1戦目の
2戦目、ヒゲがモジャモジャのおっさんが相手だった。厚み作りの上手な人だった。勝った。
3戦目、私より小さい男の子だった。勢いがあって攻め上手な子だった。勝った。
そして、4戦目。
「星天って、やっぱり女か。お前が白棋士を2人倒したって噂の奎棋士だな」
ずんぐりとしたあばた顔の男がどかりと席に着く。対戦相手の名前は組み合わせの時に受付の人に教えてもらった。
「周軒様も血迷ったもんだよな。いくら強いからって女を奎棋士にするかよ。昔からあいつって変なとこあんだよな」
「周軒の知り合い?」
「俺の
楽しくない思い出話をするような不貞腐れた声色で我意が言う。聞いている感じ周軒と我意は幼馴染のようだが、あんまり仲は良くなさそうだ。
「あいつ、そりゃ剣の扱いは凄かったぜ。爺も大絶賛で俺達孫には目もくれず何かあれば『周軒、周軒は天才じゃ!』ってな。でも碁の腕は全然だ。おまけに見る目もねえ。前に参宿藩との棋礼戦だって俺が出てやるって言ったのに『お前では無理だ』と切り捨てやがった。昔馴染みの付き合いだっていうのに冷てぇじゃねえか。それで選んだのがお前みたいな女だっていうんだからあいつ本当にわかってねえよ」
ブツブツと我意が文句を言う。我意は残句と戦いたかったが周軒に選ばれなかったらしい。なるほど、確かに残句と戦いたかった気持ちはよくわかるよ。あれほどの打ち手と命を賭けた本当の勝負をできる機会なんてそうそうもないもんね。だったら、
「じゃあ私と棋礼戦をしましょう」
「はぁ?何言って、」
「残句と戦いたかったのですよね。でも残句はもう死んでしまったので私と勝負しましょう。負けた方が首を斬られる、命を賭けた真剣勝負です」
「は、ばっか!何故そんなことをしないといけねぇんだよ!」
我意が慌てふためく。なんでって、残句と戦いたかったんだよね?
「棋礼戦したかったんですよね?」
「そうだけど、そりゃ勝ったらあの偉そうな周軒を見下せるからとか藩を救った英雄になれば自慢できるとか奎棋士になれたら将来は安泰だからとかであって、勝っても相手の首が飛ぶだけとか意味わからないだろ!」
我意がよくわからないことを言って慌てふためく。強い相手と真剣に勝負できればそれでよくない?でも我意はそれだけで足りないっていうならそれには譲歩すべきだろう。
「なら、我意が勝ったら奎棋士になれるように周軒に掛け合うよ。さあ、命を賭けて勝負しよう」
「頭おかしいんじゃねぇか!」
これだけ寄り添おうとしているのに相手にヤバい奴扱いされる。解せぬ。
「何を騒いでいるんだ」
「あ、周軒」
我意と話していると見回りをしていた周軒はやってきた。周軒は私と対戦席に交互に目をやる。
「星天と我意か。何かあったのか?」
「周軒様、いや、その、」
「我意が自分も棋礼戦に出たかったっていうからそれなら今から戦おうって話をしてた。互いに首を賭けた命賭けの勝負、負けた方が死ぬ。あと、我意が勝ったら奎棋士にしてあげて」
「星天に勝つ程の実力なら奎棋士にするのは構わないが、その条件でいいのか我意」
「え、あ、いや」
周軒に同意を促された我意はしどろもどろで要領を得ない。望んだ棋礼戦だというのにまだ何か懸念点があるのだろうか?
「正式な棋礼戦は国に申し出て立ち合いの白棋士を呼ばなければならないから、今日明日でできるものではない」
「で、ですよね!急に棋礼戦とか言われてもできるもんじゃねぇっすよね!」
「だが、条件が決まっているというならば私が立会人を請け負おう」
「え、」
周軒が腰にぶら下げた剣の鞘を掴む。柄に付けられた赤い紐の鏡のついた装飾品が揺れた。
「負けた方の首を私が落とす。君達ふたりの戦いは私が見届けよう」
「ほっ、本気でやるつもりなんすか。小さい頃から共に育ってきた俺をたかが1試合負けたからといって殺すんですか」
「我意が勝てば星天を殺すし星天が勝てば我意の首を切る。それが勝負に誠実ということだ」
淡々とした口調で、『この条件、我意は受けるのか?』と周軒が聞き、『……受けれない』と言って我意は項垂れた。
周軒は剣の柄から手を離し『だからお前には棋礼戦を頼まなかったのだ』と言って去っていった。残念なことに我意は真剣勝負を受けてくれないらしい。でもそういうのが好きじゃないなら奎棋士になるのはやめたほうがいいと思うよ。命とか矜持とか賭けた勝負ばかりだから。
そうして始まった4回戦、我意は破壊力のある碁を打つと噂だったがそんな物は見る影もないズタボロだった。わずか、37手で勝負はついてしまった。優勝候補と戦えるって聞いて楽しみだったのに残念。