「ねぇ…紅音」
「どうしたのお母さん」
「あのね…紅音にはちょっと言いにくいんだけど…」
「しばらく楽郎君とのお付き合いを控えないかしら?」
お母さんから放たれた一言は、私にとってなによりも耐え難い言葉だった。
「え?それは…どういう事なの?」
「紅音、あなたはまだ中学生なのよ。受験もあるし…それなのに高校生の楽郎君とずっと一緒にいるじゃない?」
なんでそんな事を言うの…。いくらお母さんでも…こればかりはダメ…。楽郎さんのことだけは…。
「だから…」
次の瞬間…私は…。
「ごめんなさいお母さん」
「でも、私には楽郎さんが全てなの…。」
「楽郎さんになら…私の全てを委ねられるの…。」
「それぐらい楽郎さんが大好きなの…。」
私は楽郎さんへの想いを、捲し立てるようにお母さんにぶつけた。
「紅音…楽郎君への気持ちはわかるけど…でも…」
「やめて!!」
「紅音!」
お母さんから背を向けて、私は走り出した。
家出してしまった。
お母さんの言葉を聞かずに…否定してしまった。
でも…楽郎さんは私の生きがいなの。
ゲームで知り合った彼は、私の全てを受け入れてくれた。
私はきっと、彼に依存してと思う。
だけど…そんな姿を見せても、彼は受け入れてくれた。
「……楽郎さん」
近所の公園で、涙を流しながら大切な人の名前を呟いた…。
「はい?って紅音!?」
「へ?……ら、楽郎さん!?」
公園の近くを走っていた人に名前を呼ばれてそこを見ると、目の前には、私の恋人である楽郎さんが立っていた
「何があったんだ紅音!?こんなところで」
楽郎さんが取り乱してしまってる…
あっ…涙のせいかな…
「そうだ紅音、これ」
そう言って楽郎さんは、ハンカチを渡してくれました。
「野郎の持ち物だし、ジョギング中だったから、汗臭かったらごめんな…。」
そんな事はありません。
「そんな事ありません!楽郎さんのでしたら、むしろ安心します」
「そ、そう」
* * *
「えっと…落ち着いた?」
「いえ、楽郎さんが抱きしめてくれたら落ち着きます」
「お、おう…そうか…。わかったよ」
「むぎゅ…」
ああ…楽郎さんに抱きしめられています…。
楽郎さんの温もりを感じます…
ああ…ずっとこのままで居られたらどれだけ幸せなんだろう…。
「紅音」
「はい……」
楽郎さんに名前を呼ばれた。
「気持ちは落ち着いたか?」
「はい…。」
「そっか」
「あの…楽郎さん」
このまま楽郎さんと一緒に居たいという気持ちと…お母さんを否定して家を飛び出してしまった罪悪感に苛まれ、今の私は家に帰れない…。
「楽郎さんが良ければ…楽郎さんのお家にお邪魔させてもらっていいですか?」
「家に?」
「はい。今は…楽郎さんと一緒に居たいんです」
「そう…。俺もだよ紅音、俺も紅音と一緒に居たいんだ。」
「だから…家で何があったのか聞かせてくれ」
「……はい」
* * *
「お邪魔します」
「ああ、いらっしゃい」
久しぶりに楽郎さんのお家に上がりました。最近は部活が忙しくて通話やメールやゲームでしか会えなくて、リアルでお会いできなくてちょっと寂しかった。
「え、えっと…リビングで話を聞くのもアレだし部屋行く…?」
「はい!行きましょうか!」
楽郎さんのお部屋
何度かお邪魔させていただきました
棚にはいろんなゲームが飾られています。
ここに居ると、楽郎さんを感じられます。
この部屋で楽郎さんが過ごしていると思うと…
「それで、何があったんだ?」
楽郎さんが私に訊ねました。
「家出してしまいました」
「え?家出?なんでまた」
家出と聞けば、そういう反応になりますよね。
「ちょっと、お母さんといろいろな事で言い争ってしまい、家を飛び出してしまいました。」
「それであんなとこに居たのか。」
「はい」
「珍しいな。紅音が和泉さんと言い争いするって…。」
「あはは…普段はしないんですが、今回はちょっと…」
いつもの私なら…そんな事は無い。でも…今回は…。
「まあ、何があったのかは、詳しく聞かないよ」
「それで、どうするの?」
「えと、どうするっていうのは…」
「紅音は家出したって言ったけどさ、多分、和泉さんも輝朝さんも紅音の事を心配してるだろうさ」
確かにそうですね。楽郎さんも言った通り、お父さんとお母さんも、私が家を飛び出してしまった事できっと心配しています。でも、飛び出してしまった手前…今日は帰り辛いです…
「とは言っても、親と喧嘩して家を飛び出したってなると家に戻りにくいだろ。今日だけウチに泊まって明日戻るのはどうだ?輝朝さん達には俺から連絡入れておくからさ」
「え?」
それは今の私にとって、思いもよらない提案だった。
今は家に帰り辛い。それもある。でも、もしお泊まり出来たら、楽郎さんと一緒の時間過ごせる。
「良いんでしょうか?」
「ウチはどうせ母さんは部屋にこもりっきりだし、父さんは釣りだしな。瑠美と俺しか居ないようなモノだから、紅音が良ければ大丈夫だぞ」
「楽郎さん…!」
「うおっ」
私は楽郎さんと居られるという事実に嬉しすぎるあまりに楽郎さんに抱きしめました。
「今日はよろしくお願いします。楽郎さん、大好きです!」
「ああ。よろしくな紅音、俺も好きだぞ」。