【書籍化】『星天』   作:空兎81

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白棋士 選定編
第11局 基準


 

「僕の負けだ」

 

来生がじゃらりとアゲハマを盤上に置いた。投了したのだ。

 

勝った。勝った。今日も勝ったのだ。

 

ふーっと息を吐く。来生はとても強かった。なんというか殴られ慣れているというか、攻めに対する受けが上手だった。攻めの上手い人と日常的に打っているんじゃないかな。

 

「強かった。女なのに囲碁を打つなんてって言って悪かったよ」

 

「言われ慣れてるから大丈夫」

 

「そうか。賭けの代償だ。僕の白神石を受け取って欲しい」

 

じゃらりと音のする巾着袋を来生が渡す。貰ったところでビー玉遊びするくらいしか使い道はないんだけど、取り敢えず受けとる。

 

「対局中、君の碁の中に白虎神がいるのが見えたよ。君の碁は神々の領域にあるのかもしれない。とても強かった」

 

「ありがとう」

 

「負けておいて図々しいんだけどお願いがある。白棋士になってくれ」

 

真剣な顔で来生が不思議なことをいう。私が白棋士になって欲しくないから棋礼戦をしたはずなのに白棋士になって欲しいとは?

 

「白棋士になって欲しくないんじゃないの?」

 

「姉以外の女が白棋士になって欲しくなかったんだ。姉は僕より強い。だけれども女だから白棋士にはなれなかった。星天が白棋士になれば女が囲碁をできないという慣習が変わるかもしれない。世界を変えて欲しい」

 

握った拳を膝に押し込みながら来生がいう。私が白棋士になったら女も囲碁をできるようになる?世界を変えて欲しい?

 

正直よくわからない話だ。囲碁をしたいなら男だろうが女だろうが囲碁を打ったら良いのではないだろうか。囲碁人口が増えることは良いことだが、世界を変えろと言われてもどうすれば良いのだろう。

 

だけども白棋士になるのは歓迎だ。残句は強かった。来生はすごかった。怕蓮とも戦ってみたい。白棋士には真剣勝負をしてくれる強い棋士がたくさんいる。それなら白棋士になりたい。

 

「うん、わかった。白棋士を目指すよ」

 

「僕も立会人をして、また白神石を集めるよ。次は序列戦で戦おう」

 

決着が付いたということで来生と立会人は去っていく。取り敢えず次の私の目標は白棋士になるということか。よし。

 

「白棋士になる為にはどうしたらいいの?」

 

わからないことは周軒に聞こう。お偉いさんだしどうしたら良いかはよく知っているよね。

 

「白棋士の試験は選定、本選、上戦という3つの段階に分けて行われる。星天が白棋士になる為にはまず、選定の基準を満たさなければならない」

 

「選定の基準って?」

 

「国及び藩の主催する大会に出て、優勝するか、もしくは複数の大会に出場して上位3位以内に3度入ることだ」

 

周軒がざっくりと白棋士になる方法を教えてくれる。選定、本選、上戦という3段階に分かれていて、まずは何かしらの大会に出場して実績を残さないといけないらしい。

 

「本戦は夏。今期の白棋士の選定を満たす大会はもうひとつしかない。方円(ほうえん)杯、我が藩で行われる最大の大会で、藩中から猛者が集まってくる。星天は過去の実績がないから選定を満たそうと思えば優勝するしかない」

 

「わかりやすくていいね」

 

色々と言われたのだが結局のところ大会に出て優勝すれば良いだけの話だ。沢山の強い人と戦うのは大好きなので何の問題もない。

 

「方円杯で優勝することは困難極まることだが、白棋士を2人も倒した星天ならば可能であるだろう。何か力になれることがあれば遠慮なく言ってくれ」

 

「じゃあまた棋礼戦あったら教えてね」

 

方円杯があろうとなかろうと真剣勝負はしたい。そういうと周軒はちょっと笑っていた。

 

で、方円杯が始まるまでまだ日にちがあるしいつも通り禍旋亭に行ってゴロつきどもと打とうとしたが今日はなんだか騒がしい。

 

「俺は千秋(せんしゅう)に1枚だ」

 

「千秋は棋道杯で負けてただろ?やっぱり壮三兄弟だよ。長男の我意の破壊力に勝るもんはねえよ」

 

「いや、次男の園次の技巧は目を見張るもんがあるぜ。橘中(きっちゅう)杯では兄貴を倒して2位だったはずだ」

 

「壮三兄弟の三男って誰だっけ?まあ覚えてねえってことは大したやつじゃねってことか」

 

「我意に3枚張るぜ!」

 

ガヤガヤと羅間にお金を渡し引き換えに札のようなものを受け取っている。何しているんだろ。

 

「お、星天じゃねぇか!おし、勝負だァ!今日こそその無愛想な顔を泣きっ面に変えてやるぜ!」

 

「あれ、何してるの?」

 

ゴロつきの一人が私に気づいて声をかけてきた。賑わう売り台を指差して聞くと、『ああ』と頷き教えてくれた。

 

「今度の方円杯で誰が優勝するか賭けてんだよ。胴元の羅間がいくらか取った後、当てた奴らに金が分配されるんだ」

 

「方円杯なら私も出るよ」

 

瞬間ざわっと室内が沸く。『星天が出るのか?』やら『そんなもん優勝は決まったようなもんじゃねえか』やら話し声が聞こえ、羅間のところに人が押し寄せる。

 

「星天に5枚だァ!」

 

「10枚!星天に10枚賭ける!!」

 

「馬鹿野郎。星天で受けられるわけねえだろ。優勝じゃなくて2位を当てやがれ!」

 

羅間のひと声に皆ブーブー文句言いながらも引き下がる。やれやれと首を傾けながら羅間がこっちに向かって歩いてくる。

 

「なんだ、方円杯に出るのか」

 

「うん。白棋士になりたいからね」

 

「こんなごみ溜めから白棋士様になるやつが出るとはな。まあ、せいぜい頑張ってこい」

 

それだけ言うとまた前の人だかりの中に戻って行った。今のは激励だった。羅間は無愛想だけどわかりやすい。

 

最初に声をかけてきたおっさんと席に着き、勝負を始める。いつも通り、勝ったら1両、負けたら箱の中に積み上げられた銀子と私の身柄だ。

 

「星天が出るなら方円杯は星天の優勝だろうよ」

 

「だが、南部の新羅(しんら)烏鷺(うろ)杯で優勝したぜ?本命は新羅だよ」

 

「序列六位の甘婪(かんらん)の弟子、玲樂(れいらく)もかなりの強さだって噂だ」

 

「ばっか、こっちは首斬り残句と無敗の新進来生を倒した星天だぜ?誰だろうと勝てるわけないだろ」

 

パチパチと打っていると賭け終わったのかそもそも興味がないのか、ギャラリーが集まってくる。口々に言うのは方円杯の参加者についてだ。聞いている感じ来るのは強い人ばかりなのだろう。

 

方円杯は白棋士になる為の入り口だ。きっと皆真剣で一生懸命だ。うん、楽しみだ。方円杯で強い人とたくさん戦えるのが待ち遠しい。

 

でもまずは目の前のこいつからだ。ここで負ければ方円杯なんて出られない。私の身柄は目の前のゴロつきの物だ。

 

だから殺す。私が奪われる前に相手の石を殺す。いつだって目の前の一局が全てで全力なのだ。

 

これが私の生なのだ。

 

 

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