【書籍化】『星天』   作:空兎81

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第22局 黒獣

 

ついに出発の日となったので本戦に出場する9人の棋士達と共に西都へ向かう。鳴良が『やっと、西都にいける。やった、やった』とガチ泣きしていた。それほどまでに本戦が楽しみだったのだろうか。私も早く都に行って強い人と戦いたいって思ってたから気持ちわかるよ。

 

西都までは丸一日かかるみたいで、4台の馬車と2台の荷馬車、そしてたくさんの護衛の兵士と共に向かう。随分と厳重だね。西都までの道のりはあまり治安が良くないのだろうか?

 

「兵士がたくさん付いてきているけど盗賊でも出るの?」

 

ガタガタと馬車に揺られながら周軒に聞く。ちなみに各馬車には2、3人ずつ乗せられていて、私のいる馬車には周軒と鳴良が乗っていた。

 

「出るかもしれないが並の盗賊団なら処理できる」

 

「並以上なら?」

 

「撃退はできるな。捕えられるかは相手による」

 

淡々とそういう周軒は実に頼もしい。取り敢えず道中盗賊にやられてお陀仏ということはなさそうだ。

 

「正直盗賊は問題ではないな。西都まで君達を護衛してるのは」

 

「周軒様!獣です!猪です!こちらに突進してきます」

 

「すぐ向かう!」

 

周軒は剣を掴むとバッと馬車の外に向かって飛び出してしまった。なんで私達を護衛しているかの理由は聞きそびれてしまった。まあいいか。周軒強いし。前に禍旋亭に行く時に絡んできたゴロツキを軽く払い除けただけで家3軒分くらい吹き飛ばしていたし。

 

外は騒がしいけど気にせず詰碁の本を解いている。ちなみに鳴良は虚な目と屍のような顔色で壁際にもたれかかっている。『もうダメ。頭まわる。吐く』とか言ってたから乗り物酔いかな。馬車ガタガタ揺れるし辛いよね。

 

しばらくすると外から歓声が上がったので猪は仕留めたのだろう。今日の晩御飯はボタン鍋なのかな。

 

そういった感じで道中何度かトラブルもあり、気付いたら日が暮れていた。今日は野宿になるらしい。

 

ご飯はパサパサとした携帯食と途中仕留めた猪の焼肉だった。鍋ではなかった。『もう随分と暑くなっているのに鍋を食べたいのか』と周軒は驚いていたけど私はいつだって温かいご飯が食べたい。冷たくて味のしない病院食には飽き飽きなのだ。でも塩振っただけの猪の肉も美味しいね。がぶり。

 

夕食を食べたらやることがなくなった。鳴良は『寝かせて、お願い』といって死んだように横になっているし周軒は『私は交代で見張りにつくから今晩はここに戻らない。休めるならもう休んだ方がいい』といって馬車から出て行った。ろくな灯りもないし詰碁も解けないし私も寝た方が良いのかもしれない。

 

だけど、なんか寝付けない。なんとなく外に出て空を見上げる。

 

星天だった。夜空に浮かぶ星が煌めき、丸い月がぽっかりと浮かぶ。異世界で見る空もあまり変わらないなと思った時ガサガサという音が茂みから聞こえた。

 

目を向けると暗闇の中に満月が2つ浮かんでいた。星のない暗闇の中で2つの月だけがくっきりと浮かんでいる。

 

目だ。あれは何物かの目だ。

 

野生動物か何かだろうか。猪?それとも狼?危険かもしれない。だけど目が離せなかった。

 

向こうもジッとこちらを見つめている。お互い動かずにいる。

 

刹那、白刃が煌めいた。

 

「黒獣が出たぞッー!総員、武器をとれーッ!!!」

 

何処からか現れた周軒が月を斬りつける。瞬間、ギャオォーーンッッ!!というなんとも形容し難い獣の叫び声が辺りに響いた。

 

それと同時に暗闇の中にいくつもの月が浮かんだ。今度は月だけじゃない。鋭く尖った牙が涎を垂らしながら口を開き闇の中で吠えた。

 

「アオオオーーーーンッッ!!」

 

「星天、無事か」

 

「うん、大丈夫」

 

「なら、馬車に入っててくれ。すぐに済む」

 

周りにいた兵士達が闇に溶けるような黒い獣に斬りかかっていた。周軒の指示に従い馬車に入ると鳴良が起きていた。

 

「え、なに。盗賊?襲撃?何が起きてるの?」

 

「周軒は黒獣が出たって言ってたよ」

 

「黒獣!?こんな西都との街道にも出るんだ」

 

びっくりした顔で鳴良がいう。狼っぽかったけどあんな闇に溶けそうな真っ黒な獣は私の世界にはいなかったと思う。この世界特有の害獣かな。

 

「黒獣って何?」

 

「俺も見たことはないけど目が金色で角があって後は真っ黒な獣だって聞いている。黒獣はヤバいよ。人を襲うし動物を襲うし植物を枯らす。ありとあらゆる命を奪う獣、それが黒獣なんだ。黒獣が命を奪った後の土地は黒く染まって、黒地点(こくちてん)って呼ばれてるんだけど、そこでは何の作物も育たず命も生まれない。死の土地となるんだよ」

 

鳴良が黒獣について教えてくれる。黒獣は人間や動物を襲うし、植物を枯らすし、枯らした後の土地を命の育たない土地に変えるし、ととても厄介な獣らしい。本当にやばすぎない?死神の化身か何かだろうか。

 

「黒地点になったら終わりじゃん」

 

「一応、しばらくしたら元に戻るらしいけど、でも黒獣がいると黒地点は広がっていくらしい。だから黒獣は厄介なんだよ」

 

「そうだな。黒獣は見つけ次第必ず倒さなければならない」

 

周軒が中に入ってきた。剣は持っているがパッとみ怪我をしたようには見えない。ご無事でなにより。

 

「黒獣は倒せた?」

 

「ああ。弱点はわかっているからな。数が多くなければ倒せない相手ではないんだ」

 

「弱点?」

 

「目だ」

 

周軒が剣を鞘に収める。ツカについていた装飾品の紐についた鏡がきらりと光る。

 

「ひとつ奪えば暫くすれば黒獣は死ぬ。ふたつとも奪えばすぐに絶命する。倒したとしても煙のように消えていくからあれを生き物と言っていいのかはわからんが」

 

周軒がふーっと息を吐く。黒獣の弱点はあの金色に光る2つの目らしい。目が弱点なんて囲碁みたいだね。碁も目が2つないと石は生きられないから。

 

「星天、以前この国では藩同士が揉め事を起こした際に武力を行使するのを禁じているという話をしただろ?あれは黒獣がいるからだ。国軍は全て黒獣との戦いに力を使っている。だから人と人との争いに武力を使ってなどいられないのだ」

 

「黒獣はたくさんいるの?」

 

「国内ならたまに数匹点々と現れるだけだが、東の方に向かえば黒天元という巨大な黒地点がある。朱雀国、青龍国、玄武国ともどこかしら黒天元と隣接しているから、四ヶ国ともこれ以上広がらないようにするのに必死なのだ」

 

周軒の話になるほどと合点がいく。黒獣というヤバすぎる獣がいてその討伐に戦力を使いたいからこの世界では藩同士でも国同士でも武力行使することがないんだね。でも争いは起こるからその解決を囲碁の勝敗に委ねているのか。

 

『他に黒獣がいないか、見回りに行ってくる』といって周軒は出て行った。

 

正直黒獣についてはなんの戦力にもならないしわからないから周軒がんばって。囲碁はがんばるから。

 

 

 





第二章 完!
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