから息を呑む音がいくつもした。クラスのみんなもその二人に禍津日ちゃんと幸君の想影を見たのだろう。
その人たちの唇が動く。
さ・よ・う・な・ら。
今合唱コンクールの舞台ということを忘れて、私は飛びだそうとした。
だけど、二人は消えた。虚空に掻き消えるように、唐突に影すら残さず。その時、私は分かってしまった。もう二人とは会えないんだ、と。
原作キャラたちのその後
なのはは数か月後、無事家に帰りました。まあ、もう二度と魔法に関連した者に近寄らされませんでしたが。
はやては生涯政府による監視の上で、騎士たちとともに普通の生活を送ることに。
フェイトとアースラクルーたちは、尋問を終えた後しばらくしてミッドへ変えることが許されました。
ミッドチルダに関しては、たまたまとある正義感の強いハッカーが、たまたま管理局上層部のシステムの弱い部分を見つけてしまい、そこから悪行がばれて全次元世界へ拡散されてしまい、大わらわの状態へ。アースラクルーたちのことも問題視されるように。