【書籍化】『星天』   作:空兎81

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第19局 星天対鳴良

 

 

2戦目は下言という対角線上に互いの石を置く打ち手と戦った。勝った。

 

3戦目は玲樂という死活に強い打ち手と戦った。勝った。

 

『決勝で千秋と戦う約束をしてたのだが、守れなくて無念だ』と玲樂が悔しそうに呟く。私もその約束をしている人がいる。お互い譲れないものを盤上に載せた良い勝負だったね。

 

案内された決勝席につく。トーナメント表で鳴良が準決勝まで勝ち上がってきたのは知っている。あと、1戦で鳴良と戦うことができる。

 

しばらくすると前の席が引かれる。目の前にいる人物に思わず顔が綻んだ。

 

「えっと、お待たせ」

 

「うん、待っていたよ」

 

貴方と戦えるのを待っていた。

 

鳴良が席につく。方円杯最終戦、これは大事な1局だ。この戦いに勝たなければ白棋士にはなれない。

 

だけどそんなことは些末なことのように感じる。ただ鳴良と戦いたい。そして勝ちたい。強い相手と戦い勝つ、それが私にとって生きるということなのだ。

 

だから鳴良、君を倒すよ。

 

『お願いします』と互いに頭を下げて試合が始まる。先攻は鳴良。

 

鳴良の1手目は右辺下小目、私は左辺上星。3手目は右辺星、私は左辺下星。そして、鳴良は17の十一、星の斜め下。

 

右辺に黒模様が広がって攻めにくいな。外から攻めるのがベストだね。右上の星にかかるがコスミつけられたので伸びる。黒が1間に飛ぶ。白も3間に飛ぶ。地に辛い打ち方だ。

 

左上の三々に入られたので外側から押さえてケイマに滑る。鳴良も滑ってきたので手を抜いて右辺に打ち込みをいれる。これは様子窺い。このまま右辺をすべて黒で固められると後に手がなくなるから先に味をつけておく。

 

手を抜いた左辺を跳ね出される。強い手だな。でも石のゴタゴタなら捌いてみせる。

 

切られて伸びて跳ねて囲われるも2線1目の黒を切り飛ばす。これで白の石は取ることができない。左辺は白の勢力圏だ。

 

上から当てられて黒も中央に厚みができる。中央に黒の勢力圏が生まれる。

 

右辺に手を入れていると左下の三々にも入られる。受けて伸びて、4隅が全て黒地になる。ああ、なるほど。

 

鳴良は中盤で勝負を決めにきたのだ。

 

4隅に加えて右辺も黒の地だ。今、目数で形勢判断をするならば私が20目以上負けている。

 

鳴良が得意なのは終盤だった。だが、ここで決めにきた。中盤で圧倒的なリードを作りそれを終盤まで維持する。私の得意な中盤で勝ちにきた。

 

ヨセが強いということは目数計算と形勢判断に優れているということ、それは当然中盤にだって役立つものだ。

 

つまりヨセが強い人は碁が強いのだ。

 

なんて心踊る碁だろう。もう、盤上は中盤から終盤へと移行しつつある。まさか同じだと思わなかった。

 

鳴良()相手の得意な戦場で戦いに来ると思わなかった。

 

もう終盤、鳴良の得意なヨセの段階へと入った。前回鳴良は20目以上リードしていた盤面をひっくり返した。今度は私が同じことをやろう。

 

終盤で私が鳴良を逆転する。

 

中央の1間に飛んでいた黒に覗きを打ち、重くした後で後ろにつけた。意味はわかるよね。

 

この黒を殺すと言っているのだ。

 

つまり脅しているのだ。中央を白に寄越せ、さもなくば黒の大石を殺してやると。

 

鳴良が受けた。でもこの白は取れない。黒石を2つに分断する。

 

応戦する鳴良、だけど分断された4目の種石は助からない。抵抗はされたが結果は同じ、中央に白の地が生まれる。

 

鳴良みたいに細かく計算して最大限地を得る打ち方は私には出来ない。そんな精密で緻密な思考回路は生憎と持ち合わせていない。

 

だから相手を殺すと脅しながら勢力圏を拡大する。私のヨセは死活だ。

 

中央に白地ができた。だけどもまだ少し足りない。目数にして4目ほど負けているのか。

 

ならばと右上隅の黒地へ深く踏み込んだ。ここで4目以上得できたら私の勝ちだ。

 

「ひぇ、まだ攻めてくるんだ」

 

「うん、これが私のヨセだよ」

 

「いや、これただの鬼攻めだよ。黒石殺しにきてるじゃん」

 

鳴良がジッと攻められた右上隅を覗き込む。ここで勝負が決まるのだから当然長考するだろう。

 

砂時計がさらさらと落ちていき残りひとメモリとなったところで鳴良が打った。目一杯黒地を広げた手だ。そうだね、妥協すれば地合いが足りなくなる。鳴良の打った手は好手だ。

 

だけれどもその手には隙も生まれている。私が攻め切るか鳴良が凌ぎ切るかの勝負。

 

最後の攻防だ。互いに1目でも多く相手より得る為に最大限工夫する。鳴良はやはり計算が早い。何処が大きい価値の手なのか判断が正確だ。

 

でも、その価値ある手を創造するのが私の碁なのだ。

 

右上で滑り込みを打つ。これ自体は価値のない手だがそのあとの切りを10目の価値に変えることができる。右上隅の黒は小さく折り畳まれ2目にまで減る。

 

これで逆転した。

 

「……盤上には白が逆転できる手はなかった。なのに左下の攻防で手を作られてしまったんだ」

 

「盤上で単なるヨセ合戦なら私に勝ち目はないからね。一手の価値を決めるのは私だ」

 

「自分で手を創造するんだ。そっか。盤上で宝探ししてるだけじゃ勝てないんだね」

 

整地をする。黒45目、白45目半、白の半目勝ちだ。

 

負けました、と鳴良が頭を下げる。接戦を制した。鳴良に勝った。

 

私は方円杯で優勝した。

 

 

 

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